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「誰が総合優勝を手にするのかは未だ見えてこないが、誰が総合優勝できないのかはっきりとする」。これぞ大会最初の難関山岳を語るときに使われる常套句であり、2011年ブエルタ最初の山頂フィニッシュにもやはり当てはまった。マイヨ・ロハの行方を感じさせるアタックこそなかったものの、イゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)がマイヨ・ロハを獲得する可能性は大幅に下がった。その一方で前日あとわずかで総合リーダーの座に手が届かなかったシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)は、有力選手たちの少々控え目な戦いのおかげで、まんまと赤いジャージに袖を通した!
ほぼゼロkm地点から始まった1級フィラブレス峠への上りを利用して、7選手が逃げにトライした。あいかわらずのひどい暑さにも負けず、ギヨーム・ボナフォン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、ホセビセンテ・トリビオ(アンダルシア・カハグラナダ)、エドアルド・ヴォルガノフ(チーム・カチューシャ)、クーン・デコルト(スキル・シマノ)、ヨアン・バゴット(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)、マシュー・ブッシュ(チーム・レディオシャック)、トーマス・ローレッガー(チーム レオパード・トレック)は後方プロトンに最大8分半差をつけた。途中2つの峠では、土井雪広のチームメート、デコルトが1位通過で山岳ポイント計13ptを獲得。また逃げ7人の中では総合トップにつけたローレッガーが、2つのスプリントポイントを先頭で駆け抜けてボーナスタイム12秒を懐に入れる。
ただし7人の奮闘は、まもなく終わりを告げる。メインプロトンでは4賞ジャージ独占するパブロ・ラストラスとモヴィスター チームが、タイム差制御に精を出した。また決戦地の接近と共に、ラボバンクやチーム・カチューシャも勇んで仕事を始めた。そして最終峠、シエラ・ネヴァダの途中で、主役の座を静かに引き渡した。
アタックはなかった、と前述したが、リクイガス・キャノンデールは確かに積極的に動いた。まずはラスト9kmでエロス・カペッキが猛烈な牽引開始。さらにゴール前7.5kmでは、ディフェンディングチャンピオンのヴィンチェンツォ・ニバリ自らが加速した。全ては集団後方で千切れそうになっていたアントンを、完全に振り払ってしまうため。「昨日の上りでも苦しんだけど、今はまだ徐々にリズムを上げている段階なんだ。今日で、自分が果たしてどんな調子なのか、はっきりと知ることになるだろう」とスタート前に語っていたアントンは、つまり、自分は「不調」なのだと嫌でも悟ったに違いない。リクイガスの度重なる加速でメイン集団から脱落し、最終的には、総合ライバルたちから1分半近いタイムを失った。
このリクイガスの加速には、シャヴァネルも大いに苦しんだ。それでもマイヨ・ロホ姿のラストラスが落ちていく姿を横目に見ながら、必死にしがみ付いた。残り4km地点でチーム・カチューシャのホアキン・ロドリゲス……ではなく、ダニエル・モレーノが飛び出していったのもシャヴァネルには好都合だったに違いない。もしも「プリート」のアタックであれば、ほかの優勝候補たちはさらにスピードを上げたはずだったから。結局シャヴァネルはラスト2kmまでメイン集団に喰らいつき、被害を最小限に食い止めた。そして標高2000mを越える山のてっぺんで、2008年ブエルタで1日着用して以来となる——当時はマイヨ・オロ、黄金ジャージだったが——リーダージャージをつかみ取った。ちなみに気の早いフランス自転車界は、「2011年ツールでのトマ・ヴォクレール奮闘の再現なるか!?」となにやら興奮している。
