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サイクル ロードレース コラム 2011年7月18日

【ツール・ド・フランス2011】第15ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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険しい山岳地帯で集団後方で時間との戦いに喘ぎ苦しんだスプリンターたちが、脚の疲れも癒えきらぬままに、標高の低い平地でハイスピードの争いに打って出た。地中海から吹き付ける強い横風にも関わらず。なにしろパリ・シャンゼリゼにたどり着く前の、最後の大集団ゴールスプリントチャンスである。いまだ区間勝利を追い求める大勢のスプリンターたちも——1年前のポイント賞受賞者アレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ISD)も含む——、すでに区間勝利を手に入れた数少ないスプリンターたちも——区間1勝のタイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)と区間3勝マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)——、南仏モンペリエの大通りに向かって突き進んでいく。

マイヨ・ヴェール争いに関しては、ただし、いまだ最終チャンスというわけではなかった。つまりピュアスプリンターでもポイントを稼げるであろうゴールスプリントが残り2回(今ステージと最終ステージ)、そして連日エスケープ集団の後で繰り広げられる中間スプリントがおそらく残り5回(第20ステージの個人タイムトライアルと、超級山岳後にポイントが設定されている第19ステージを除く)。つまり機会は今ステージを含めて7回ある。「最終日シャンゼリゼまで何があるか分からないんだよ。戦いは毎日続くんだ」と、現時点でマイヨ・ヴェールを身にまとうカヴェンディッシュは語る。

カヴェンディッシュのポイント賞ライバルは、ほぼ2人に絞り込まれたと考えられていた。3日間ジャージを着用したホセホアキン・ロハス(モヴィスター チーム)、そして6日間緑色をまとったフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)。この日も中間ポイントでは、3選手が三つ巴の熾烈な戦いを繰り広げた。2km地点から逃げ始めたミカエル・ドラージュ(FDJ)、サミュエル・ドゥムラン(コフィディス ルクレディアンリーニュ)、アントニー・ドゥラプラス(ソール・ソジャサン)、ミハイル・イグナチェフ(チーム・カチューシャ)、ニキ・テルプストラ(クイックステップ)の背後では、HTC・ハイロードが完璧な隊列を作り上げる。チームメートに押し出されたカヴェンディッシュが、当然のように、プロトン内での中間スプリントを制覇。ロハスとジルベールは後塵を拝し、3人の立ち位置はまるで変わらないままだった。

ステージ前半は3分半ほどのタイム差を保持し続けた逃げ集団も、終盤が近づいてくると、じわじわと背後からのプレッシャーが高まってきた。チーム9人全員が見事に連結するHTCトレインに加えて、風による分断・落車を避けようと、あらゆる強豪チームが我先にと前を急いだ。ついにゴール前25km地点でタイム差は1分以内にまで迫られ、イグナチェフが最後の可能性にかけて飛び出した。そこにテルプストラも合流。すると前者はゴールまで残り6.5kmで諦めてペダルを漕ぐ足を緩めてしまったが、後者はラスト3km地点まで単独であがき続けた。

その3km地点で、思い切りアタックを仕掛けて先頭を奪い取ったのは……、またしてもジルベールであった。今大会すでに数限りない攻撃を試みてきたベルギーチャンピオンは、軽い起伏を利用して、前線を撹乱にかかる。おかげでプロトン前方でHTCトレインが築き上げて来た秩序ある世界は、一転、カオスな無政府状態へと姿を変えた。しかもジルベールこそすぐに吸収されたものの、ガーミン・サーヴェロやランプレ・ISDが前方へ競りあがり、混乱状態をさらにかきまわした。ただしカヴとチームメートは極めて冷静だったと言う。「今日のようなアタックが起きた場合、大切なことは、決してパニックに陥らないこと。できる限り速やかにトレインを立て直して回収に向かうこと。ジルベールの目的は、ズバリ、ステージ優勝だったと思う。もちろん優勝でポイントも大量獲得しようと狙っていたんじゃないかな」。フラムルージュをくぐりぬける頃、様々に入り乱れた集団は、再びHTCトレインによって制圧された。マーク・レンショーがパワフルに最終牽引を行い、あとはカヴェンディッシュが、ステージ最後の200mを利用して自己を解放するだけだった。

