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サイクル ロードレース コラム 2011年5月26日

【ジロ・デ・イタリア2011】第17ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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イル・トリコローレは栄光の台座から転がり落ちた。イタリア統一150周年を記念して、特別なゼッケンナンバー「150番」をつける名誉を与えられたジョヴァンニ・ヴィスコンティが、「イレギュラーなスプリント」で降格処分と200スイスフランの罰金処分を下されてしまったのだ。イタリアナショナルチャンピオンは1番にフィニッシュラインを越えたが、公式成績では、一緒にゴールしたほかの2人を下回る区間3位と記録された。

気だるいような、蒸し暑い1日だった。恐ろしいドロミティ3連戦を乗り切り、勝負の山岳タイムトライアルを終えたジロ一行には、しかし、涼しい日陰でほっと一息つく暇などなかった。難易度こそ「★★★」(5つ星が最難関)に指定されていたが、距離は230kmの超ロングコース。しかも今大会あまりのチャンスの少なさに苦しんできた大逃げ野郎たちが、ここぞとばかりにアタックを試みた。おかげでスタート直後から大量の選手が逃げては吸収され、吸収されては再び逃げ……と繰り返し、序盤1時間の時速は47.9kmまで跳ね上がってしまった!猛スピードの睨みあいは延々1時間以上も続き、ようやく、50km地点を過ぎた頃に大きなエスケープ集団が出来上がった。

16人の逃げ集団ができあがっても、プロトンのはやる気持ちはまるで落ち着かない。メイン集団でリクイガス・キャノンデールが隊列を組み、激しいスピードコントロールに努めたからだ。なにしろマリア・ローザのアルベルト・コンタドールも、総合2位ミケーレ・スカルポーニも、総合4位ジョン・ガドレも、それぞれチームメートをエスケープ集団に送り込んでいる。しかし総合3位ヴィンチェンツォ・ニバリには、前方に誰もいなかった。だから集団をコントロールすべき理由がリクイガス・キャノンデールにはあった。しかも「せめて今ジロ、ステージを勝ちたい」と熱望するニバリは、ゴール前18.5km地点のアプリカ峠からの下りに目をつけていた。ヘアピンカーブが短い間隔で多発し、高いテクニックが要求される下りは、ダウンヒルスペシャリストが全てを振り払うには最適な地形のはずだった。だからこそタイム差がこの日最大の7分45秒まで広がると、リクイガス・キャノンデールのアシストたちはほぼ全員一致で集団前方へ競りあがった。そしてチームエースの戦闘態勢を整えるために、以降100kmにも渡って、必死の牽引を続けた。

ただしアプリカ峠への上りでは、エスケープ集団内の気の早い選手たちによる区間優勝へと向うアタック合戦が始まっていた。特にゴールスプリントを避けたい選手たち、ユベール・デュポンやコンスタンティン・シフトソフが積極的にグループを千切りにかかる。さらに下りで集団は何度か再編成され、全長1200mの最終ストレートに真っ先に飛び込んだのは、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ、ディエゴ・ウリッシ、パブロ・ラストラス、ヤン・バークランツの4人だった。

もしも勝たなくてはならない「義務」というものが存在するならば、4人の中で最も重い義務を背負っていたのは緑白赤の3色ジャージを身にまとうヴィスコンティだったに違いない。だからこそ第7ステージと第9ステージですでにロングエスケープに挑み、この日もスタート前から黙々とウォーミングアップに励んでいた。逃げ切りのために大いに働き、集団内でリレー交替に参加しない選手たちを叱咤した。ゴールスプリント準備に入る際も、怠り無く、ひときわ入念だった。ウリッシが早めに仕掛けたが、きっちりと回収した。さらにバークランツの背後、前から2番目の位置につけて、ライバルたちの動きに最大限に警戒を払った。そしてラスト250mで再びウリッシが飛び出すと、極めて素早く反応を見せた。道路の真ん中付近から左側へ急旋回し、ラストラスの前をすり抜けて……先を行くウリッシとフェンスの間に滑り込んだ。

秒速で進む世界の中で、前方に抜け出せる隙間を見つけられなかったヴィスコンティは、思わぬ行動にでてしまう。右斜め前にいるウリッシのお尻を、2回、強く押したのだ。ウリッシは右中央への路線変更を余儀なくされ、玉突きのような形でラストラスは右端まで大きくはじきだされた。そしてわずかにタイムロスした2人のライバルを差し置いて、ヴィスコンティがフィニッシュラインを掠め取った。

