人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2011年5月19日

【ジロ・デ・イタリア2011】第11ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

この日の午前中、ベルギーはヘントの教会で、ワウテル・ウェイラントの葬儀が執り行われた。ジロ・デ・イタリア第11ステージのスタート前には、レース中に去って行った仲間の死を悼んで、1分間の黙祷が捧げられた。第3ステージの夜には、世界中の自転車関係者・世界中のファンが涙した。そして同じく涙を流し、あれ以来ウェイラントのことを考え続けてきたというジョン・ガドレが、美しき勝利をつかみ取った。フィニッシュラインでは両人差し指を高く突き上げ、プロトンの想いを空へと送り出した。

地形はまるでワンデークラシックを思わせるようにうねっていた。ただしクラシックレースとの違いは、距離が非常に短いこと。200kmを過ぎてから興奮が高まるクラシックに対して、この第11ステージは144kmと極めて短い。だからのんびりしている暇なんてなかったのだ。「まさに全てのチームが戦いに繰り出したね」とマリア・ローザのアルベルト・コンタドールが語ったように、スタート直後からプロトンをフルスピードで飛び出すと、激しいアタック合戦を繰り広げた。21km地点ではスプリンターのアレッサンドロ・ペタッキさえも飛び出しを仕掛けた。一旦出来上がった8人の逃げ集団には、第2ステージ勝者のペタッキはもちろん、第3区間アンヘル・ビシオソ、第6区間フランシスコホセ・ベントソ、第7区間バルト・デクレルクという4人の区間勝者が含まれていた!未だに勝利を追い求める大多数の選手たちが、もちろん、勝手な振る舞いを許すはずもない。またしても猛烈なチェイスが巻き起こり、44km地点で謀反者たちは回収された。

ワンデークラシックとのもう1つの違いは、選手たちが求めるものが、ただ純粋なるフィニッシュライン上の勝利だけではないこと。グランツールも中盤に差し掛かり、そろそろ複雑に利権が絡み合ってきた。この日もマリア・ローザを守りたい者と、マリア・ローザを奪いたい者の、それぞれの計算がレース展開に大いに影響した。64km地点で9人が飛び出し、さらに2人が追いつき11人のエスケープが出来上がると、激烈なアタックバトルはようやく収拾に向った。しかし前方集団には、1分19秒遅れで総合3位につけるクリストフ・ルメヴェルがいた。総合首位からわずか2分56秒差のスティーフェン・クルイシュウィックもいた。そしてほんの5kmほど逃げただけで、それぞれが暫定マリア・ローザと暫定マリア・ビアンカの座についてしまった。「29日にミラノでマリア・ローザを着ていることが目標」と何度も公言しつつ、だからといって一旦手放してもいいかな……とは絶対に口にしないコンタドールは、自らのチームメートをプロトン前方にきっちり配置した。

両者のにらみ合いは、延々と2分差程度で続いた。途中でルメヴェルのチームメート、ムリリョ・フィッシャーやデーヴィット・ミラーが、マリア・ローザの元へ内緒話に訪れる場面も見られた。密約成立だったのか、交渉決裂だったのか、それとも単なる世間話だったのか。ガーミン・サーヴェロの監督が「ジャージコントロールを一旦放棄する意味でも、ルメヴェルにジャージを譲ってくれるといいんだけど」と願望を漏らしていたのは事実で、確かに、ひそひそ話の後はほんの少しだけ集団の速度が緩まったように見えたが……。しかし他チーム、主にファルネーゼヴィーニ・ネーリソットーリやアンドローニジョカットリなども加速を始めて、結局はサクソバンク・サンガードは仕事を続けざるを得ず、エスケープ集団は徐々に追い込まれていった。

ルメヴェルの暫定マリア・ローザは、ラスト28km地点で終わりを告げた。すると、まるでこのときを待っていたかのよう、先頭集団からダニエル・モレーノがアタックを仕掛けた。さらにはラスト14.3km地点の中間スプリントポイントで、ルメヴェルが必死に2位通過のボーナスタイム4秒をつかみとった直後、イグナタス・コノヴァロヴァスが矢のように飛び出していった。山岳巧者とTTスペシャリストの2人はラスト10km地点で落ち合い、一方、残された選手たちは1人ずつ後方集団へと飲み込まれていった。

勾配の緩やかな部分ではコノヴァロヴァスがルーラーの脚で強烈に引き、勾配がきつくなるとモレーノが前を担当した。しかしラスト1kmの上りは少々厳しすぎた。7%を越えるゾーンでコノヴァロヴァスの足が止まり、ラスト350m前後の最難関10%ゾーンで、モレーノは後続集団から飛び出してきたガドレに追い抜かれてしまった。

1999年にローラン・ジャラベールが8日間マリア・ローザを着用して以来のフレンチピンクが誕生するか……と注目されたステージは、最終的には、別のフランス人による区間勝利で締めくくられた。32歳のガドレにとっては、嬉しいグランツール初勝利。ただしマルコ・パンターニが憧れの選手だと語るヒルクライマーは、イタリアではすでに実力者として大いに認められていた。2006年ジロの難関山岳ステージで3度トップ10に入っており(その後鎖骨骨折でリタイア)、昨ジロでも総合13位で終えている。とくに昨大会はイタリア公共放送局Raiのゴール後の生中継番組にも何度もゲストとして呼ばれており、ファンからの認知度も高い。ようやく自分に見合った勝利を手に入れることができた、と自信をつけるガドレは、年頭から目標としていたジロトップ10入りを本気で目指しに行く。現在は12位で、10位との差は14秒だ。

一方で逃げで体力を使い切ってしまったルメヴェルは、最終盤の加速についていくことができず、結局コンタドールから9秒を失った(ボーナスタイムがなければ13秒だった)。総合順位も3位から4位へ後退。骨折り損のくたびれ儲けだったのは、ミケーレ・スカルポーニも同じか。今大会すでに何度もお目にかかっているラスト1〜1.5kmでのランプレ・ISD猛加速は、スカルポーニの8位で幕切れを迎えた。チームメート、モレーノの代わりと必死でスプリントしたホアキン・ロドリゲスも、今シーズン何度目かの2位で終わっている。


●ジョン・ガドレ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)
区間勝利

今日は1日中、ウェイラントの葬儀のことを考えていた。確かにボクはベルギー人ではないけれど、自転車界は大きなひとつの家族なんだ。だから彼のためにどうしても勝ちたかったし、その思いをモチベーションに変えた。彼が命を落としてから、落車のことが頭から離れない。いつなんどき、どんな場所でも、全ての選手に起こりえることだからね。ゴール前のジェスチャーは、写真や映像のためにやったわけじゃない。ずっと彼にオマージュを贈るチャンスを探していたからなんだよ。だから本当に嬉しかった。

前に2人走っているのが見えたから、アタックを仕掛けようと思った。脚も十分にあったし、チームメートも助けてくれた。でもそれほどうまくいくとは思っていなかったんだ。前に誰も居なくなって、ようやく、きっと行けるに違いないと確信した。ラストは非常にテクニカルで、ちょっとシクロクロスのコースみたいだった。つまりこういったゴールで、どうやってスピードをキープするべきなのか、ボクは完全に熟知していた。もちろんキャリアで最も美しい勝利だよ。最高に満足している。休養日が明けてから調子がドンドンよくなっている。ジロにはまずなによりも区間を獲りに来た。それは達成された。だからこの先は目標を総合上位入りに絞り込めるし、それに対する自信もついた。トップ10入りは不可能ではない。この先の難峠で、雨が降ってくれることを願っているよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