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われわれは革命を目撃したのかもしれない。キャトーズ・ジュイエ(7月14日)とはフランス革命が勃発した日であり、伝統的にフランス人選手が張り切る日と決まっている。区間優勝に関しては、むしろバスク人のためのナショナルデーだった。沿道に鈴なりになるオレンジ色のファンの目の前で、サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)が美しきステージ優勝を手に入れた。しかし2011年のフレンチライダーたちは、確かに、例年以上に健闘したのだ。
6人のロングエスケープには、3人のフランス選手が潜り込んだ。ジェレミー・ロワ(FDJ)はトゥルマレ山頂に賭けられたジャック・ゴデ賞をまんまとつかみ取った。赤白青トリコロールジャージのシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)もアタックに挑んだ。これまでほぼ無名の若手選手に過ぎなかったアルノルド・ジャヌソン(FDJ)は、リュズ・アルディダンの山頂で純白の新人賞ジャージを身にまとった。なによりトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)が、頼もしいアシスト役ピエール・ローランと共に数々のアタックや強豪たちの力比べを凌ぎきって、見事にマイヨ・ジョーヌを守りきった!
2004年第13ステージのプラトー・ド・ベイユでは、ふらふらになりながら、ランス・アームストロング相手に22秒差でマイヨ・ジョーヌを死守した。たった1人でがむしゃらにしがみ付いた。しかし、あの時とはまるで違う。「マイヨ・ジョーヌを失うだろう」と宣言はしたものの、ヴォクレールとチーム ユーロップカーは、8人全員で確実な集団コントロールを行った。スタート直後に6選手を逃がすと、ヴォクレールの言葉通り彼らは「平地でも山でも」大いに力を尽くす。初登山だったウルケット・ダンシザンの上りでは総合に危険のないロマン・クロイツィゲル(アスタナ)等数人の飛び出しを見送った。山頂を越えた直後の下りカーブでは集団落車に巻き込まれ——先頭集団のゲラント・トーマス(チームスカイ)がまさに同じ場所で草むらに投げ出され、メイン集団内ではアンドレアス・クローデン(チーム・レディオシャック)が地面に叩きつけられ右ひじ&右肩を痛めた——、「もしかしたら今日はダメなのかも」と考えたこともあった。しかし様々な困難にもめげることなく、黙々とプロトンを先導し続ける。
集団制御権をレオパード・トレックに奪われたこともあった。トゥルマレの接近と共に、まるでスプリント準備に向かうチームトレインのように、レオパードが縦長の隊列を編成したのだ。……去年までのサクソバンクが山岳突入前によく使用したおなじみの戦術であり、当然、元サクソバンク所属の6選手が中心となって強烈な加速を繰り返した。特に疲れを知らぬ39歳大ベテラン、イエンス・フォイクトの驚異的な牽引は、多くの被害を生み出した。最大の犠牲者はトゥルマレで千切れたロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)。第5ステージ時の落車で故障を抱える25歳は、今ステージだけで18分近くタイムを失い、総合表彰台争いからも新人賞からも完全に放り出されてしまった。
トゥルマレからの長い長い下りでは、ユーロップカーとレオパードの監視の目をかいくぐって逃げ出す選手が続出。とりわけ「難関峠で自分がどれだけできるか見てみたい」と意気込んでいたフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)が、攻撃的ダウンヒルポジションで飛び出した。プロトン一の下りスペシャリスト、S・サンチェスもこの絶好機を逃さなかった。ただしヴォクレールにとって、総合わずか2分55秒差のジルベールは、絶対に遠くへ行かせてはならない選手のひとり。潤沢な資金を誇る新生ビッグチームから再び前線を取り戻すと、小さな「2部チーム」のリーダーは大いなる意地を見せた。
ラスト10km地点。ここでヴォクレールは「自分はまだこの集団内にいるんだ!」と驚いたという。エスケープの生き残り組、ロワとトーマスを1分45秒差で、そしてジルベールやS・サンチェスを約1分差で追うメイン集団は、すでに30人ほどに小さくなっていた。もっと驚いたというラスト5km地点では、さらに集団は18人までに絞り込まれていた。イヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)の優秀な山岳アシスト、シルヴェスタ・シュミットが非情な加速を強いたせいだ。すでに朝からの逃げ選手やジルベールは後方に消え去り、歯を食いしばり苦痛に耐えるサンチェスが、ジェリ・ヴァネンデール(オメガファルマ・ロット)を従えて区間勝利に向けてひた走っていた。ちなみにヴォクレールは集団が7人しかいなくなってもその場にいたし、最終的にはラスト1.2kmまで、有力者たちのアタック合戦に喰らいついた。「何も頬を赤らめる必要はないね。ボクらは責任を見事に全うしたんだから」と、新たなマイヨ・ジョーヌに袖を通したヴォクレールは誇らしげに語った。
