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前夜のパフォーマンスは、ちょっとした予告編に過ぎなかったようだ。「スプリンター向け」の第8ステージでは、650mという極めて短い上りで奇襲を成功させていた。そして正真正銘ヒルクライマー向けの本編では、山頂フィニッシュまで7kmを残した地点で、ひらりと前に飛び出した。前日は17秒を巻き上げたに過ぎなかったが、この日は1分以上の大損害をライバルたちに軒並み食らわせた。そして2007年ツール・ド・フランス以来、出場した全てのグランツールを勝ち取ってきたアルベルト・コンタドールは、かつてなかったほど素早く、開幕わずか9日目にして総合リーダージャージを手に入れた。
4日前に火山灰を吹き上げたエトナ山とシチリア島は、無事にばら色のコースを迎え入れた。シリチア島にジロが戻ってくるのは、2008年に大会開幕を祝って以来3年ぶり。確かあの年は「ビーチでバカンスを楽しんでいた」コンタドールが、大会数日前に急遽呼び出されて、区間勝利のないまま総合優勝だけをさらいとってしまったのだった。この日のスタート地となったメッシーナ生まれのヴィンチェンツォ・ニバリは、当時は23歳で、もちろん未だマリア・ローザ候補に上げられる器ではなかった。また幼き頃からシチリアのパレルモで育ったジョヴァンニ・ヴィスコンティが、大逃げを利用して、8日間マリア・ローザを着用した年でもある。今年と同じ、緑白赤のイタリアンチャンピオンジャージの持ち主だった。
そして今ステージも、ヴィスコンティが逃げを先導する。スタートから猛スピードで走り出したプロトン前方で、約1時間に渡ってアタックの試みを繰り返し、ついに50km地点で飛び出しを成功させた。大会2度目の大逃げを始めたヴィスコンティに加えて、今大会やはり何度もアタックを仕掛ける姿が目撃されているヤロスラフ・ポポヴィッチや、序盤2日間マリア・ビアンカを着用したヤン・バークランツも逃げ集団に滑り込んだ。しかし前方の9選手が後方プロトンから許されたタイム差は最大5分。途中でマキシム・ベルコフが後方から単独追走——プロトン用語でいうところの「芋ほり」——を仕掛けたこともあったが、9人の連携体制は2度目のエトナ登坂に突入するまで静かに続けられた。
上りで最初に仕掛けたのは、バークランツ。ヴィスコンティや「暫定」マリア・ローザのパブロ・ラストラス、マティアス・フランクも粘った。しかしゴール前9kmで、再びバークランツが加速を見せ、ついには1人で山頂へと向い始めた。メイン集団との差はいまだ1分45秒ほど残っていた。
ただし、ゴール前9kmというのは、最適なアタック場所ではなかったようだ。またメイン集団からは9.5km地点で2005年ジロ山岳賞ホセ・ルハノが単独で飛び出していたが、どうやらここでもなかった。コンタドールとチームマネージャーのビヤルヌ・リースがあらかじめ目をつけていた場所は、ゴール前8kmから5kmまでの地点。この3kmは平均勾配が8.5%、最大が12%で、まさしく、2度のエトナ登坂の中で最も勾配の厳しいゾーンだった。つまり周りのライバルたちが一番苦しみ喘いでいる場所で、コンタドールは攻撃に転化したのだ。
ミケーレ・スカルポーニだけが、コンタドールのアタックにしがみつこうと努力した。1日中働いてくれたランプレのチームメートのために、ポイント賞ジャージを着て山を牽引するアレッサンドロ・ペタッキのためにも、あっさり引き下がるわけにはいかなかったのかもしれない。しかし前を行くルハノとあっさり合流したコンタドールの、軽快なリズムについて行けたのはわずか1kmだけ。無理やり喰らいついて無駄に体力を消耗するよりも、自分のリズムで淡々と走ることを選んだニバリやロマン・クロイツィゲル等々にも、結局は追い越されてしまうのだった。
バークランツを追い越して、ルハノを振り落として、コンタドールはたった1人で山頂にやって来た。ライバルからできるだけタイム差を開くために、フィニッシュラインギリギリまで速度を緩めずに。そのせいか得意のバキュ〜ンは少々威力が弱かったけれど(どうやら自分が先頭かどうか不確かだったのが理由とのこと)、おかげで総合ライバルのステファノ・ガルゼッリ(ボーナスタイム8秒)、ニバリ、クロイツィゲルを50秒、イゴール・アントンを59秒、スカルポーニを1分07秒…(それ以外の主要選手を軒並み2分以上)…、自らのペダルで突き放した。もちろん、そこにボーナスタイムが20秒。総合では2位コンスタンティン・シフトソフとの差をすでに大量59秒にまで開き、4位ニバリを1分21秒差、5位スカルポーニを1分28秒差に追いやった。ちなみに過去制覇した5回のグランツールでは、1度手に入れたリーダージャージを、コンタドールが手放すことは決してなかった。わずか1日たりとも。
ちなみに2008年ジロでは、大会後半に、イタリアメディアが「イタリア勢よ、団結せよ」と呼びかけたものだった。強すぎるコンタドールに立ち向かうためには、イタリア勢がチームの枠を超えて協力し合うしかない、と訴えたのだ。今大会開幕前のコンタドールは、こんな風に笑っていた。「でも実際は、イタリア選手たちが全員一致でボクに襲い掛かってくることなんかなかったよ。だから今大会も、そのことに関しては心配していない。まあ、実際にイタリア勢が一致団結したって、ただボクは受けて立つだけなんだけど」。1回目の休養日を終えたあと、果たしてライバルたちはどう動くのか。2011年ジロ・デ・イタリアはまだ2週間残っている。
●アルベルト・コンタドール(サクソバンク)
区間優勝、マリア・ローザ、マリア・ロッソ・パッショーネ
結果にすごく満足している。ひどくタフな1日だった。ステージ序盤は極度にスピードが上がって、多くの選手が飛び出しを仕掛けてきたからね。でもエトナの最初の登坂で、すごく調子がいいと感じたんだ。さらに2度目に入ったときも調子が良かったから、今日はボクの日になるだろうと予感していた。上りではスカルポーニに警戒していた。また強風が吹いていたから、風にも気をつけなければならなかった。昨夜、監督と話し合いをして、もしも調子がよければフィニッシュライン前の8kmから5kmまでの間にアタックをかけようと決めていた。そして一旦ギャップを開いたあとは、全速力で前に進んだ。勝つことができて、本当に嬉しいんだ。
特にマリア・ローザを取ろうとは考えていなかった。とにかくライバルからタイム差を広げたかっただけ。今日は総合争いにおいては大切な1日になった。ある意味、今日までジロは始まっていなかったのかもしれない。ただしレースはこれからも続くし、難しいステージがたくさん残っている。この先何だって起こりえるのさ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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