「今年のツールは本当に成功している。世界チャンピオン(フースホフト)、前世界チャンピオン(エヴァンス)、五輪金メダリスト(サムエル・サンチェス)、そして世界1位(ジルベール)が、それぞれに区間勝利を手にしてきた。そして今日はまた、新たな快挙が達成された。わずか4年で19勝。これはツールの100年を越える歴史の中でも、まさに記録的だよ!」と、開催委員長クリスティアン・プリュドムは頬が緩みっぱなしだ。そう、カヴェンディッシュは初参加の2007年こそゼロ勝・途中リタイアで終わったが、その後は4年連続で順調に勝利を量産し続けてきた。2008年4勝、2009年6勝、2010年5勝、そして2011年は4勝目。ただし、これらの数字は「記録的」ではあっても、決して「記録」ではない。世紀の怪物エディ・メルクスの数字とはいまだ程遠いのだ。1969年に初めてツールに乗り込んだエディは、その後1972年までの4年間で、なんと区間25勝(+マイヨ・ジョーヌ4回+マイヨ・ヴェール3回+マイヨ・ア・ポワ2回)を上げている。この先あと100年かかっても塗り替えられそうもない記録だ……。

まあ、実のところカヴ本人は記録更新などまるで考えていないとのこと。それよりこの日だけで中間10pt+ゴール45pt=55ptを手に入れて、区間5位に入ったロハスとのポイント差を37ptに広げた。またラスト3kmの無茶がたたって区間28位=ゴールポイント0ptで終わったジルベールにいたっては、すでに71ptも突き放した。ついに、パリでの緑色が見えてきただろうか。まずはその前に、総合本命たちの戦場、アルプスを無事に乗り越えなくてはならない。

●マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)
区間優勝

フィニッシュラインを1番にに越えるのはボクだし、それをツールで19回繰り返してきたわけだけれど、でもそれは単に1番で越えられる人間というのはたった1人しかいないからなんだ。ボクの背後には全チームが付いている。この成績はまさにチーム全体の共同作業の賜物だ。ステージ勝者の欄にはボクの名前が書き込まれる。でもこれを可能にしてくれるのはチームメートが仕事をしてくれているおかげであり、彼らがボクの勝利をお膳立てしてくれる。今までツールで手にしてきた勝利を振り返ってみても、チームメートの力を全く借りずに、ボクがたった1人で手に入れた勝利なんて1つとして存在しないんだよ。

確かにマイヨ・ヴェールのポイント差は広がった。でも過去の例を考えても、最終日までは決して確実ではない。だからシャンゼリゼまで毎日戦いは続くと見積もっている。ジルベールは機を見てはアタックを仕掛けてポイントを取りに行くタイプだし、ロハスはボクよりも山でいい走りをする。だから戦いはまだまだ続く。パリでこのマイヨ・ヴェールを着て、表彰台に登りたいと心から願っている。

風は難しかったけれど、予想の範囲内。この地方では風が大きな役割を果たし、集団を真っ二つにするようなステージが何度も見られた。確かに1日中風は吹いていたけれど、それが一番難しいことではなかった。むしろ総合争いの選手たち全員が常に前にポジションを取りたがったこと。彼らだって分断に驚かされたくなかったはずだからね。だから単に前にいるために、1日中、有力選手たちとポジション争いを繰り広げなければならなった。でもチームは本当によく働いてくれて、ボクを常に守ってくれたし、常に前へと導いてくれた。

●トマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)
マイヨ・ジョーヌ

(周りが騒いでいるけれど)ボクは自分の仕事だけ集中している。自転車に、競技のことだけに集中している。全力を尽くす。あとはなるようになるだけさ。ボクはツール・ド・フランスを勝つためにこの場にいるわけではない。それがボクの目標ではない。ボクには勝つチャンスなんてこれっぽっちもないんだ。ボクは単にボクの仕事をしているだけ。

昨日は総合争いの選手たちについていくことができた。もちろんこの先もついていけたら最高だと思う。でも自分自身では、難関山岳をトップたちと張り合えるレベルだとは考えていない。だから昨日は人生最大の幸福だったんだよ。だからあまり考えすぎない。昨日の結果はやる気を大いにかきたててくれた。でもボクはアルプスがどんなものなのか知っている。ボクに難しい時が訪れるであろうことを、覚悟している。

願望でどうにかなる問題じゃないんだよ。誰だってツールを勝ちたい。でも確かにフランスは、ベルナール・イノー以来のフランス人ツール総合勝者を待ち望んでいる。ヴィランク以来となる表彰台選手を待ち望んでいる。でも残念だけど、ボクはファンに嘘をつきたくはないんだ。期待を持たせるようなことは言いたくない。「うん、いい感触だ。ボクには勝つチャンスがある」なんて絶対に言えない。まだ1週間レースは残っている。ツールというものは、最終週に決定的な出来事が起こるように描かれている。だから最終週にツールの総合争いは頂点に達する。何度も繰り返してきているように、ボクは全力を尽くして戦う。それだけは確かだ。でもボクは不正直ではいられない。ボクがツールを勝つチャンスは0パーセントだと見積もっているんだからね。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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