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全ての色の戦いが、アルプス最終日に待っていた。109.5kmと極めて短いステージに、難関峠が3つ。「おそらく全力でスタートして、全力で走って、全力でゴール!」とアンディ・シュレク(チーム レオパード・トレック)が大会前から語っていた通り、スタート直後からレースは激しく燃え上がった。ほんの少し前に14人がエスケープに乗り始めたばかりだったというのに、15km地点で突如、アルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)がダンシングスタイルへと切り替える。最後の直接対決のゴングが鳴らされた瞬間だった。
ガリビエの山頂で「マイヨ・ジョーヌ敗北宣言」を出した翌日、コンタドールはチャンピオンとしての誇りを取り戻すことに決めた。前日ロングエスケープを仕掛けたアンディよりも、さらに遠くから、さらに大胆に攻撃を仕掛けた!
数回の加速に、難なく反応できたのはアンディ・シュレクだけ。カデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)と黄色いジャージ姿のトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)は、苦しみながらも追走を試みた。ところがコンタドールがさらにスピードを上げると、後者2人は置き去りにされてしまう。ヴォクレールの脚がついに悲鳴を上げたのに対して、エヴァンスの遅れの原因はメカトラブル。なんと3度も立ち止まり、自転車交換さえも余儀なくされた。2009年ブエルタでの悪夢——勝負のかかった最終峠でパンクし、車輪交換に1分13秒も費やした——が蘇る。ただしエヴァンスは後方で仕切り直し。コンタドールとアンディは一時は1分40秒以上にまでリードを開いたものの、BMCが牽引する後方集団はじわじわと前方へにじり寄っていく。
ヴォクレールはときに単身で、ときにチームメートや元チームメートの力を借りて、必死にペダルを漕ぎ続けた。ただしもはや限界だと悟っていた。だからこそガリビエの上りで、24歳の若きアシスト、ピエール・ローランに運命を託したのだ。「マイヨ・ジョーヌの先導という大役を任されて、本当に誇らしい。自分のマイヨ・ブラン争いなんかよりも、大切なことがあるんだ」と前日ゴール後に語っていたローランが、この日はそのマイヨ・ジョーヌから、「マイヨ・ブランを取りに行け」と背中を押された。徐々に後退していくリーダーを他のアシストに託し、ローランは自らの戦いに向かった。
ガリビエの山頂間近では、サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)も積極策に出た。山頂5位通過で山岳ポイントを手に入れつつ——この時点で赤玉ジャージ争いで首位を奪い返した——、得意の高速ダウンヒルでアンディ&コンタドール集団を捕らえる。ただし30km超の長い長い下りを利用して、エヴァンス集団もマイヨ・ジョーヌ最大のライバル、アンディ・シュレクへと追いついてきた。2011年ツール・ド・フランス最終峠、ラルプ・デュエズの麓で、マイヨ・ジョーヌ候補は再び横一線に並んだ。
21の九十九折が織りなす魅惑的な山道へ、先頭で飛び込んだのはピエール・ローランだった。「去年のツール前に集中トレーニングを積んだ場所なんだ」と語ったように、ローランは全てのカーブの細部を熟知していたという。だから残り12.5kmで再び勇敢なアタックを仕掛けたコンタドールに、一旦は振り切られるも、冷静に再戦の時を待つことができた。そのきっかけをもたらしてくれたのが、やはり再び飛び出してきたS・サンチェスだ。「コンタドールに追いつきたいなら、彼の力を利用するしかない」と分析した若者は、五輪金メダリストの後ろに張り付き、まんまとツール総合優勝3回の王者に追い付くと……、ラスト2kmでなんと2人の大チャンピオンを振り払った!「自分にチャンスがあるならここしかない」と狙いをつけていた1番カーブ(山頂から2.2km地点にある最後のカーブ)での、大きな一撃だった。
10日間に渡ってフランス人マイヨ・ジョーヌを支え続けてきたピエール・ローランが、2011年大会に初めてのフランス人勝利をもたらした。またフランス人としては、1986年ベルナール・イノー以来となるラルプ・デュエズ勝利。「実は自転車を始めたのが遅いから、別にイノーに憧れたりすることはなかったんだ。しかも彼の勝利は、ボクが生まれた年だから……」と語る現代っ子は、16番目のカーブに立てられたプレートに、自らの名前を書き込む権利を手に入れた。また純白のジャージに袖を通し、こちらは1999年ブノワ・サルモン以来となるフランス人新人賞に期待がかかる。
赤玉ジャージは完全にサンチェスの手に落ちた。9歳年下の若造にしてやられ、区間は2位で満足するしかなかったが、大会最後の峠でパリでの山岳賞ジャージを確定させた。「総合表彰台と区間を逃したのは残念だったけど」と前置きした上で、「でもパリの表彰台に上がれるのは誇らしいこと。素晴らしく名誉あるジャージを手に入れることが出来た」と素直に笑顔を見せた。
コンタドールだけは、結局何も手に入れられぬまま、われわれの心に興奮だけを残してステージを終えた。……いや、赤ゼッケン=敢闘賞という、現役で唯一3大ツール全制覇を誇る無敵艦隊には、似ても似つかないような賞を獲得しているのだが。
