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サイクル ロードレース コラム 2011年7月21日

【ツール・ド・フランス2011】第17ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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2日連続で同じ失敗は繰り返さない。「今日はリベンジのつもりだった」とエドヴァルド・ボアッソン(チームスカイ)は笑顔で語り、「今日の下りも危険だったけれど、気分的には落ち着いていたんだ」とアンディ・シュレク(レオパード・トレック)は胸をなでおろした。前日第16ステージで悔し涙を飲んだ2人が、どうやらこの日は満足な結果を残すことができたようだ。

寒い夜が明けると、夏らしい朝が待っていた。アルプスの緑の上には青空が広がり、誰もが待ち構えていた太陽がツール一行を照らしつけた。久しぶりにスタート地には人々の笑顔が戻り……、スタート直後からプロトン内では激しいアタック合戦が繰り広げられた。とりわけ熱心に飛び出しに試みた選手の中には、前日2位に終わったボアッソンの姿があった。すでに第6ステージで区間勝利を上げていたボアッソンは、前日、エスケープの果てに母国の先輩トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)にスプリント勝負を挑み、そして敗れ去っていた。「昨日はあとわずかのところで勝てるはずだったのに。でもガーミン・サーヴェロにサンドイッチ状態にされて、ボクにはあれ以上の選択肢がなかった」。悔しさを、モチベーションに変えたボアッソンは、50kmを過ぎてようやく出来上がった14人の逃げ集団に滑り込んだ。

前日のアンディは、濡れた路面の最大の犠牲者だった。いや、下りで転んだわけでも、コースアウトしてしまったわけでもない——前を行く選手が地面に落ち、ブレーキをかけたのは確かだそうだが——。ただ落車を恐れ、ライバルたちが先に行ってしまうのもお構いなく、慎重すぎるほどゆっくりと最終峠を下っただけなのである。結果は総合ライバル、カデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)から1分09秒のタイムロス。もちろんその前に、上りではアルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)の切り裂くようなアタックに驚かされ、しかも付いていけなかった。だからイタリアへと立ち寄るこの日は、ライバルたちの動きから決して目を離さなかった。

ステージ最後の峠プラマルティーノの上りで、ボアッソンは単独先頭に立つ。つい2ヶ月ほど前のジロ・デ・イタリアでは最後の戦いの舞台となったセストリエールでは、逃げ集団内からルーベン・ペレス(エウスカルテル・エウスカディ)が飛び出していた。またペレスを吸収した直後には、青白赤トリコロールジャージに身を包むシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)がカウンターアタックを仕掛けたことも。ただし前日と同じくらい調子が良く、しかも前日以上に勝ちたいという意欲に燃えていたボアッソンは、シャヴァネルに追いつき、そして振り払った。また「危険というよりはテクニカルな」下りを2回も試走し、隅々まで熟知していたのも有利に働いたとのこと。最後はタイムトライアルのつもりで走り切り……、独走で見事なリベンジを成功させた。

やはりプラマルティーノの上りでコンタドールがアタックを仕掛けたとき、アンディはその後輪にしっかりと張り付いていた。おかげですぐに反応することができたし、後れを喰らうこともなかった。もちろん他の有力選手たちも、前日のようにびっくり慌てふためくこともなく、2日連続の上り攻撃に冷静に対処できた。

ちなみにコンタドールは第16ステージのマンス峠での急襲を、同じスペイン人にして、同じく総合タイムを大幅に取り戻す必要のあるサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)だけには予告していたという。するとこの日も、両者は申し合わせていたのだろうか?上りで上手く行かないと見るや、コンタドールは下りで大きな槌を振り下ろすことに決めた。なんと「下りスペシャリスト」サンチェスを凌駕するほどの攻撃的なライン取りを行い、ペダルを高速で回し続け、ライバルたちを振りほどきにかかったのだ。また最終盤に道が平坦になると、サンチェスと必死で交替先頭を行った。

ただし2日連続で同じ作戦は成功しなかった。路面が乾いた下り坂では、ライバルたちは沈着冷静に、しかしある程度のスピードを保って追走を行うことができた。また決して単独でムキになって追いかけたりもしなかった。フランク&アンディ・シュレクやエヴァンスはひとつの小集団にまとまって、互いが互いのために走り、前方スペイン同盟までの距離を縮めにかかった。そしてラスト数百メートルでまんまと両者を吸収すると、総合本命たちはみな仲良く揃ってゴール地へとたどり着いた。その場に欠けていたのはイヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)と、マイヨ・ジョーヌのトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)だけ。総合2位エヴァンスと総合3位フランク・シュレクの差はあいかわらず4秒で、総合6位コンタドールまでのタイム差は1分57秒のままである。

