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前日のステージ終了直後から雷が鳴り響き、夜中にはまるでバケツの水をひっくり返したみたいな大量の雨が天から降ってきた。嫌な黒い雨雲は、この日のコースの上にもついてきた。ここまですでに3週間近く走り続けてきた選手たちは、疲れた体に鞭打って、全身びしょ濡れになりながら、深い霧に覆われた山道をひたすら走った。滑りやすい下りではラッセル・ダウニングが草むらに転がり落ち(最下位27分26秒で完走)、クレイグ・ルイスは道路に体を叩きつけられてリタイアを余儀なくされた。なんとも試練の多いジロである。それでも幸いだったのは、選手たちが山の上にたどり着いたときには、ほんのわずかながら暖かな陽光が降り注いでいたこと。ゴール後には再び、山は激しい風雨に襲われた。決戦の週末、土曜日と日曜日の天気予報にはお日様マークがついているが、果たして!?
ピンク色の衣装を着たサンタクロース。第19ステージのアルベルト・コンタドールはこんな風に褒め称えられ、同時に揶揄もされた。「でもプレゼントをもらえない選手たちは、君のことを恨んでしまわないかい?」なんて。
48km地点でエスケープを始めたジェローム・ピノー、ラルスイティング・バク、マッテーオ・ラボッティーニの3人は、確かに、逃げ切り勝利のプレゼントはもらえなかった。ただしコンタドールやサクソバンク・サンガードが直接的な敗因ではない。それぞれに目標を抱えたアクア・エ・サポーネやチーム・カチューシャが、プロトンのスピードを厳しくコントロールしたからだ。おかげで3人は最大11分50秒ものタイム差を手にいれるも、この日最初の難関、1級モッタローネ峠の接近と共に後方からの追い上げが厳しくなってきた。タイム差はあっという間に1分半ほどにまで縮まって……。
ここでマリア・ヴェルデ姿のステファノ・ガルゼッリがアタックを仕掛けた。第15ステージで大逃げを打って以来、山岳賞争いをリードしているものの、2位につけるコンタドールとのポイント差はたったの11pしかなかったのだ。ミラノでの華やかな表彰式にどうしても出席したいなら、山岳ポイントを積極的に獲りに行く必要があった。飛び出したガルゼッリは、4位通過で3pを獲得。さらにはヨハン・チョップとミカエル・シェレルを引き連れて、そのまま前の3人を捕らえた。しかし残念なことに、どうやらエネルギーを使いすぎてしまったようだ。ガルゼッリは結局この3pしか手に入れられず、しかもコンタドールはプレゼントをくれるどころかゴール地で3pを奪い返してしまった(わざとではないはずだが)。ポイント差はあいかわらず11のまま。第20ステージでは最大24pのポイント収集が可能なため、ガルゼッリはもう1日、注意深く走らなければならない。そして一時は6人に増えた逃げ集団も、チーム・カチューシャにがむしゃらに牽引されたメイン集団に、最終マクニャーガへの登坂途中で吸収されてしまった。
トリノで大会の幕が開いた時、カチューシャのチームリーダー、ホアキン・ロドリゲスは総合争いに食込むつもりだった。あれから3週間たった今、かろうじて総合トップ10内にひっかかっているだけ。ドロミテ3連戦では何度かアタックを仕掛けてもみたが、たいていはコンタドールの猛加速のせいで、その存在はかき消されてしまった。そしてこの日も、サンタは彼に微笑みかけず……。ラスト6.7kmにはパオロ・ティーラロンゴに先行アタックを打たれてしまい、一旦はアシストたちの猛追で吸収するも、5.5km地点に決定打を許してしまった。ラスト3kmではロドリゲス本人が前に飛び出したが、嗚呼またしても、コンタドールに横をすり抜けられてしまった。「別にロドリゲスに恨みがあるわけじゃないんだよ。ただ、総合のライバルたちをかき回したかっただけ」と、1.7km地点で加速を仕掛けたマリア・ローザは苦笑いで語る。
