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サイクル ロードレース コラム 2011年7月7日

【ツール・ド・フランス2011】第5ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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海沿いの曲がりくねった田舎道は、190人以上の大プロトンが高速で押しかけるにはどうやら狭すぎたようだ。ぎゅうぎゅう詰めの集団内では、哀れな選手たちが前方の自転車に乗り上げたり、沿道の草むらに押し出されたり、フェンス際に押し付けられたり、フォトグラファーバイクに転ばされたり。しかも犠牲者リストには有力者の名前がずらり並んだ。ブラドレー・ウイギンズ、ロベルト・ヘーシンク、アルベルト・コンタドール、リーヴァイ・ライプハイマー、シルヴァン・シャヴァネル、トム・ボーネンetc……。「ブルターニュの道というのは、いつも何かが起こるよね。いいこともあれば、わるいこともある」。チームリーダーの1人、ヤネス・ブライコヴィッチを落車リタイアで失ったチーム・レディオシャック監督のアラン・ガロパンは肩をすくめる。「落車の前には何も出来ない。誰だって転ぶ可能性がある。転びたくないなら、レースに出ないこと。それがレースのおきてさ」

自転車チャンピオン、ベルナール・イノーを育てた大地——122km地点の小さな村で生まれた——は、なにも落車だけで賑わったわけではない。スタート直後からはホセイバン・グティエレス(モヴィスター チーム)、トリスタン・ヴァランタン(コフィディス ルクレディアンリーニュ)、アントニー・ドゥラプラス(ソール・ソジャサン)、セバスティアン・テュルゴー(チーム ユーロップカー)の4人が果敢なるエスケープに挑んだ。また2011年大会のお楽しみのひとつ、中間スプリントポイントではこの日も白熱した争いが繰り広げられた。

それにしてもあらゆるスプリンターがあまりにも熱心に中間の戦いに挑むものだから、すでに第3ステージではマーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)とトル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)が降格処分を受けている。今ステージは緑ジャージに緑ライン入りバイク、緑ヘルメットで決めてきたホセホアキン・ロハス(モヴィスター チーム)の、中間ポイント7ptが取り上げられた。理由は他の選手のライン取りを邪魔したから。残酷にもマイヨ・ヴェール表彰式をたっぷり堪能したあとに降格処分が下され、ジャージはフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)の手に渡った。ちなみに当のロハス本人は、フィニッシュ直前にアレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ISD)にヒジ打ちされたとして、審判団に申し立てている。

ラスト45kmでエスケープ集団が吸収されたあとも、自転車熱狂の地は興奮のシナリオを描き続けた。敢闘賞の証「赤ゼッケン」をつけたジェレミー・ロワ(FDJ)が今大会3度目のアタックを仕掛け、トマ・ヴォクレールがあとに続いた。2人は地形の難解さを利用して、長時間のはらはらするような逃避行を演出してみせた。しかもチームの本拠地ヴァンデで思うような活躍が出来ずに「フラストレーションを感じていた」という昨年のフランスチャンピオンは、ロワが吸収されたあとも、意地を見せて残り1.5kmまで逃げ続けたが……。追い風に背中を押され、恐ろしい勢いで追いかけてきたスプリントトレインに、先頭の座を譲らざるを得なかった。

「驚いた」。マイヨ・ジョーヌのトル・フースホフトは、ゴール後にしみじみと語った。前日の激坂ミュール・ド・ブルターニュでヒルクライマーたちの加速に最後までしがみつき、我々を大いに驚かせた彼を驚かせたものとは2つ。1つ目はゴール前の地形が想像以上に難しかったこと。ツールに帯同する全ての人間には詳細な起伏図や地形が描きこまれたロードブックが配布されるのだが、「ロードブックを見た感じではあれほどのアップダウンがあるとは思ってもみなかったよ」とフースホフトは振り返る。特にラスト3km直前の上りは想像以上に難しく、直後の下りは想像以上にテクニカルだったとのこと。さらにラスト1kmからは500mの厳しい上り坂。トニー・マルティンがカヴェンディッシュを強力に引っ張り上げ、その脇では激しい飛び出しが乱れうちのように相次いだ。上りをそれほど得意としないカヴはどんどん追い越され、上りを得意とする選手……たとえばジルベールがフィニッシュラインへ向かって突進していった。

フースホフトが2つ目に驚いたものとは、そのカヴェンディッシュが最終的にステージ優勝を奪い去ったこと。「だってカヴ向きのゴール地形じゃ全くなかったからね」とフースホフト。これにはカヴェンディッシュ本人も100%同意する。「ボクには少し難しすぎたほどだ。ここで勝てたなんて大いなるサプライズ」。ジルベールやロハスといった体躯の大きいパンチャーの隙間を縫うようにして、体を小さく丸めた世界一のピュアスプリンターが弾丸のように前線へと飛び出した!

