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この日プロトンがほんの脇を通過したローマには、幸いにも、大きな異変は起こらなかった。5月11日に地震が起こると噂され、多くの市民が恐怖に慄いていたのだが……。ところが大地の異変は、シチリア島で起こった。1月にすでに噴火を起こしていたエトナ山が、水曜日から木曜日にかけての夜に、大量の火山灰を撒き散らしてしまったのだ!ご存知の通り、3日後の第9ステージに、ジロ一行はエトナ登山を予定している。「何のリスクもない。問題があるのはステージの最終4kmだけで、地元スタッフがすでに火山灰の清掃作業にあたっている。われわれ開催委員会は心配していない」とアンジェロ・ゾメニャン開催委員長はコメントしており、現時点では、予定通りにステージは行われる。ただしエトナ山から程近いカターニア空港は、火山灰のせいで12日は全日閉鎖された。選手たちは15日、第9ステージ終了直後に、このカターニア空港からアドリア海岸の休養地へと飛ぶ。もしも閉鎖が長引き、飛行機が離陸できないときは……、チームバスか船での移動を余儀なくされるのだろうか。
スタートからゴールまで延々とアップダウンが連なる「クラシック風」の今ステージは、速いリズムで始まった。ただし9km地点でユッシ・ヴェッカネンとクリストフ・ヴァンデワールが飛び出し、14km地点でヤロスラフ・ポポヴィッチ、サチャ・モドロ、フレデリック・ヴァウケレンが後を追うと、あっさりとエスケープ集団が完成する。第2ステージと第5ステージはさびしい単独引逃避行だったが、この日は5人のグループが、南イタリアの明るい光の中を先行した。
逃げを許したとは言っても、後方がのんびり落ち着いてしまったわけではない。マリア・ローザ擁するラボバンクが、几帳面なスピードコントロールを行った。「できる限り長くジャージを守りたい」と願うピーター・ウェーニングと、前を行く5人の中で最もタイムの良いポポヴィッチとの差は5分35秒。だからエスケープには最大5分40秒差しか与えようとはしなかったのだ!その後も急激に前を追い詰めるでもなく、きっちりと安全圏内でタイム差をキープし続けた。
コントロールではなく、追い上げを担当したのはファルネーゼヴィーニだった。イタリアチャンピオンのジョヴァンニ・ヴィスコンティと、前日のハードな「白い道」ステージで5位に入ったスプリンターのオスカル・ガットを前方で勝負させようと、残り70km地点からプロトンを激しく牽引し始めた。ただしほかのチーム……特にスプリンターチームは積極的にプロトン制御に加わろうとはしなかった。「今日はスプリンターステージとは言えない。あれだけの起伏を越えた後に、マーク・カヴェンディッシュにスプリントの脚が残ってはいないだろう」と、HTC・ハイロードはそもそも最初から諦めていたようだ。たしかに1週間後のジロ離脱を早くも宣言しているカヴェンディッシュは、ラスト20km地点の急勾配でさっさとメイン集団から遅れている。ロビー・マキュアンやロバート・ハンター、フランチェスコ・キッキなどのスプリンターたちも、それぞれのグルペットを見つけてゆっくりとゴールへ向った。ただダニロ・ホンドにエスコートされたアレッサンドロ・ペタッキの姿だけが、常に集団前方で見え隠れしていた。この2人の存在を、フランシスコホセ・ベントソも見逃さなかった。
プロトン加速の知らせを耳にすると、前方の5人はいっそう逃げる脚に力を込める。しかし残り43kmでモドロがついていけなくなり、残り21km地点でヴィッカネンも脱落し、3〜4%の勾配が続く最終10.75kmの上り坂に突入する頃にはリードは1分を下回っていた。そして文字通りのラストチャンスを求めて、グランツール初挑戦のクリストフ・ヴァンデワールが1人飛びだしたが、非情にもラスト1.5km地点で長い逃げに終止符が打たれたのだった。
追い上げてきたメインプロトンは、決して一枚岩だったわけではない。前方できっちり隊列を組めるスプリントチームがいなかったせいだろうか?地元ステファノ・ピラッジィが何度も飛び出しを仕掛け、さらにラスト10kmに入ると数限りない大小のアタックが乱れ飛んだ。出場停止明けの初ジロを戦うエマヌエーレ・セッラや、同じくダニーロ・ディルーカも復帰アピールを行って……。しかしアップダウンをたっぷり216kmに渡ってこなしてきた果ての、ラスト150mは、真のスプリンターによる一騎打ちの場となった。ホンドに全てのアタックを潰してもらったアレッサンドロ・ペタッキ vs. ランプレコンビから目を離さなかったフランシスコホセ・ベントソ。トルコツアーで登坂力を見せ付けた37歳ペタッキは、ところが「酷いエネルギー低下」で、勝利までわずか数十メートルを残したところで突如動けなくなってしまう。一方で1週間前に29歳になったばかりのベントソは、「途中で何度も千切れそうになった」そうだが、最後まで脚を止めなかった。ベントソにとっては今季5勝目、2006年ブエルタ以来となるグランツール2勝目だ。ちなみに5年前のスペインでは微妙な下り坂ゴールを制したのだが、ここイタリアでは4%の上りをものともしなかった。
今大会2勝目こそつかめなかったが、区間2位で20ポイントを手にしたペタッキは、ポイント賞のリードをさらに広げることに成功した(2位と13p差)。また前ステージ単独大逃げのマルティン・コーラーは、もう1日、山岳賞ジャージに袖を通した。メイン集団でゴールしたピーター・ウェーニングも、2秒差の総合首位をしっかりと守りきっている。ただし翌日第7ステージは、今大会初の難関山頂フィニッシュ。マリア・ローザやマリア・ヴェルデの持ち主は、そして総合上位の顔ぶれは、がらりと変わるだろう。スプリンター向けの赤ジャージだって、ヒルクライマーが着ることになるのかもしれない。ジロでは、平地だろうが山だろうが、与えられるゴールポイントは変わらない。
●フランシスコホセ・ベントソ(モヴィスター チーム)
区間勝利
大会前からこのステージのことは頭にあったんだ。この軽い上りゴールは、ボク向きだと思っていたからね。実際は距離が非常に長かったし、すごくハードだった。だけど最後までしがみついて行って、ついに勝利を手に入れることができた。本当に嬉しい。
ラスト10kmは、地形的にはそれほど難しくはなかった。でもスピードがものすごく速かったね。だから何度も千切れそうになったよ。トンネルを抜けて、ようやく楽になった。難所を乗り切れたぞ、とここで確信したんだ。ラスト1kmでペタッキの背後に入った。ホンドがあらゆるアタックを上手く潰していたから、ペタッキの後ろがベストポジションだと思っていたんだ。ペタッキはボクを引き剥がそうとしてきたけどね。そしてラスト500mでディルーカがアタックした。それでもボクは、自分にぴったりの距離が来るまで、じっと待ち続けたんだ。
飛び出したあとは、ペタッキにやられるんじゃないかと心配した。彼はボクを追い越そうと猛スピードで迫ってきたし、ボクも追い越されるんじゃないかと怖かった。もうダメだ、とも思ったよ。でも突然、ペタッキはラスト20mで脚を止めて、減速していった。そしてボクは、彼をやり過ごすことができた。本当に接戦だったね。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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