今大会すでに何度も目撃しているように、コンタドールは、本当にあっという間にライバルたちを置き去りにしてしまった。しかしティーラロンゴだけは別だった。なにしろ「今がチャンスだ、行け」とティーラロンゴに2度目のアタックを促したのはコンタドール本人で、ティーラロンゴは「コンタドールがが絶対にボクを抜き去ったりしないことも分かっていた」というのだから。まるでチームリーダーが時にアシストに勝たせるように、コンタドールはティーラロンゴに大きなプレゼントを贈った。昨年1年間アスタナで苦楽を共にし、自らのツール総合優勝に貢献してくれた元アシストに、感謝の気持ちを込めて。そして2000年にプロ入りして以来、アシスト一筋で生きてきたティーラロンゴにとっては、これがプロ初めての勝利となった。すると来年は再び、コンタドールの脇で走るティーラロンゴの姿が見られるのかもしれない……。
「ティーラロンゴの勝利は、ボクの勝利だよ」なんて喜ぶコンタドールは、もちろん、自らの利益を手に入れるのも忘れなかった。フィニッシュラインでは総合3位ヴィンチェンツォ・ニバリを3秒、総合4位ジョン・ガドレを6秒、総合2位ミケーレ・スカルポーニを6秒突き放した上に、ボーナスタイムも12秒手に入れた。総合2位以下との差は4分58秒から5分18秒へと広がり、「タイムトライアルを快適に、リラックスして走る」ためのタイム差はもう十分に手に入れたはずだ。一方で、スカルポーニとニバリのタイム差は34秒へと縮まった。「長くて、雨で……ひどく疲れた。でも今日は今日、明日は明日」と、普段は口がよく動くスカルポーニも、さすがにこの日ばかりは苛立ちを隠せない様子だった。
●パオロ・ティーラロンゴ(アスタナ)
区間勝利
スタート時から何かトライしたかった。アタックを仕掛けたかったんだ。ゴール前6kmで集団が細長くなっていたから、飛び出しを試みた。一旦は吸収されたよ。でもコンタドールがボクの体を軽く叩いて、「今がチャンスだ、行け」と声をかけてくれたんだ。だからもう一度トライした。脚の調子は良かったから、まるでリーダーのために牽引するときのように、全力をかけて飛び出した。ゴール前600mで、後ろに誰か1人選手がいるのが見えた。すぐにアルベルトだって分かった。そして彼が絶対にボクを抜き去ったりしないことも分かっていた。それどころか、少し前を引いて、ボクに一息つく暇さえ与えてくれたほどさ。
コンタドールは非常に強い選手だ。頭がよくて、戦術センスがあり、チームのこともしっかり考えてくれる。またプロトンから非常にリスペクトされている。彼はあらゆるステージレースを勝てるタイプの選手だね。ボクは契約があったし、強いチーム、強いキャプテンがいたから現チームに残った。来年はどうなるかはこの先考えるさ……。
●アルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)
マリア・ローザ
ひどくハードな1日だった。雨のせいで、視界が非常に悪かった。ただしボクは雨を苦手としていないし、最後の上りではすごく脚の調子がよかったんだ。だからあらゆるライバルたちを置き去りにしてやろうと前に出た。もちろん1人だけは別さ。ティーラロンゴは、去年、ボクために多くを尽くしてくれた。彼のおかげでたくさんの勝利が手に入れられたし、ツールも勝てた。だからティーラロンゴが勝ってくれて本当に満足なんだ。
今日の彼は本当に強かった。彼はプレゼントをもらったんじゃなくて、自分から何度もアタックをかけて勝利をつかみにいったんだよ。勝利に値する選手だ。ボクは咄嗟に彼を助けた。そうしたいと思ったからやったまでさ。ボクはマリア・ローザを守れただけで十分だった。大切なのはとにかく総合首位をキープすること。明日はどう動くかは分からない。ただタイム差をしっかりとコントロールして、リラックスしてミラノのタイムトライアルを走れるようにしたい。もちろん明日は、ルハノやスカルポーニ、ニバリがアタックを仕掛けてくるだろうけどね。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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