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サイクル ロードレース コラム 2011年7月3日

【ツール・ド・フランス2011】第1ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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確かに、フランス一周レースが短距離個人タイムトライアルではなく、通常ステージから始まるのは極めて例外的なことである。過去44年間で、全参加選手が一斉に走り始めたのはわずかに2回のみ。それでもラスト9kmまでは、極めてありふれたグランツール序盤ステージの風景が見られたものだ。2011年ツール・ド・フランスのプロトン198選手は、海を切り裂くパサージュ・デュ・ゴワを渡り、3週間の長い旅へと乗り出した。潮の香りに包まれたゼロkm地点で、誰よりも真っ先にアタックを仕掛けたのはヴァンデ地元チーム、チーム ユーロップカー所属のペーリ・ケムヌールだった。そこにジェレミー・ロワとリューウェ・ウェストラが合流すると、後続集団から6分半分ほどのタイム差をあっさりと頂戴する。

中間スプリントの戦いは、いつもとは違っていた。「ゴールスプリントを最も数多く制した人間がキング・オブ・スプリンタージャージを獲れないなんて……ありえない!」という開催委員長クリスティアン・プリュドムの嘆きが、ルール変更につながった。今年から中間ポイントの数が1カ所に絞り込まれる代わりに、ポイントを獲得できる選手数は3人から15人へと増加。「今後は中間ポイントとゴールラインの2箇所で、トレインを組んだ本格派集団スプリントが見られるだろう。例えば5人のエスケープを逃してしまった場合でも、あと10人はポイントが取られるんだから。しかも8位通過よりも、6位通過の方がいいに決まっているさ」と、過去6回マイヨ・ヴェールに輝き、現在はHTC・ハイロードでスプリント指導を行っているエリック・ツァベルは語る。その通り、本日のエスケープ3人が中間ポイントを通過してしまったあとに、いまだ残る12枠を巡って熾烈なスプリントが繰り広げられた。多くのチームがトレインを作り、タイラー・ファラーが4位=後続集団トップの座に滑り込んで13ptを手に入れた。過去3年のツールでゴールスプリントを最も数多く制してきたマーク・カヴェンディッシュは、この日の中間スプリントでは11位=後続集団8位に終わっている。

落車が多いこと自体は、グランツール序盤の恒例の風景のひとつに違いない。この日も選手たちは細く曲がりくねった田舎道の側溝に投げ出されたり、道路に強くたたきつけられたり。小さな集団落車も何度か発生した。しかし、ゴール前19kmでやはり「大会最初の通常ステージの通例に従って」エスケープの3人が吸収されたあと、ゴール前9.3km地点で大きな異変が起こる。とてつもなく大規模な集団落車——。実際に地面に転がり落ちたのは10人程度だが、そのせいで、約100人もの選手が脚止めを食った。そして後方に取り残された選手の中に、アルベルト・コンタドールの姿があった。大会3連覇を目指す王者は、必死の追走を試みる。しかし前方では区間優勝に向けたトレインに、総合を目指すチームが上手く乗っかって、タイム差を開きにかかる。思わず転がり込んできた絶好のチャンスを、ライバルたちは逃すはずもない。

ちなみにその後ラスト2.2km地点での集団落車で、アンディ・シュレク、イヴァン・バッソ、ロベルト・ヘーシンクという優勝候補たちがやはり一旦停止を余儀なくされている。しかし上述の集団落車で前方グループに入り込んでいた3人と、コンタドールの状況は違う。「ラスト3kmのタイム救済ルール」が適応された3者は、区間順位こそアンディ39位、バッソ53位、ヘーシンク171位とゴール通過の順位そのものが記録されたが、タイム自体は区間3位の選手と同じ「首位から6秒遅れ」と記録された。一方、区間35位のコンタドールはこの3人よりも前にフィニッシュラインを越えながら、記録されたタイムはこの3人より1分14秒遅れ。つまり大会初日にして、優勝大本命が大きなハンディキャップを背負うことになってしまった。