ヴォクレールはミスを犯した。上りではこの日も見事に喰らいつき、下りでは真っ先にアタックを仕掛けるも……。「肉体的に極限まで出そうとすると、頭脳の方は明晰さを失ってしまう」と判断力を欠き、小さくコースアウト。しかも「下りでは1度ミスを犯すと、修正は難しい」と分かっていたのに、コンタドール&サンチェスから遅れるまいと焦りすぎて、沿道脇の民家の駐車場に飛び込んでしまうハプニングも。エスケープ集団内のジョナタン・イヴェール(ソール・ソジャサン)が脱線した、まさに同じ場所だった!「思わず目をつむってしまったよ」と告白するヴォクレールは、結局、この日は27秒を失った。もちろん前日までの十分なリードのおかげで、総合2位エヴァンスとのタイム差はいまだに1分18秒残っている。

「ガリビエ山頂ゴールが全てを決定するに違いない」。2011年ツール・ド・フランスのコースが発表された昨年10月も、約3週間前のグランデパール@ヴァンデの直前も、そしてこの第17ステージ終了後も、総合本命たちは同じセリフを繰り返す。標高2645mの、未だかつてない高みでの決戦場へと、ついにプロトンは脚を踏み入れる。天気予報によれば山頂の最高気温は4度。にわか雨、ならぬにわか雪も予想されている。


●エドヴァルド・ボアッソン(チームスカイ)
区間勝利

昨日はぎりぎりのところで勝てなかった。だからリベンジをしたかったんだ。この勝利がどうしても欲しかった。本当に調子が良かったから、がっかりしたよ。ただ、おかげで今日は勝ちたいという気持ちが強かった。スタート前からエスケープに乗ると決めていた。最後の上りではたくさんアタックがかかるだろうと予想していたんだけれど、それほどでもなかったね。だからアタックを潰しにかかる必要がなかったし、早めに前方で1人になれたおかげで、自分のリズムで上がることができた。

下りでは全てのカーブを熟知していたんだ。2回下見で走っていたし、ビデオも数回見ていた。危険、というよりはテクニカルな下りだと思うよ。ただボクは前に1人でいたから、それほどの危険を冒す必要もなかった。もしもプロトン内で走っていたら感覚は違っていたのかもしれない。

●トマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)
マイヨ・ジョーヌ

タイムを稼ぐために、下りでアタックしようと思っていたんだ。結局はタイムを失ってしまったけれどね。でも幸運だった。だって救急車で終わる可能性もあったから。だから失望したりはしていない。どうしても前で下りたかったんだ。でも速く下りすぎた。カーブを曲がり切ることができなかった。しかも下りで1度ミスを犯すと、その後修正するのは非常に難しいのにも関わらず、1度目のミスの後、再び攻撃的に走ってしまった。冷静にエヴァンスやシュレクと一緒に走るべきだった。でもコンタドールやサンチェスに絶対付いていくんだ、と力んでしまった。下りでエンジンを上げすぎて、その代償が30秒だ。考える暇がまるでなかったんだよ。

カーブで「ダメだ」と気がついたとき、逃げ道があることは見えた。でも小さな段差を乗り上げる必要があった。ほんのコンマ何秒の出来事なんだけれど、まるで永遠のように感じたよ。目をつぶって、前輪を上げた。そして再び目を開けたときに、ボクはまだ自転車の上だった!だから「よし、また行くぞ」とユーターンしてコースに戻った。うん、目を閉じてしまったんだよ。

コース下見の必要性など考えたことなどなかった。そもそも自分が3週間目にここまでやれるなんて、思ってさえいなかったんだから。この先はたしかに考える必要があるかもしれない。もしも下見をしていたら、今日のコースアウトもなかったかもしれない。下りのビデオは見たけれど、実際に走るのとはまったく違うからね。そう考えると、下見をしなかったのはボクのミスだ。でもその一方で、ボクは他のレースを走っていたんだよ。シーズン中に下見合宿を組むのはスケジュール的に難しい。それにボクがダンケルク4日間やジロ・デル・トレンティーノ区間、パリ〜ニース区間2勝を勝って、チームは満足しているからね。ツールへのアプローチ方法が違うんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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