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ちょうど1年前の、まさに同じ激坂では、真っ先にアタックを仕掛けた。しかし「タイミングが早すぎた」と後悔したように、坂の途中であえなく追い抜かれた。しかも区間4位に沈み、欲しかったボーナスタイムさえ手に入らなかったし、そのせいで逆転マイヨ・ロハも成し遂げられなかった。つまりホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)にとって、ある意味、この日はリベンジだった。「激坂ハンター」の名にかけて、絶対に、バルデペニャス・デ・ハエンを攻略しなくてはならなかったのだ。
無数のアタック合戦で、ハイスピードの1日は幕を開けた。まずは大量18選手が逃げ出した。その後は2級バルデペニャス峠の1回目の上りと下りを利用して、前方集団からさらに8選手が先を急いだ。レイン・タラマエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)、ペテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)、ミハエル・アルバジーニ(HTC・ハイロード)……等々の実力者が肩を並べるエスケープ集団を、後方からチーム・カチューシャ軍団が遠隔コントロール。タイム差を常に1分半程度に保つために大いに力を尽くした。
なにしろチーム・カチューシャは、最初の18人集団には3選手を送り込んだものの、8人に小さくなった集団には誰も滑り込めなかったのだ。対照的にマイヨ・ロホ姿のシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)は、チームメートのダヴィデ・マラカルネが8人グループ内に留まってくれたおかげで、比較的静かな時間を過ごすことができたとのこと。さらにアルバジーニ、ヨハネス・フローリンガー(スキル・シマノ)とアンヘル・マドラソ(モヴィスター チーム)の3人がアタックを企てた後も、やはりチーム・カチューシャトレインが黙々とタイム差を縮めにかかった。懸命な仕事のおかげで、2回目の2級バルデペニャス峠への上りに突入する前には、全ての逃げ選手を無事に回収し終えた。
上りの途中でダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)が飛び出したが、チーム・カチューシャは慌てて潰しに行くことはなかった。おかげで3年連続ブエルタ山岳王は、2011年初めての山岳ポイント(5pt)をあっさりと獲得。ただしチーム・カチューシャはそのまま逃げ切りを許すこともない。自らも総合上位を狙える実力のある「豪華アシスト」ウラディミール・カルペツにラスト数キロを大いに引かせ、最後の激坂の麓できっちりとモンクティエを捕まえた。また合流と同時に、前日の区間勝者ダニエル・モレーノがカルペツのあとを引き継いだ。やはり「総合上位を狙えるのでは?」とメディア内で囁かれるヒルクライマーが、まるでスプリントの最終発射台のように、ロドリゲスを背後に引き連れて激坂をよじ登っていく。
ちなみにリーダーの飛び出しを見送った後も、モレーノは自分の走りを続けた。なぜなら前日終了時点で43秒のリードをつけるシャヴァネルから、マイヨ・ロホを奪い取れる可能性があったから。そして区間3位に入り、ボーナスタイム8秒を手に入れ、シャヴァネルの到着を待った。しかし青白赤のフレンチトリコロールジャージを脱ぎ捨て、赤色のジャージに翼を得たシャヴァネルは、モレーノから26秒遅れでゴールラインを横切った。……つまりわずか9秒差で、シャヴァネルが首位の座を守りきった!2008年ブエルタでは1日、2010年ツールでは1日×2回、リーダージャージを着てきたシャヴァネルだが、実は「ジャージ保守」「2日連続」は初めての体験である。この成功にすっかり気を良くしたフランスチャンピオンは、「第10ステージまでは守りたいね」と強気のコメントを残している。
モレーノは無念だったに違いないが、ロドリゲスは見事に念願を果たした。ヴァウテル・プールス(ヴァカンソレイユDCM)の追随をまるで許さず、自らの激坂コレクション——イタリアのモンテルポーネやフランスのモンテ・ジャラベール等々——にバルデペニャス・デ・ハエンを付け加えた。しかも昨季王者ヴィンチェンツォ・ニバリを11秒突き放したし(「あの短い距離で、予想以上にタイム差がつけられたよね!」と満足気だ)、もちろんボーナスタイム20秒も懐におさめた。総合でもニバリを10秒逆転し、マイヨ・ロホ候補としては総合トップに立った(シャヴァネルから23秒差の総合3位)。なによりロドリゲスは、山での好調さをライバルたちに改めて見せ付けた。「個人タイムトライアルでは、去年もそうだったように、状況が変わるかもしれないけど」とあくまでも慎重な姿勢を崩さないが、ひときわ山の多い今ブエルタで「今の調子を最後まで保つことさえできれば……」と野心を燃やす。
ニバリ以外の総合ライバルでは、ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)とユルゲン・ヴァンデンブロック(オメガファルマ・ロット)が7秒差で好調さを証明した。初日マイヨ・ロホのヤコブ・フグルサング(チーム レオパード・トレック)も同タイムでゴールし、総合争いにしっかり残った。デニス・メンショフ(ジェオックス・TMC)も前日に続きミスなく11秒遅れ。また日本の土井雪広は32分01秒遅れの最終グルペットで静かに1日を終えている。
ちょうど1年前の、まさに同じ激坂で華麗なる勝利を手に入れたイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)は、今年はもがき苦しみながら坂の上へとたどり着いた。2日連続の大幅なタイムロス。すでに総合ではロドリゲスからは2分47秒、ニバリからは2分37秒もの大差をつけられ、早くもマイヨ・ロホは絶望的となった。
■ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)
ステージ優勝
最後の上りはとんでもなく見ごたえがあったよね。まるでベルギーのビッグクラシックみたいで、沿道には観客がたくさん詰め掛けていた。大勢の人々が「プリート!」と声援を飛ばしてくれたよ。すごく楽しかった。しかもあれほど短距離だったにも関わらず、予想以上のタイム差をライバルたちから奪うことができた。
ほかの選手に比べて体力を消費してしまったとは思わない。今日のようなステージの後は、みんなが疲れているはずだよ。それに自転車界でよく言われるように、勝者というのはほかの選手に比べて疲れていないものなんだ。だって気力が高まっているからね。自分の走りには驚いていないよ。だってボクは勝つためにここにやってきたんだから。だから今の総合ポジションには満足している。とにかくブエルタの終わりまで、今のような山の調子を保てるよう願ってる。
■シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)
総合リーダー
想像以上に難しいステージだった!正直に言うと驚いたよ。スタート時からすぐにハイスピードの厳しい戦いが始まった。しかも1日中、まるでジェットコースターのように上ったり下ったり。ただここ数日に比べると、今日はそれほど暑くなかったのが幸いだった。ボクは何とかしがみ付くことができたし、ジャージを守りきることができた。チームの仕事が報われたね。チームメートはレースを本当に上手くコントロールしてくれた。特にマラカルネには感謝している。彼が逃げに乗ってくれたおかげで、ボクらチームはエネルギーを温存することが出来たのだから。
最終盤のボクはひどく疲れていて、あまりいいポジションで最後の上りに突入することはできなかった。だからロドリゲスからの総合リード、つまり1分差を頭に入れて走った。ブエルタはヒルクライマー向けのレースで、ボクは決して山岳巧者ではない。だからこそ総合リーダーの座を守ることができて本当に誇らしいんだ。この先は1日1日積み重ねていくつもりだけど、できれば第10ステージの個人タイムトライアル時まで首位を守りたいな。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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