「タイム差を埋めるのは至難の業だろうね」とコンタドール自身は認める。もちろん「まだツールは長い。前向きに、モチベーションを持って走り続けなければならない」と、諦めてしまったわけではない。過去ツールを5回制したベルナール・イノーは「優勝レース脱落?何を言っているんだ!一番注目しなければならないのは、コンタドールがケガをしなかったこと。つまり、残り20ステージ、彼は元気に走れるんだ。山がくれば、これくらいのタイム差なんかどうにでもなる」と注意を喚起する。そして最大のライバル、アンディ・シュレクはこんな風に語った。「確かにペダルの力で突き放したわけじゃないけれど……。もしかしたら、上手いことやったのかもしれないね」

一番上手いことやったのは、フィリップ・ジルベールだった。ゴール地モン・デザルエットの上り自体は、ジルベールがこの春制したアルデンヌ3連戦の最終坂に比べるとかなり緩やかで、パンチャーよりもむしろ「上りもこなせる」スプリンター向けだと考えられていた。しかし、4月13日フレーシュ・バルバッソンヌから始まった全戦全勝(ワンデー5勝+ステージレース区間2勝・総合2勝)の勢いは、地形にも、ライバルにも、何にも止められることはなかった。

「スタート前から、カンチェッラーラのアタックに最も警戒していた」と、春クラシック後半戦の王者は振り返る。春クラシック前半戦でライバルの張り付き作戦に苦労させられたカンチェッラーラは、ジルベールの読み通り、ラスト800mで飛び出した。「カウンターアタックで飛び出した。彼の大好きなやり方だよね。でもサプライズ効果は少なかったんだよ」とジルベール。しかも「ボクはすぐ後ろに張り付いた。でもすぐには追い越さなかった。彼に『行ける』と信じ込ませて、働かせるためだよ。さもないと、彼は脚を緩めてしまうと思ったから。そして残り500mで加速すると、ボクは1人先頭に踊り出た」

非常に賢く冷静に勝利を手に入れたジルベールは、お披露目初日だったベルギーチャンピオンジャージの上に、念願のマイヨ・ジョーヌを着込んだ。新色プラチナブロンドの髪は、黄色いジャージにも良く似合った。まるで準備していたかのように、手首には黄色い真新しい腕時計も巻かれていた。実は7月2日は新妻パトリシアさんの誕生日だったそうだ。次は自らの誕生日……7月5日の第4ステージ「激坂」ゴールでの区間優勝を狙っている。


●フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)
区間優勝、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール、マイヨ・ア・ポワ・ルージュ

ゴール前400mで勝利を確信した。そこからはタイム差をできるだけ稼ぐために全力でフィニッシュラインまで走った。チームタイムトライアルでおそらくマイヨ・ジョーヌを失うだろう。でも火曜日の第4ステージに、また取り戻せるかもしれないと考えたからなんだ。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは子供のころからの夢だったけれど、ツールでの区間優勝とマイヨ・ジョーヌもまた、ボクの少年時代からの夢だった。いまだ本当の意味では実感できないよ。きっとこのあと、シャワーを浴びるためにこのジャージを脱いで、ベッドに置いたときに、何か特別な気持ちを抱くんだと思う。

想像もしていなかったほど素晴らしいシーズンになったね。ビッグレースを勝ってきたのはもちろん、4月のラ・フレーシュ・バルバッソンヌ以来、出場したレースを全て勝っているんだから。おそらく記録的な快挙だよね。とにかく素晴らしい出来事だ。あらゆる瞬間を堪能しているよ。そして全ての勝利がチームのおかげでもあるんだ。チームはボクのために信じられないほどの仕事をしてくれた。そして全てのレースで、ボクはチームメートの仕事に報いる成績を出すことができた。

確かにこういったゴール地形では、ボクはもう誰も怖くない。唯一、若いある選手を除いては。そう、サガンなら、ボクを怖がらせて、ボクを打ち負かせるかもしれない。彼は残念ながらツールに出場していないし、今までも一度も対決したことがないんだ。いつかサガンと真っ向勝負をしてみたいね。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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