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7月4日の、第3ステージ。タイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)の勝利はあらかじめ運命付けられていたのかもしれない。アメリカ独立記念日「インディペンデンスデイ」にアメリカンチームのアメリカ人がステージを制した。そしてなにより、ファラーの親友ワウテル・ウェイラントが命を落としたのは、ジロ・デ・イタリアの第3ステージだった。「彼のために勝ったんだ。だからといって現実は何も変えられないけれど、ただ、君を忘れないよ、と言うためにね」。フィニッシュラインでは両手で2つのVサインをあわせて、天国に行ってしまった「WWスペシャル」にオマージュを捧げた。
大会3日目にして、ようやく比較的静かなステージが訪れた。開幕の地ヴァンデを離れて自転車熱狂の地ブルターニュへと突入するこの日、スタート直後に5選手の逃げをあっさり許すと、プロトンは淡々とステージ序盤をこなした。蒸し暑く、ほとんど風もなく、……フラットとはいっても小さなカーブや起伏が延々と続く細い田舎道。「今日はリラックスしてのんびり走りたいものだね」とマイヨ・ジョーヌ姿のトル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)の願いは叶えられた。ステージが活気付いたのは、104km地点の中間スプリントポイントと143km地点の山岳ポイントのみ。
今大会の目玉のひとつである「中間ポイントルール改正=上位通過15人がポイント獲得」のおかげで、5人のエスケープの後ろでは小さな集団スプリントが行われた。区間勝利は量産するのに緑ジャージがなぜか取れない「マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)のための改正」とも言われており、そのカヴェンディッシュが期待通りに6番目の位置を確保した。……しかし、後にイレギュラースプリントと判断され、ヒジをつつきあったフースホフトと共に、カヴェンディッシュは降格処分を受けてしまう。もらえるはずの10ptは泡と消えてしまった。
また今ステージ唯一の山岳ポイント、ロワール河口にかかるサン・ナゼール橋では、わずかな海風にあおられて軽い分断が発生。プロトンが真っ二つに分かれて、見事な「エヴァンタイユ(扇子)=斜め隊列」が見られたことも。しかし、徐々に集団はひとつにまとまり(数人の脱落組みを除いて)、レースは静けさを取り戻した。
ラスト20kmに差し掛かると、突然、レースは華やかに活気付いた。一時は8分半まで開いたタイム差は、1分にまで縮まっていた。次第に追い詰められていく状況をなんとか打開しようと、先頭集団のホセイバン・グティエレス(モヴィスター チーム)が最後の力を振り絞ってアタックを試みる。ミカエル・ドラージュ(FDJ)もその賭けに乗り、2人は猛スピードで逃げの引き伸ばしをはかった。すでにフィニッシュに向けて加速を始めていたメイン集団も、慌てて追走の脚を強めた。特にスプリンターチームたちがトレインを組み、うなるような速度で追いかける。そしてゴールまで9kmを残した地点で、勇敢な試みは吸収された。
「ラスト5kmはまるでジェットコースターのようだったね!」とコース設計者のフランソワ・ぺショーは、ゴール後に大喜びのコメントを出した。真っ直ぐで広い道はほとんど存在せず、道幅が細いか、上ったり下ったりしているか、それとも曲がっているか、そのいずれかが繰り返されたのだから当然だ。2011年ツール初めての大集団スプリントゴール目指して、少しでも好ポジションを維持しようと、各チームトレインは必死に先頭争いを繰り広げた。カヴェンディッシュ擁するHTC・ハイロードの隊列にまぎれて、チーム・カチューシャやランプレ・ISDの努力する姿が何度も見られた。そのランプレ・ISDからはダニロ・ホンドが前に飛び出し、マルコ・マルカート(ヴァカンソレイユDCM)がトレインを引っ掻き回すためにアタックを仕掛けたりもした。それでもまっしぐらに行軍を進めたHTC・ハイロードだったが、ラスト800mの細い90度カーブが、その堅固な砦を打ち崩す。
