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グランツール3日目にして、珍しく、早くも逃げ切り勝利が決まった。理由はあまりに暑いせいで追走の気力が失せたせいだとも、翌日の難関山岳ステージのために本命たちが体力温存に努めたからだとも言われている。ただし最大の勝因は、もちろん、17km地点から逃げ出した5選手が毅然とした力強い走りを見せたこと。
パブロ・ラストラス(モヴィスターチーム)とマルケル・イリサール(チーム・レディオシャック)の地元スペイン勢2人に、仏チャンピオンジャージ姿のシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)と同胞ニコラ・ウデ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)、そしてウクライナのルスラン・ビドゴルニー(ヴァカンソレイユDCM)は、酷暑にも負けず果敢に飛び出した。後続プロトンにつけた最大タイム差は7分半。途中でウデが蜂に刺されて後退するも、残りの4人は非常に上手く協力し合ってエスケープを続けた。
特に気合が入っていたのは、トリコロールカラーに身を包むシャヴァネルだった。仏選手権を制して絶好調で乗り込んだツール・ド・フランスは、大会前半に落車したせいで、何も出来ずに終わっていた。だからこそ「いまだツール時のケガに苦しんでいる。でも調子は良くなっているし、ブエルタに出場できて嬉しいんだ」と開幕前に語っていたシャヴァネルは、前線で意欲的に走った。2つの中間ポイントではスプリントを切って、ボーナスタイム10秒を獲得。スタート時にはラストラスの方が総合では上だったが、まんまと立場を逆転した(シャヴァネル15秒遅れ→5秒遅れ、ラストラス14秒遅れ→8秒遅れ)。しかもゴール前13km地点の小さな峠に突入した時点で、後方とのタイム差は約2分。つまり逃げ切りがほぼ確実になって……マイヨ・ロハの可能性さえも見えてきた!
「でもサンタ峠の山頂まで600mのところで、ラストラスが飛び出した。ボクはついていけなかった。脚が痙攣し始めていたんだ」とシャヴァネルは振り返る。猛烈に飛び出したラストラスは、山頂で山岳ポイントをもぎ取ると、そのままの勢いで下り坂へと飛び込んだ。最後の平地でも、個人タイムトライアルさながらの力強い走りを見せた。一方のシャヴァネルは残り3kmで9秒差まで追い詰めたが——しかもこのとき、ラストラスは軽く脚が痙攣しかけていたのだが——、ほかの2人がまるで追走に協力してくれないせいで、もはやこれ以上は何もできなかった。
ラストラスにとっては、2007年エネコツアーの第6ステージ以来、実に4年ぶりに披露する勝利のジェスチャーだった。2008年にアンダルシア一周総合を制しているが、あの時は区間勝利を上げられず、フィニッシュラインを1番に通過することはなかったからだ。そしてこの日、世界中に示した3つの指には、大切な想いを込めた。1本目の指には5月に不幸な事故で亡くなったチームメートのハビエル・トンドへ、2本目の指にはラストラスも出走した今年のジロで命を落としたワウテル・ウエィラントへ、そして3本目の指にはツール・ド・スイスの落車事故で未だ苦しむチームメートのマウリシオ・ソレールへ。そしてまた、2001年ジロ・デ・イタリアで初めてのグランツールのステージを制してから10年後に、35歳にしてこうして人生5度目・ブエルタ3度目の区間勝利を手に入れられたことを心から喜んだのだった。
しかもこの日のラストラスは、全てを独占してしまった。ほかの3人を15秒突き放してゴールしたおかげで総合リーダージャージ「ラ・ロハ」を身にまとい、ポイント賞でもトップに立ち、山岳賞では3ptで5人が並ぶも「同点の場合は総合最上位選手にジャージが与えられる」というルールのおかげで青玉ジャージを手にし、さらにはモヴィスターにチーム総合首位さえもたらした!敢闘賞だけは、シャヴァネルがかろうじてモノにしている。
チーム レオパード・トレックが途中で追走を放棄した後方プロトンは、最終盤の2つの峠でバラバラに砕け散った。ラストラスから1分43秒遅れでゴールに到着したメイン集団は、44人にまで小さくなっていた。そこにはデニス・メンチョフ(ジェオックス・TMC)とアンドレアス・クレーデン(チーム・レディオシャック)の姿がなかった。ブエルタを過去2回制した前者は3分06秒遅れ、ツールでの落車リタイアから未だ完全復活できていない後者は12分19秒も失った。最初の難関山岳ステージを翌日に控え、実力者の2人が、早くもマイヨ・ロハ争いから脱落してしまった。
■パブロ・ラストラス(モヴィスターチーム)
区間勝利、総合・山岳賞・ポイント賞・コンビネーション賞リーダー
朝から逃げようと決めていたし、監督にも宣言していた。全力を尽くして前に飛び出して、逃げ集団でも全力を尽くした。勝利を手に入れるために全ての魂を込めた。つまりはクラシックレースを戦うような感じで走ったんだ。明日30分失っても構わない、そんな覚悟だった。それにベテランとしての経験があったから、逃げ集団内で誰が危険人物なのかも把握していた。最終的には好タイミングでアタックをかけられたかどうかが、勝利の決め手となった。
今年のジロで区間勝利を逃していたから、この勝利で悔しさを晴らすことができたね。キャリアにおける最大のハイライトは、2001年ジロで区間を制したこと。2003年ツールの区間勝利もまた、強烈に記憶している。母親が4ヶ月前に他界していて、自転車をやめるかどうか悩んでいた時期だった。でも母から言われたことを思い出したんだ。何かに取り掛かったら、最後まで戦い続けなきゃならない、と。だからボク個人の感情の中では、あれが最大の勝利なんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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