そのモレーノは、もう少し前から飛び出していたクリス・セレンセン(サクソバンク・サンガード)と勝利を奪い合った。セレンセンがゴール前1.5kmでライバルを振り払おうと加速を仕掛けるも、モレーノはきっちり対応する。むしろその後は無駄な体力を一切使わずに、敵の背後に張り付くと、最後はゴールスプリントで全力を爆発させた。2009年ジャパンカップでは表彰台の最上段に立つセレンセンを、2番目の位置から見上げたモレーノ。この日は立場を見事に逆転し、初めてのグランツール区間勝利の栄光を味わったのだった。
また11秒遅れのメイン集団で、トップを切ってゴールラインに飛び込んだのは2010年ジャパンカップ王者のダニエル・マーティン(ガーミン・サーヴェロ)だった。アントンとアンドレアス・クレーデン(チーム・レディオシャック)はタイムを落としたが、それ以外の総合有力候補はほぼ全員メイン集団内で1日を終えた。前ステージではメカトラブル、さらには他人の落車に脚止めされて大幅にタイムを失ったデニス・メンショフ(ジェオックス・TMC)も、「調子自体は非常に良い」と断言していた通り無事にライバルたちと揃ってゴールにたどり着いている。
山の戦いに紛れて、スプリントの王者、マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)がひっそりと自転車を降りた。今年限りで消滅するHTC・ハイロードからは、すでにマシューハーレー・ゴスがリタイアしている。年頭に打ち立てた誓い「年間3大ツール全てで区間勝利を取る」が果たされることはなかった。またカヴを乗せたHTCスプリントトレインが、もう2度とグランツールで走ることはない。
■ダニエル・モレーノ(チーム・カチューシャ)
ステージ優勝
素晴らしい勝利を手に入れることができて満足だ。今日は何かいい走りが出来そうだと考えていた。だって自分の脚質にぴったりのステージ地形だったからね。実はステージ序盤は調子が良くなかったんだけど、徐々にリズムを取り戻していった。ゴール前5kmで、ロドリゲスに調子はどうかと聞いたんだ。そうしたら彼は「調子はいい」と答えた上で、むしろボクに「アタックを仕掛けろ、区間勝利を狙いに行け」と攻撃許可を与えてくれた。大会前から今日のような自由に走るチャンスを与えてくれると話はしていたけれど、特に今日と決めていたわけではなかった。
かつてないほど素晴らしいシーズンを過ごしている。今まで以上に練習に励んできたし、特に高地トレーニング合宿をたくさんこなしてきた成果なんだ。でも自分がブエルタの表彰台にくいこめるなどとは考えていない。ボクはあくまでもロドリゲスを助けるために今大会に乗り込んだんだ。ロドリゲスの総合優勝の可能性はかなり高いと信じている。彼を支えるチームも非常に強い。今年こそロドリゲス優勝のチャンスだよ。
■シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)
総合リーダー
今ブエルタには高いモチベーションを持って乗り込んできたんだ。今日と昨日の走りで、そのことを証明できたと思う。シエラ・ネヴァダの上りに入ったあと、ラストラスの調子が良くなさそうなことが見て取れた。だからボクにリーダージャージを取る可能性があると悟った。山を上りきった先にはマイヨ・ロホがあるんだ、と信じて集団にしがみ付いた。すごくきつかったよ。だって昨日のエスケープの疲れが脚に残っていたからね。上り始めの5、6kmを問題なくこなせば、その後は勾配がゆるくなることを知っていた。でもその前にリクイガスが加速を始めて、苦しくなってしまったんだ。できる限り粘ったよ。タイムを少し失ったけれど、ありがたいことに十分なリードがあったんだ。マイヨ・ロホが手に入れられて本当に嬉しいよ。
この先はジャージを守るよう努力していくし、リーダーとして恥ずかしくない走りを見せたい。明日の第5ステージは難しい上りゴールだけれど、できる限り努力するさ。確かにボクの脚質には合っていないけれど、5分も失ったりはしないはずだ。フィリップ・ジルベールに電話して、1日だけ彼の脚を貸してくれるように頼もうかな……。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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