「最後のカーブまで、上手くやれると信じていたのに。でもほかの選手、とりわけガーミン・サーヴェロに追い越されてしまった。しかもロマン・フェイユーとホセホアキン・ロハスにはさまれた。転びそうになって、減速を余儀なくされたんだ」と、カヴェンディッシュは振り返る。結局中間ポイントは手に入れられず、ゴールでも5位に沈み、「まるで幸せじゃないよ」とのこと。ちなみに偶然か必然か、この日区間2位に入ったフェイユーは「カヴェンディッシュは好きじゃない。もしも彼がボクの後ろに入ったら、意図的に閉じ込めるだろうね」と前日に語っていた。
多くの選手がブレーキをかけ、しかも落車を引き起こしたこのカーブを、真っ先に抜け出したのはガーミン・サーヴェロのトレインだった。前日にチームタイムトライアルを制した高速列車の、しかも先頭車両は黄色く輝いていた。マイヨ・ジョーヌ姿のフースホフトが、危険を顧みず、チームメイトのファラーのために牽引を行ったのだ!イエロージャージを着た世界チャンピオンの贅沢なアシストを受けて、ファラーは生まれて初めてのツール区間勝利を手に入れた。「今のところ緑ジャージは考えていない」というファラーとフースホフト(区間6位)だが、それぞれ大量ポイントを手に入れて、マイヨ・ヴェール争いでは2位と4位につけている。
大会初日2日間で大きな動きがあった総合争いだが、この日の有力選手たちはみな勝者と同タイムで静かに1日を終えた。
●タイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)
区間優勝
ツールにはすでに何度か出場していたし、何度も集団スプリントを争うチャンスもあった。そしてあとわずかのところで勝てなかったことが何度もあったよ。2位、3位、そしてまた2位。どうしても勝てなかった。でも昨日のチームタイムトライアルで、ボクらは素晴らしい走りを見せつけることができた。そして今日の優勝。ステージ優勝が今ツールの最大目標だったから、ほっとしているよ。ようやくプレッシャーから解き放たれた。
2年前からボクには十分なトップスピードがあると分かっていた。でも、まだ勝てるレベルに達していなかったんだよ。でもボクは真面目にトレーニングを積み、様々なことを学び、そして上達し続けた。今日のような難しい最終盤では、チームの経験が大いにボクを助けてくれた。しかも黄色いジャージを着た世界チャンピオンにスプリントアシストしてもらえるなんて……!本来ならば彼のやるべき仕事ではなかったのに、彼は見事な仕事をしてくれた。おかげでボクは勝利で締めくくることが出来た。フースホフトには、そしてチーム全体には感謝の言葉を送りたい。
この2ヶ月は辛い日々を過ごしてきた。ジロで起こったことは本当に恐ろしく悲しい出来事だよ。立ち直ったかと思えば、また落ち込んだりして、難しいときを過ごしてきた。でも再びレースに出ることに決めたんだ。そしてこのツールでは何か彼のためにスペシャルなことがしたいと思って乗り込んだ。ステージ優勝こそが最高の方法だと思った。この目標を胸に、ツール直前にはトレーニングに全力を注いできたんだ。
●トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)
マイヨ・ジョーヌ
マイヨ・ジョーヌを着てチームメイトの勝利のために働けたんだから、スペシャルな気分だね。今朝のチームオーダーによれば、目標は2つあった。1つ目はマイヨ・ジョーヌを守ること。チームはつねに前方にポジション取りして、パーフェクトな仕事をしてくれた。そして2つめは集団スプリントで終わる場合、ファラーのためのスプリント準備をすること。2つ目の目標も上手く行ったよね。ジュリアン・ディーンとデーヴィット・ミラーがスプリントトレインを牽引する予定で、マイヨ・ジョーヌのボクは危険を冒してはならなかったんだ。でも最終コーナーでファラーが好ポジションにつけているのが見えたから、アシストしようと決めた。ラスト200mまでエンジン全開で走った。
明日は難しい1日になるだろう。ゴール地点のミュール・ド・ブルターニュのことは知っている。かなり厳しい上りで、タイムを大きく失う可能性がある。でも全力を尽くして、マイヨを守るためにできる限りのことをしたい。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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