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サイクル ロードレース コラム 2011年5月27日

【ジロ・デ・イタリア2011】第18ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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峠がたった1つしかない短距離平地ステージ。世界的に有名なスパークリングウォーターの故郷サン・ペッレグリーノへと向って、それこそパチパチと小さな泡が飛び跳ねるように、無数の攻撃が巻き起こった。なにしろ強豪クライマーでもない、タイムトライアルスペシャリストでもない、いわゆる普通の選手にとっては文字通り最後の区間勝利のチャンスだった。なんとか自らの体を集団から引きちぎろうと、前に出て行く切符をつかもうと、数多くの選手たちがアタックを繰り返した。

「スタート直後の走行時速ったら信じられなかったよ!」とあらゆる選手が叫んだように、序盤1時間の時速は53.1kmまで上がった。つまり全長151kmのステージの3分の1以上を、たった1時間で走り切ってしまったことになる!しかも、それだけ走ってもエスケープ集団は出来上がらない。従って2時間目も、プロトンは時速50km以上のハイスピードで走る必要に迫られてしまった。蒸し暑い曇り空の下、恐ろしい追いかけっこは延々と続けられた。あまりにも飛び出し合戦が過熱しすぎたせいで、一時はプロトンが小さく細切れとなり、マリア・ローザのアルベルト・コンタドールと総合ライバルたちが小さな10人ほどの集団に取り残されてしまったことさえ……。

別府史之もまた、アタックを仕掛けた1人だった。「今日は片道切符のつもりで走ったんです」と、マリア・ローザ集団でゴールした別府は語ってくれた。「改心の一撃、と言えるアタックも5回くらいは打ったのにな……。まるでスプリント時のような1300ワット近くまで出たんですよ。でも何度も引き戻されてしまった」と苦笑い。ただし調子は非常にいいとのこと。まだ2日間、何かするチャンスは残っていると意気込む。

そして80kmを過ぎたころ、ひとつの塊が抜け出すと、ようやくメイン集団に秩序が戻ってきた。粉々になったプロトンは再び寄り集まり、サクソボーイズもエースの側に戻っていつものように黙々と任務を遂行した。

一方で前方に飛び出した20選手は、すぐに落ち着きを取り戻したわけではない。少々大きすぎる集団をスマートな精鋭集団へと絞り込むために、さらなる加速・攻撃の乱れ打ちが続けられたのだ。おかげで徐々に余計なメンバーは削られていき、この日唯一の峠パッソ・ディ・ガンダ(2級)の上りで、先頭集団はマルコ・ピノッティ、エロス・カペッキ、ケヴィン・シールトラーイェルスの3人が生き残った。

途中で振り落とされたジャンルーカ・ブランビッラやパオロ・ティーラロンゴ、さらには前日の汚名をそそごうとプロトンから飛び出してきたジョヴァンニ・ヴィスコンティが、前を行く3人に追いつこうと必死の努力を見せた。ただし2011年ジロ・デ・イタリアのマリア・ローザ第1号ピノッティは、今ステージが行われた一帯で普段トレーニングを積んでおり、つまり地形の癖を隅々まで知り尽くしていた。また2009年ジロ新人賞シールトラーイェルスも惜しみなくヒルクライマーの脚を発揮。カペッキもここまで総合争いに集中してきたリクイガス・キャノンデールに今ジロ初勝利をもたらそうと、リレー交替にしっかりと加わった。おかげでラスト5km地点にたどり着いたとき、3人は追走選手から1分30秒のリードをつけていた。そこから先は思う存分、区間勝利争いを繰り広げることができたのだった。

シールトラーイェルスとカペッキの両者は、ピノッティを最も警戒していた。タイムトライアルスペシャリストにロングアタックを決められてしまわぬよう、用心深く、何度も後ろを振り返って。時にはペダルを漕ぐ脚ををほとんど止めてしまったことさえあった。そしてラスト1kmに突入してからは、3人はスプリントへのポジション取りに入る。「最後の1kmにはカーブが2回あった。だからまるで鷹のように注意深く、ほかの2人の動きを見逃さないよう心がけた」と、最終的に3人でのスプリントを制したカペッキは振り返る。「最後はギリギリまで粘ったんだ。ボクはスプリントはそれほど速くないけれど、2人よりは速いと確信していたから」。こうして24歳で初めてのグランツール勝利を手に入れた。

2日連続のイタリア人勝利に、ジロ開催国は喜びを隠し切れない。しかもジュニア時代から好成績を上げてきた21歳ディエゴ・ウリッシと24歳カペッキという、将来が非常に楽しみな若者の勝利。コンタドールの独裁に少々意気消沈していたイタリアだったのだが、未来への期待が膨らんだ。「この先の目標はステージレーサーになること。そのためには、タイムトライアルをもっと強化していきたい」とカペッキ本人も大きな夢を抱く。またチームメートの勝利に喜ぶヴィンチェンツォ・ニバリは、総合のライバルたち——コンタドールやミケーレ・スカルポーニ等々——と一緒に、カペッキから6分04秒遅れでゴール地にたどり着いた。ミラノのドゥオーモゴールまであと3日。その前にもちろん、2011年ジロ・デ・イタリア最終決戦、フランス・スイス国境間近で繰り広げられる難関2ステージが待ち構えている。


●エロス・カペッキ(リクイガス・キャノンデール)
区間優勝

実は昨日も今日と同じように、エスケープに乗るようチームから指示されていた。でも昨日は前に行けなかった。ただステージ中はずっと調子がよかったし、ニバリを山岳でしっかりアシストできていたから、今日再びトライすることに決めたんだ。飛び出しが決まるまで、2、3回はアタックしたかな。1時間で50km以上も走ったから、ガンダ峠まで逃げが決まらないんじゃないかとさえ思ったほどだったよ。でも一旦前に出られたら、最後まで逃げ切るんだって心の中で決めていた。どれほど疲れきったとしてもね。

開幕前に考えていたよりも、このジロでは山で上手い走りができなかった。序盤ステージではニバリのアシストさえもしっかり務められなかった。もちろん新人賞争いに加われなかったことも、今回のジロにおける後悔のひとつ。今後はステージライダーとして成長していきたい。この10日間は非常にいい走りが出来ていたけれど、まだまだ成績を上げられるレベルには達していない。ステージレースを戦うために、この先はタイムトライアルを上達させていかなきゃならないね。ボクは常に未来に目を向けているんだ。

●アルベルト・コンタドール(サクソバンク)
マリア・ローザ

序盤1時間は信じられないようなスピードだったね。ちょっとしたカオス状態だったけれど、直接のライバルたちは動きを見せなかったから、ボクには何の問題もなかった。今はミラノでジロを勝つことだけを考えている。日曜日まではジロに集中して、今後のことは月曜日から考えるよ。だからツールやほかのレースの事は今は頭にない。(スポーツ仲裁裁判所が聴聞会を延期したことに対して)そのことはボクの弁護士が担当している。ボクはとにかく走ることだけに専念している。でも、その件に関しては楽観視しているし、心は落ち着いている。ボクはこれまで真実だけを述べてきたのだから、正しい裁きを受けられると信じているんだ。

フィネストレは下見には行けなかった。山頂から7kmまで雪で覆われていて、登ることができなかった。勾配がきつくて、カーブの多い難しい峠だと聞いている。だから楽しみにしているんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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