昨年までのカヴェンディッシュなら、怒ったり泣いたり笑ったり、忙しい日々を過ごすのが常だった。しかし今年の少しだけ引き締まったカヴは、常に平静で抑え気味な姿勢をとっている。少なくとも、そう努力しているように見える。ゴール直後にはちょっとしたイザコザもあったようだが……、大集団スプリントの後の恐ろしい混乱は全ての人間を苛立たせるものだ。そしてステージ優勝の表彰台では、カヴはすっかり成熟した大人の態度を見せていた。ただ唯一、記者会見で1人のジャーナリストが完璧なる誤解による質問をしたときだけは(質問は「ロハスがカヴに殴られたと言っているけど?」というものだった。ロハスはペタッキにヒジ打ちされたと言っている)、声のトーンを荒げて「ちゃんと事実確認してくれ」と激しく怒りをあらわにした。また先日天国へ行った愛犬アンバーに勝利を捧げたいと話し、「ボクのリトルベイビーだったのに」と、ふと寂しそうな表情を見せる瞬間もあった。


●トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)
マイヨ・ジョーヌ

ゴール地形にはすごく驚かされた。ロードブックを見た感じでは、あれほどのアップダウンがあるなんて考えてもいなかったから。上りはひどくきつかったし、下りはテクニカルで難しかった。おそらく他の選手たちも驚かされたんじゃないかな。だからカヴェンディッシュの優勝にはすごくびっくりしたよ。まるで彼向きのゴール地形ではなかったからね。2位ジルベール、3位ロハスという顔ぶれを見ただけでも、地形の難しさが分かるし、カヴェンディッシュの優勝が驚きだということが分かる。

今日の第一目標はもちろんマイヨ・ジョーヌを守ることだった。チームは前方にいてたくさん働いたのは、マイヨのためでもあったけれど、むしろ安全確保のためだったんだ。落車がひどく多くてプロトン内がピリピリしていたからね。今朝のミーティングでは、ゴールスプリントはファラーで行く予定だった。でも彼が調子があまり良くないと言ったから、ボクが行くことになったんだ。でもボク自身も昨日の努力が脚に来ていたみたいだね。昨日も言ったように、昨日の自分の走りにはビックリしているんだ。難しい上りで、総合トップ10を狙えるようなビッグライダーたちの加速についていけたんだから。今はキャリアでも最高の調子だよ。

●マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)
区間勝利

すごく難しいステージだった。最初から最後まで難しかったし、あれほど最終盤が難しいとは予想もしていなかった。ゴール前3kmの上りはボクには少し厳しすぎたほどだったよ。でも今日もまた、チームメートの素晴らしい仕事に助けられた。チームメートたちはボクを海風から守ってくれたし、ボクができる限りゴールまで体力を保てるよう力を尽くしてくれた。下りもひどく難しくて、簡単じゃなかったね。ゴール前2kmでは向かい風が吹き付け、グライペルがボクを押してきた。彼は体が大きい選手だから、ボクはポジション争いで負けて、後ろに追いやられてしまったよ。でも、このことはそれほど問題じゃなかったんだ。だってボクにはまだアシストがいたし、再び前に出て行く力が残っていたから。でもその後、ラスト600mで数選手が飛び出していった。彼らの中から誰かが勝つんだろうと考えたから、ボクは目標を切り替えて、マイヨ・ヴェールのポイントを少しでも収拾しようとスプリント準備に取りかかったんだ。でもスペースを見つけて、前線へと飛び出すことが出来た。ここで勝てたことはボクにとって大いなるサプライズだよ。いつものやり方とは全く違ったからね。でも上手くいったんだ。これが一番大事なこと。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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