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激しい波音の合間に、海水浴客の楽し気な声が聞こえてくる。沿道のカフェテラスでは冷たい飲み物を手にした人々が、のんびりと選手たちのウォーミングアップを眺めている。いつもよりも1週間早く始まった2011年ブエルタ・ア・エスパーニャの周辺には、夏休みの雰囲気が漂っていた。しかも前夜に行われたチームプレゼンテーションは、海辺の砂浜の上でゆったりと行われて……。ただし、厳しいコース設定が仕組まれてた開幕チームタイムトライアル(TTT)が、選手たちを一気にバカンス気分から引き戻した。
平坦な道で行われるいわゆる顔見世的なステージではなかった。スタートと同時に厳しい上りに突入し、その後は高速で危険なダウンヒル、さらに後半は海からの横風が吹きつけるフラットゾーンが待ち受けるという難解なコース。「出走直後の上りでは、スプリンターを千切ってしまわないよう気をつけながら、ボクらクライマーたちがチームを牽引します」と、日本人として史上初めてのブエルタ走者であり、個人としては生まれて初めてのグランツールに出場する土井雪広が、自らに与えられた「最初の仕事」についてスタート前に解説してくれた。
その土井は、やはりチーム創設以来初めてのブエルタに挑むスキル・シマノと共に、2011年大会へと真っ先に走り出した。出場メンバー全員そろってのTTT練習はスペイン入り後が初めて、という第1出走チームは、16分48秒後にゴール地へと到着。全22チームが走り終わってみると、上から7番目、招待枠を勝ち取ったUCIプロコンチネンタル4チーム中ではトップという好タイムをたたき出していた。ただし土井に関しては、先頭で終えた7人から20秒遅れでフィニッシュラインを通過している。「ラスト1.5kmの最終直線に入る直前にリードアウトを行ったあと、みんなから離れたんです」と、大いに仕事をした上での脱落だったのだと本人は語る。しかも「スタート地は大掛かりに作られていて、ゴールゲートは大会カラーの赤一色で、沿道からはたくさんの声がかかって……、ああ、グランツールはすごいなぁと実感しました」と、初めての大イベントを密かに堪能する余裕もあったようだ。「明日からはスプリンター(マルセル・キッテル)のためにきっちり仕事します。日曜日の第2ステージは、ボクらチームが勝ちますよ!」
厄介なコースを最速で駆け抜けたのは、7番目に出走したチーム レオパード・トレックだった。スキル・シマノを18秒上回る16分30秒で、チーム創設1年目にしてブエルタ初勝利を手に入れた。平地で違いを出したのはタイムトライアル世界チャンピオンのファビアン・カンチェッラーラだったが、上りでいい仕事をしたヤコブ・フグルサングが先頭でフィニッシュラインを越えることを許された。おかげで26歳のフグルサングは真紅の総合リーダージャージ「ラ・ロハ」を手に入れてしまった!一方ですでに2009年ブエルタ初日に個人TT勝利で色とりどりの衣装を着た経験を持つカンチェッラーラは、ブエルタ初登場の「赤ゼッケン」敢闘賞を我が物としたのだった。
道の厳しさに加えて、出走タイムによって風向きに微妙な違いが出たせいか、総合優勝候補・有力選手の間には思わぬタイム差がついてしまった。最高の立ち位置に付けたのは、前回王者として赤ジャージに身を包んで走ったヴィンチェンツォ・ニバリ。リクイガス・キャノンデールが4秒差の区間2位につけ、総合本命の中では早くも最高位につけた。また昨大会でタイムトライアルの弱さを露呈したホアキン・ロドリゲス(チーム カチューシャ)は首位から25秒遅れ、つまりニバリから21秒遅れと悪くない成績で初日を終了。大会前に地元バスクで1日みっちりTTT練習を行ったエウスカルテル・エウスカディは、リーダーのイゴール・アントンを28秒遅れ、ニバリから24秒遅れでゴールへと導いた。本人やチームメートがメカトラに泣かされたのは、チーム・レディオシャックのヤネス・ブライコヴィッチ&アンドレアス・クレーデン(首位から29秒遅れ)、そしてランプレ・ISDのミケーレ・スカルポーニ(首位から32秒遅れ)。さらにはチーム内で落車があったせいなのか、ブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)は早くも42秒を、デニス・メンショフ&カルロス・サストレ(ジェオックス・TMC)はなんと43秒も失ってしまった。
また2009年ジロ、2010年ブエルタ、2011年ジロと3つの開幕TTTを制し、この日も大くの自転車関係者が優勝候補に名前を上げていたHTC・ハイロードは、チーム レオパード・トレックから9秒遅れの区間3位に終わった。1991年のドイツテレコムから続くのチーム20年の歴史が今秋に閉ざされる前の、最後のチーム勝利を上げることはできなかった。ちなみに、上記3大会はマーク・カヴェンディッシュの総合リーダージャージ姿が大会序盤に堪能できたのだが……、この日の俊足スプリンターは2分45秒もの遅れを喫している。どんなに中間・ゴールスプリントでボーナスタイムを稼いでも、つまり、カヴの2011年版マイヨ・ロホ姿もお目にかかることはできないようだ。
■ヤコブ・フグルサング(チーム レオパード・トレック)
総合リーダー
本当に嬉しいけれど、まるで想像もしていなかったような快挙なんだよ。ある意味、ボクがマイヨ・ロホを着たのは偶然の成り行きによるもの。スタート前にはゴールラインを誰が先頭で越えるのかまったく話し合いは行われなかったし、ただ素晴らしいタイムトライアルをすることがチームの目標だったんだ。ラスト200mでボクは先頭に立った。誰がに追い越されるだろうと思っていたけれど、そのままボクが先頭でラインを越えた。それだけのことさ。
グランツールとしては、かなりハードなスタートだったね。最初から最後まで注意を払い続ける必要があった。でもボクらは、できる限りベストな大会スタートを切りたいと願っていたんだ。もちろんブエルタ最後まで戦い続ける準備はできている。ボクも総合争いに食込む準備があるし、できる限りの力を尽くすつもりだ。今大会のボクらチームは強い。ツールを戦った選手たちもしっかり体力を取り戻しているし、ほかの選手たちも調子は万全だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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