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「23kmの走りだけで、もちろん、ツールを勝つことはできない。しかし、おそらくツールの3週間の中で、最もストレスを感じる1日となるだろう」。スタート前、BMCレーシングチームのチームマネージャー、ジョン・ルラングはこんな風にチームタイムトライアルについて描写していた。
ベルギーのゾルダーサーキットで何度もチームTTスペシャルトレーニングをつんできたBMCレーシングチームは、ひどく蒸し暑いこの日、集団走行ステージに全精力をかけて臨んだガーミン・サーヴェロの前に敗れ去った。ガーミン・サーヴェロは開幕直前に何度も本番コースで実地練習を重ね、メカやジャージの細かい確認を行い、その結果に基づいてツールメンバーさえも選出したという。「とにかくチームTTでのステージ優勝が最重要課題だった。マイヨ・ジョーヌは二の次だったんだ。トル・フースホフトが何らかのアクシデントで遅れても、『待たない』と決めていたほどだよ」と、TTスペシャリストにしてチームキャプテン、デーヴィット・ミラーは告白する。それほどまでにチーム創設以来、つまり2008年にガーミン・チポレで初めてツール出場を果たして以来「初めての」ステージ優勝にかける思いは大きかった。強風と細く曲がりくねった道をものともせずに、叩き出したタイムは24分48秒11。2位に4秒差、最下位チームに1分22秒差をつける快走だった。
またBMCレーシングチームのリーダー、カデル・エヴァンスはわずか1秒差で総合首位に立つチャンスも失ったが、一方のフースホフトは高速トレインに乗って——いや、自らも大いに牽引に力を尽くして——マイヨ・ジョーヌを奪い取った。2004年に1日、2006年に2日間イエロージャージを着用した経験があるが、世界チャンピオン「アルカンシェル」ジャージの上に重ね着するチャンスはそうそう巡っては来ないものだけに、感激もひとしおだ。ちなみにフースホフトとチームマネージャーのジョナサン・ヴォータースは、2001年ツールでクレディアグリコルの一員として共にチームタイムトライアルを戦い、ステージ優勝をつかみ取ったかつての戦友である。「10年後の……記念日みたいだね!」と、選手本人よりもヴォータースのほうが大興奮の様子である。
エヴァンスはそれでも、優勝「大本命」の地位を勝ち取った。「すでにタイムを大きく失ってしまったから、ボクはもはや総合優勝『大本命』の立場にはいない。今やエヴァンスとアンディ・シュレクこそが大本命なんだ」とステージ後にアルベルト・コンタドールが宣言したのだから!
コンタドールは大会初日に1分20秒も失った。しかも前日のチーム順位が最下位だったせいで……、この日のスタート順位は1番。つまり他チームの中間・ゴールタイムを全く基準にすることは不可能だ。路上に待ち受ける危険や、この日特に強く吹きつけた風には、真っ先に立ち向かわなければならない。絶対的に不利なスタート順である。結局、全22チームで一番にフィニッシュラインを切ったサクソバンク・サンガードは、25分16秒05のタイムを記録した。「チーム全員が新たな1日のために、新たな3週間のために気持ちを入れ替えた。集中し続けていい走りが出来たよ」と、ゴール直後に監督のフィリップ・モデュイは語った。たとえ感覚的にいい走りが出来たと思っても、しかし、ストップウォッチは残酷だった。サクソバンク・サンガードの成績は区間8位に過ぎず、ライバルチームたちの多くがそのタイムを上回った。コンタドールは、新たにタイムを失った。
6番スタートのラボバンクは、25分00秒05で一周を終えた。15番スタートのチームスカイは24分52秒65の好タイムを叩き出した。「区間勝利が出来なかったのは残念だけど、総合争いの面で考えると大成功だね。コンタドールやサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)から、さらに24秒も奪えたんだから」とブラドレー・ウイギンズは笑顔を見せる。総合上位を狙える選手を複数抱えるチーム・レディオシャックは24分58秒86、チーム レオパード・トレックの面々は24分52秒99でゴールした。そしてBMCレーシングチームは24分52秒55。この結果、ロベルト・ヘーシンク、ウィギンス、チーム・レディオシャック勢、アンディ&フランク・シュレク、エヴァンスは、軒並みコンタドールとの総合タイム差を開くことに成功した。ツール2日目にして早くもそれぞれが1分30秒以上の差を保持し、エヴァンスに関しては1分41秒、アンディ・シュレクに関しては1分38秒ものアドバンテージを得ている。そしてこの2人が、過去2回ずつツール総合2位に入っている2人が、大本命の座に押し上げられた。
ただしコンタドールは、戦いを諦めたわけではない。「ここ数年のツールは数十秒差で決している。だからこの遅れはかなり深刻だよね。でもリングにタオルを投げ入れるのは、最後の最後にすること。ボクは決してギブアップしない。パリまで、タイムを取り戻すためにあらゆる手を尽くす。この先の総合争いが、白熱して、ファンたちを喜ばせるような見ごたえたっぷりなものとなるよう願っているよ」。またサクソバンク・サンガードは、レース審判団にタイムの見直しを要求している。第1ステージの最終9km地点で発生した集団落車に巻き込まれ、後方集団で追走を行っていたコンタドールは、ゴール前2.2kmで起こった先頭集団の落車にぶつかって再びブレーキをかけざるを得なかったとのこと。つまり、この2度目の脚止めに関しては、ラスト3kmタイム救済ルールが適応されるべきだとチーム側は訴えている。2度目の落車現場では、フィリップ・ジルベールからの遅れは34秒だった。
●トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)
マイヨ・ジョーヌ
チームタイムトライアルの勝利を、非常に誇りに思うよ。そしてマイヨ・ジョーヌを着ることができて本当に嬉しい。アルカンシェルジャージでツールに出場できることがすごく誇らしくて、今はマイヨ・ジョーヌを着ている。信じられないよ。世界チャンピオンジャージは非常に価値のあるものだけれど、ツールにおいてはマイヨ・ジョーヌが最も大切なジャージなんだ!もちろんツールには様々な野望を抱いて乗り込んだ。でも昨日はパワーが足りなくて、フィリップ・ジルベールに追いつけなかった。でも今日のチームタイムトライアルの成功で、昨日の失敗の苦い味などきれいさっぱり忘れたよ。
チームメートには感謝しても仕切れないほどさ。この勝利は、チームみんなで勝ち取ったんだ。チーム全体で同じ目標のために準備して、練習を積んで、しかも何度も話し合いを持ったよ!本物の「チーム意識」というものを感じたね。しかもガーミンにとってはツール初勝利。チームみんなで表彰台に登ることが出来て、喜びも倍増だった。この素晴らしい勝利に続くように、この先も結果を追い求めて行きたい。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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