ところでアタック合戦、と言うと語弊がありそうだ。軽いジャブ合戦、もしくはアンディ・シュレク(レオパード・トレック)の言葉を借りれば「テスト」だろうか。上りの間中ずっとアルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)を兄フランクと2人で挟み込み、様子をつぶさに観察してきた弟アンディが、残り4.3kmでふらりと仕掛けた。続いてフランクも静かな加速。次はもう少し強めに、その次はさらに少しだけ強めに……。残り3kmで兄フランクは他を突き放すことに成功するが、決して強烈な一発ではなかった。だがコンタドールは、動けなかった。
「兄弟が順番にアタックを仕掛けてきたせいで、もしかしたら、必要以上にエネルギーを消耗したのかもしれない。ヒザも痛かった」。しかもコンタドールは、最終1kmで、ついに他のライバルたちからも遅れを取ってしまう。フランクからタイムを失いたくないカデル・エヴァンス(BMC レーシングチーム)が、エンジン全開で追走に向かった。バッソとアンディは軽々と付いていった。そしてディフェンディングチャンピオンは完全に振り落とされた。単独で区間3位に入り、総合では2位へと上昇したフランク・シュレクは、コンタドールとのタイム差をさらに33秒広げた(総合ではコンタドールと2分11秒差)。また一緒にゴールした3選手はそれぞれ13秒のリードを追加(総合では3位エヴァンス1分54秒差、4位アンディ1分43秒差、5位バッソ44秒差)。ツール・ド・スイスをわずか4秒差で落としたものの、つまり好調なダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ISD)は総合6位に、区間優勝のS・サンチェスは総合8位につけた。
ピレネー初日を終えて総合7番目の位置に収まったコンタドール本人は、「でも満足しているんだよ。ここから先は調子は上向きになるしかあり得ないし」とあいかわらず強気な発言を繰り返す。アンディも「でもコンタドールは今日がたまたま『空白の1日』だったのかもしれないし」と警戒を緩めないが、ツール一行内ではいよいよ「コンタドールは完全にツールを失った」と囁かれだした。王位の座は、大きくぐらつき始めている。
●サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)
区間優勝、マイヨ・ア・ポワ
信じられない。ロベルト・ライセカが10年前に勝ったこの地で、地元ファンの目の前で、勝利を手に入れることができるなんて。ただでさえ区間勝利というのは快挙なのに、その価値をさらに引き上げてくれた。素晴らしい瞬間だよ。
ボクは攻撃的に走る必要があった。だって総合ですでに2分半もの遅れを喫しているからね。それに手ぶらのままで家に帰りたくなかったから、ステージ勝利がどうしても欲しかった。だからボクがアタックに向かったのは、至極当然なことなんだ。トゥルマレからの下りでフィリップ・ジルベールが飛び出すのが見えた。彼は前にチームメートが1人いたし、ボクも条件は同じだった。だから「これは挑戦する価値がありそうだぞ」と考えたんだ。
フランク・シュレクが背後に迫ってきていたけれど、特に恐れてはいなかった。だって彼はタイム差を開くために飛び出したのであって、区間勝利を脅かしに来たわけではなかったから。今後については様子を見ていく。第一の目標は区間優勝で、それは達成された。これからは、他の総合ライダーたちからこれ以上タイムを失いたくない。むしろ順位を上げられるよう努力していく。もちろんアルプスでもしも何か出来そうな脚があったら、また区間勝利を狙いに行くよ。
●トマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)
マイヨ・ジョーヌ
今日は脚を痛めつけた。昨日「マイヨを失うだろう」と言ったときは、あれが正直な気持ちだったんだ。初めてマイヨ・ジョーヌを着た2004年と比べると、ボクは様々な経験を積んできたし、どこまで自分を追い詰められるのかも理解していた。でも自分を痛めつけようと思ったら、大きなモチベーションが必要なんだ。20位に入るために同じだけの努力ができるかどうかは分からないけれど、マイヨ・ジョーヌのためならできる。4日前に比べてボクは強くなったわけじゃない。でも普段の限界を、今のボクは越えることができる。しかもチームの全員が同じような感覚を抱いているんだよ。
正直、驚いている。残り10kmのパネルが見えて、それから5kmのパネルが見えたときには、「まだボクはこの集団内で走れているんだ」とビックリした。ちょっと怖くなって、「もう少しこの状況が長く続きますように」って祈ったんだ。総合本命たちがアタックを始めたとき、ボクにはついていけなかった。でも彼らは常に警戒しあっていて、ところどころで攻撃が収まる瞬間があった。それを利用して、ピエール・ローランがボクを彼らのところまで引き戻してくれた。
チームは恥じることなく、リーダーの座を立派に務めた。チームメイトたちは特に序盤の長い平坦な道のりで大いに力を尽くしてくれた。さらにピエール・ローランがスゴイ仕事を成し遂げたね。彼らのおかげで、ボクはマイヨ・ジョーヌを守ることが出来た。今朝のスタート地では保守を願わなかったわけではないけれど、守れるとの確信はなかった。本当に嬉しいよ。自分自身を誇りに思うと同時に、チームメイトのことをよりいっそう誇らしく思う。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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