肝心の黄色は、ついにアンディ・シュレクが身にまとった。前日の勇敢なるロングエスケープが報われた瞬間でもあった。ただしこの日のコンタドールとの逃避行は失敗に終わり、最大の危険人物エヴァンスから1秒たりとも奪い取ることは出来なかった。ラルプ・デュエズの麓で横一線に並んだマイヨ・ジョーヌ候補、つまりアンディ&フランク・シュレクとカデル・エヴァンスの3人は、山頂でも横一線のままだったのだから。3人の関係は前日と変わらぬまま、ヴォクレールの脱落により1つずつ順位が繰り上がっただけ。弟と兄のタイム差は53秒、そしてエヴァンスのマイヨ・ジョーヌまでの距離は57秒。パリでマイヨ・ジョーヌを着用する権利は、翌日、第20ステージの個人タイムトライアル42.5kmで決する。
ちなみに緑色の戦いは、プロトンのはるか後方の見えない場所で、しかし確実に行われていた。制限時間との戦い。なにしろステージ距離が短ければ、それだけ制限タイムが短くなる。第1峠から早くも千切れ始めたマイヨ・ヴェールのマーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)は、今ステージこそは制限タイム内にゴールしようと奮闘した。前日は制限時間アウトを救われたかわりに、ルール通りに20ptを減点され、そのせいでジャージ争いライバルのホセホアキン・ロハス(モヴィスター チーム)に15pt差に迫られてしまった。だからこの日は、自らが最終グルペットを率いて制限時間25分09秒以内のゴールを目指したのだが……、わずか18秒足りず、またしても20pt減点。幸いにも今回はロハスもタイムアウトで同じだけのポイントを引かれており、大切なジャージを死守している。
●ピエール・ローラン(チーム ユーロップカー)
区間優勝
今はまだ雲の上にいるみたいな気分なんだ。さっきゴール前2kmのアタック映像を見たけれど、信じられないね。最後のフランス人勝者、イノーが勝ったのは1986年。ボクが生まれた年だよ。だから生では見ていないけど……自分の成し遂げたことを誇りに思うよ。今日はたった3時間半のレースだったけれど、ここに来るまでには長い年月の仕事を積み重ねてきたんだ。
トマが「行け、ピエール。自分のために走れ。マイヨ・ブランを奪いに行け」と言ってくれた瞬間から、エヴァンスやシュレク兄弟に付いていこうと努力した。でも集団は少し停滞している感じだったし、谷間の小さな上りをよく知っていたから、前に出ようと決めたんだ。無線でサンチェスが追いかけてきていることを知ったとき、「コンタドールに追いつけるとしたら、彼の力を利用したときだけだ」と考えた。彼の仕事を利用したんだ。でもこれが勝負なんだよ。それにボクは知っていたんだ。もしも彼らについていくことが出来れば、1番カーブで、ボクにもアタックする機会があることを。2人を引き離せるかどうかは定かではなかったけど、でもアタック時の速度でゴールまで登り切れることは分かっていた。ラルプデュエズのカーブは隅々まで知っていたからね。去年はツール準備のために、この山でトレーニングを積んだんだ。
ボクは常に道を外れなかった。トマがマイヨ・ジョーヌを着ている間は、一度だって自分の勝負をしようと思ったことはなかった。だからガリビエでトマに「チャンスを取りに行け」と言ったとき、まるでためらわなかった。調子はすごく良かったからね。トマのあの態度は、本物のチャンピオンだという証拠だ。だってマイヨ・ジョーヌを着ながら、そんなことが言える選手なんて、それほど存在しないと思うんだ。だからマイヨ・ジョーヌから「チャンスを取りに行け」と言われた、ボクはもう、ただただ全力で行くだけだったんだよ。それに「彼がボクにチャンスをくれたんだ。今度はボクが、このチャンスを逃してはならない」と強く思った。気持ちが強くなった。そのおかげでサンチェスやコンタドールについていくことができたんのかもしれない。
●アンディ・シュレク(チーム レオパード・トレック)
マイヨ・ジョーヌ
去年はタイムトライアルの数日前にマイヨ・ジョーヌを失った。今年はその逆で、前日にジャージを取ることができた。このツールはボクにとって本当にすごく上手く行っているよ。ここまで、調子の悪い日はたった1日だけしかなかった。そして今は首位に立っている。だから明日へのモチベーションはものすごく高いし、脚はよく動くし、体調もいい。だからパリまでイエロージャージを守る自信はある。
今日みたいな短いステージは嫌い。短すぎるし、厳しすぎだよ。ボクは長い距離でこそ実力を発揮できる選手なんだ。確かに見る側にとっては、非常に興味深いステージだったに違いないね。テレグラフ、ガリビエ、ラルプ・デュエズが連続して組み込まれた美しいステージだったんだから。でも個人的には長いステージ、長い登りが向いているのさ。昨日のようなステージが好きなんだ。でも怖くはなかった。確かに昨日は長いエスケープを打ったし、エネルギーをたくさん消耗した。でもね、今日調子をよく感じたら、明日はもっと強く感じるものなんだ。だから何の問題もなかったよ。
正直に言うと、タイムトライアルのステージは唯一下見をしていないコースだ。ビデオで見たし、明日の朝は下見に出かける。それにドーフィネに出場したチームメートから話は聞いている。みんなはボク向きのタイムトライアルだと言っているよ。だからみんなの言うことを信じる。ボク向きのステージあることを願っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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