しかし、違反行為は誰の目から見ても明白だった。すぐさま審判団から降格処分が発表された。ヴィスコンティがゴール直後に鼻息荒く「何回も前を空けろとウリッシに言ったのに、彼がフェンス側に幅寄せしてきたんだ。押さなかったら、ボクが転んでた」と主張しても、数十分後には目に涙をためながら後悔を口にしても、当然、処分は覆らなかった。またウリッシが積極的にリレー交替に参加しかなかった苛立ちが、怒りに変わってしまったわけだが、「そんなこと言われても、それが総合を争うチームの戦術なんだ!同じような状況は今まで何百回だって見てきたよ」と代わりに区間1位の座を勝ち取ったウリッシに一蹴されてしまった。それにしても21歳の区間勝者は極めて冷静な男だ。イタリアチャンピオンの怒号にもまるで動じず、大勢のジャーナリストが詰め掛けた記者会見には堂々たる態度。ジュニア時代に2度の世界チャンピオンに輝いており、大物の片鱗はすでに見せていた。今ステージ直後にはヴィスコンティから「パオロ・ベッティーニの後継者」——3年前のジロではこう呼ばれていたものだが——の称号さえも取り上げてしまった!

どつきあいの喧騒から2分59秒後に、ニバリとリクイガス・キャノンデールが必死に率いてきたメイン集団がゴールした。結局、前方集団に追いつくことも、また下りでアタックを仕掛けることもできなかった。確かに集団は35人に小さくなっていたが、全てのライバルたちはそこにいた(日本の別府史之も!)。ニバリは苦笑いで肩をすくめた。総合争いで晴れやかな顔を見せたのは2選手だけだった。逃げに乗って12位から総合5位へとジャンプアップしたシフトソフと、もちろん、ミラノへとまた1歩静かに近づいた総合首位コンタドールである。


●ディエゴ・ウリッシ(ランプレ・ISD)
区間優勝

ヴィスコンティの言い分はおかしいね。今日のような状況はこれまで何度だって見てきたよ。だってボクの仕事は一旦エスケープに乗ったら、リレーを行わずに後ろにただ張り付いていることだったんだから。姿を隠すことだった。ボクだけじゃなくて、引かない選手は最低でも9人もいたよ。サクソバンク・サンガードの選手なんて全く引かなかった。これがチームの戦術なんだから当然のことなんだ。

ボクは少し疲れていたし、ボクにとって初めてのジロだから、3週目に入ってから少し苦しんでいた。今日は上りでも下りでも苦しんだ。だから前に残り続けるだけでも精一杯だった。とにかく集団と共にゴールまで逃げ切ることが大切だった。そしてゴールスプリントに全力を尽くせるように、全てのエネルギーを温存するよう心がけた。ラスト1kmでは、ヴィスコンティがスプリントで一番強いと思っていたから、彼を出し抜こうと長いスプリントを切った。それに少し上り気味だったから、ボクの脚質にも合っていたね。そしてゴールでは、前だけを見て、できる限りトップでフィニッシュラインを駆け抜けることだけを考えた。

ボクはまだまだ若造なんだ。プロ入りしてからたった1年半しかたっていない。チームには本当に感謝している。ボクにプレッシャーをあまりかけずに、のびのびと成長するチャンスを与えてくれる。正直に言うと、自分がどういった種類の選手なのか、自分でもまだ分かっていないんだ。とにかくグランツール3週目に入っても、まだしっかり走れている。この先2、3年成長を続けていけば、ステージレースを戦える選手になっているかもしれない。

●アルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)
マリア・ローザ

非常にスピードが速く、難しい1日だった。最初の1時間は時速48km近くまで上がってしまったし、50km地点過ぎまでエスケープが決まらなかったからね。でも一旦逃げ集団ができたあとは、すぐにリクイガス・キャノンデールやジェオックス・TMCがタイム差コントロールの仕事を始めた。だからボクはとにかくニバリやメンショフから目を離さないように努めたんだ。また1日を無事に乗り越えて、ミラノがまた1歩近づいた。あとはとにかく気を抜かずに、全てを問題なくこなしていくだけ。フィネストレ峠のステージが、スカルポーニとニバリにとっては最後のチャンスになるだろう。彼ら2人を選手としてリスペクトしているけれど、ボクの心は非常に落ち着いているんだよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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