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サイクル ロードレース コラム 2011年7月25日

【ツール・ド・フランス2011】第21ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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サングラスのフレームとヘルメットは黄色だった。チームメートたちはハンドルの先に黄色いテープをつけ、チームカーのBMCロゴもイエローに変身した。王者カラーの自転車も用意された。もちろん上半身にはマイヨ・ジョーヌ。しかし下半身のレーシングパンツやソックスは、普段と何にも変わらなかった。ことさら飾り立てすぎることなく、カデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)は2011年ツール・ド・フランスの総合王者となった。

3430.5kmの果ての、95kmと短い「凱旋」ステージ。季節はずれの悪天候や多発する落車、難関続きの山岳連戦にも負けず3週間走りきった167選手には、それでもシャンパンを飲んだり、写真撮影をしたり、プロトン内の友たちとおしゃべりをしたりする時間は十分にあったようだ。いや、ほんの24時間前までは熾烈な戦いを繰り広げてきたライバル同士さえも、この日だけは互いの健闘を笑顔で讃えあった。……ただし集団内の一部の選手たちにとっては、心の底からリラックスすることなど不可能な話である。なにしろ世界で一番華やかな集団スプリントゴールと、未だ持ち主が確定していなかったマイヨ・ヴェール争いが、パリで待ち受けていたのだから。

リーダーを乗せた栄光のBMCトレインが先頭でシャンゼリゼ大通りへと突入し、ひととおり最終日の楽しい儀式が終了すると、いよいよ2011年ツール最後の戦いが本格的に始まった。周回コースで恒例のように数選手が逃げ出し——今年は6人だった——、メイン集団ではスプリンターチームが仕事に取りかかった。特に前方にラルスイティング・バクを送り込んだHTC・ハイロードが、後方では3周回目に設定される中間スプリントの準備に着手。マイヨ・ヴェールを身にまとうマーク・カヴェンディッシュを、集団先頭で送り出すための隊列を組んだ。

スタート地でのカヴェンディッシュは、ひどくピリピリした緊張感を周囲に放っていた。ポイント賞争いではライバルのホセホアキン・ロハス(モヴィスター チーム)に15ptリードをつけているものの、おそらく不安は常に付きまとっていたに違いない。なにしろ過去3大会で区間15勝を上げながらも、一度もパリまで緑を持ち帰った経験がなかったのだから。しかも今大会はここまで4勝とスプリント自体はあいかわらず絶好調だったが、第3ステージの中間スプリントは降格処分を受けたし、2度のタイムアウトで40ptを失っている。「決してシャンゼリゼのゴールの瞬間まで油断してはならないんだ」と、2011年のカヴは警戒と集中を決して解くことがなかった。

中間ポイントでは、メイン集団内トップの座を確実にカヴェンディッシュが手に入れる。またマシューハーレー・ゴスがリーダーの後ろに滑り込み、ライバルたちの高ポイント獲得を阻止するという好アシストを披露した。それにしてもHTC・ハイロードのアシストたちは、3週間目のこの日も完璧だった。エスケープ集団ではバクが力を尽くし、プロトン前方では残るアシストの7人全員が美しきラインを作り上げた。緑色の小柄なリーダーは、最後列でじっとそのときが来るのを待つだけで良かった。

最終周回を告げる鐘が鳴り、コンコルド広場の巨大なロータリーを抜けると、2011年最後のフィニッシュラインが見えてくる。ジャージが欲しい選手も欲しくない選手も、もはや無関係でラストスプリントへと突進していく。今大会区間1勝アンドレ・グライペル(オメガファルマ・ロット)や2勝エドヴァルド・ボアッソン(チームスカイ)は、大胆にも先手を打った。しかしスプリントの中でも特にシャンゼリゼ攻略においては、圧倒的にカヴェンディッシュが長けていたようだ。パワフルに先頭でフィニッシュラインを奪い去ると、3年連続の最終日勝利、キャリア通算ツール20勝目を懐に収めた。しかもこの2年のような「区間勝者」としてだけではなく、「ポイント賞受賞者」としてパリの表彰台に上る権利を手に入れたのだ。ゴールスプリントにジャージライバルたちは絡んでくることはなく、最終的には62ptもの大差をつけて。両手でマイヨ・ヴェールをつまみ、ついに自らのものとなったことを全世界にアピールしたカヴは、長年追い求めてきた夢をついに達成したのだった。

きっともっと長い間、エヴァンスはマイヨ・ジョーヌを夢見ていたに違いない。34歳の新チャンピオンは——第2次世界大戦後だけで見れば最年長記録となる——、表彰台の上であふれそうになる嬉し涙を精一杯こらえた。ツールの歴史上初めてオーストラリア国歌がパリの空の下に流れ、エヴァンスの優しい声がシャンゼリゼに詰め掛けたファンの耳に届いた。「みなさんにありがとうを伝えたい。ボクを信じてくれた全ての人に、感謝の言葉を述べたい。チーム関係者、チームメート、全ての選手、ライバルたち、そして自転車競技を応援してくれる全てのファンたちに」。

総合2位と3位の位置には、アンディ&フランク・シュレク(レオパード・トレック)の兄弟が収まった。「2人のうち1人しか表彰台に上がることはできないだろう。しかし、その1人とは、マイヨ・ジョーヌだ」という事前の宣言は外れてしまったが、結果的には、ツール史上初めての「兄弟表彰台」を実現させた。またフランク・シュレクにとっては、初めてのツール表彰台経験となった。マイヨ・ア・ポア・ルージュはサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)が、マイヨ・ブランはピエール・ローラン(チーム ユーロップカー)が、そしてスーパー敢闘賞はジェレミー・ロワ(FDJ)が、やはりそれぞれ初受賞している。

表彰台のトリを飾ったのは、大会前半に可能な限り(つまり白以外)のジャージを日替わりで着用したフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)と、大会後半に10日間マイヨ・ジョーヌを守り続けたトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)だった。ベルギーのリエージュ近郊で生まれた前者と、ヴァンデ地方に居を構える後者は、固い握手を交わし、それぞれの地名が記されたジャージを交換した。オリンピックの閉会式では、開催都市の市長から次回開催都市の市長へのオリンピック旗の引渡しが行われるが、ツールでもこの先の恒例行事となるのかもしれない 2012年ツール・ド・フランスは、6月30日土曜日、ベルギーのリエージュにて幕を開ける。


●マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)
区間優勝、マイヨ・ヴェール

信じられないほど感激しているよ。3度目のシャンゼリゼ勝利に加えて、マイヨ・ヴェールを着てパリの表彰台に上れるのだから、素晴らしい出来事だよね。今大会の目標は、なによりもまず、できるかぎり多くの区間優勝を手に入れることだった。でもこのマイヨ・ヴェールを手に入れてからは、ジャージを守るために全力を尽くしたよ。それに今年は新ポイントルールに対応しなければならなかった。だからチームメートたちは、ボクのために毎日必死で働いてくれた。

(区間通算勝利数記録は)狙っていない。ボクはできるだけたくさんレースに勝ちたいと思っているけど、数字を追いかけているわけじゃない。ボクの目標は毎年ツールに絶好調で乗り込むこと。脚が許す限り、ここに勝つために戻ってくる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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