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本日のリクイガス・キャノンデールが上手くできたこと。ペテル・サガンがステージ優勝したこと。ヴィンチェンツォ・ニバリがライバルたちからタイムを奪えたこと。上手くできなかったこと。ニバリにステージ優勝どころか、ボーナスタイムを取らせて上げられなかったこと。……最低でもニバリが3位でゴールしていれば、タイム差をさらに8秒加えられるはずだった。リクイガス・キャノンデールとんでもなく大胆な作戦を成功させたが、詰めがほんの少しだけ甘かった。
1日は慌しく始まった。出走と同時にプロトンはめくるめくアタック合戦に突入し、序盤1時間を50.2km/hというとんでもない高速で駆け抜けた。しかもマイヨ・ロホ姿のシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)やら優勝大本命のホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)が前方に飛び出したり、ディフェンディングチャンピオンのニバリ(リクイガス・キャノンデール)が分断にはまりかけたりしたものだから、それこそ多くのチームが攻撃を繰り広げたのだった。
エスケープが許されたのはようやく60kmを過ぎてから。逃げ始めた4選手の中には、我らが土井雪広(スキル・シマノ)の姿があった!30km地点で飛び出しにトライしたグループにもすでに土井は滑り込んでおり、史上初めてブエルタを走る「ハポネ(日本人)」は、見事にエスケープへの意欲を形にしてみせた。共に逃げた仲間はアドリアン・パロマレス(アンダルシア・カハグラナダ)、マルティン・コーラー(BMCレーシングチーム)、そしてアレクセイ・サラモティン(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)。4人は上手く協力し合いながら先を急ぎ、一旦は後続プロトンに8分ほどのタイム差をつける。
しかしハイスピードの戦いは終わらない。ステージも折り返し地点を過ぎた頃、後方プロトンは加速を再開。特にダニエーレ・ベンナーティ擁するチーム レオパード・トレックが、ファビアン・カンチェッラーラの恐ろしい牽引力を利用してぐいぐい迫ってきた。個人タイムトライアルで4度の世界チャンピオンに輝いた男は、直線の向かい風で苦しむ4人を、ラスト45kmからの5km間で1分半も縮める離れ業をやってのけた。カンチェッラーラの同国人、コーラーだけは最後の力を振り絞り単独アタックに打って出たが、全ては無駄な抵抗に終わった。この日唯一の山岳へと突入すると、4人はそれぞれに吸収されていった。
最終的に土井雪広は、ボーナスタイム4秒を手にした上で、17分32秒遅れでゴール。ステージ後には「このツアーの一つの目標として設定した逃げに入る事。グランツールで逃げにのることは簡単じゃないことだった。でもこんなに早く達成できるとは。自分を信じていれば出来るもんですね」と、自身のツイッターでコメントを発表している。
合流しても相変わらずチーム レオパード・トレックは猛進を続けた。勾配14%の最難関ゾーンで飛び出したダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)に関しては、いわば「お約束」の山岳ポイント収集アタックとして、静かに先を行かせた。ただし独走力のあるトニー・マルティン(HTC・ハイロード)や、ダビ・デラフエンテ(ジェオックス・TMC)、さらに総合上位を狙える位置に付けるケヴィン・シールトラーイェルス(クイックステップ)が3年連続ブエルタ山岳王に合流すると、さすがにレオパード軍団が黙ってはいなかった。ゴールへと続く下りでさらにスピードを上げて……、と、ここでリクイガス軍団が前線へとひらりと躍り出てきた。
総合優勝候補が下りで前方ポジションを取りたがるのは、分断や落車事故を避けるために、極めて普通の行動であろう。ただしゴール前8kmでモンクティエ等を追い抜いてからも、リクイガスは攻撃的なエアロダイナミックなポジションで攻めつつ、TVカメラ用オートバイのスリップストリームを利用してさらなる加速を見せた。そして「予想もしていなかった(byサガン)」、「即興的(byエロス・カペッキ)」な動きで、ライバルたちは思わず千切れてしまった!前方にはリクイガス4人(サガン、ニバリ、カペッキ、バレリオ・アニョーリ)+パブロ・ラストラス(モヴィスター チーム)の小さなグループが出来上がった。その後はまるでチームタイムトライアルさながらに、ゴールラインへと突き進んでいった。
独占状態のリクイガスは、真っ先にニバリを勝たせようと考えた。前日にホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)から奪われた11秒+ボーナスタイム20秒を取り戻すことができれば、それこそ最高の筋書きだったはずだから。しかしゴール前1kmでサガンがニバリを連れて飛び出すも、唯一の邪魔者ラストラスに、行方を阻まれてしまう。ならば、と急遽計画を変更。サガンがスプリントで勝ちに行き、ニバリも2位か3位でボーナスタイムを手に入れようと、まるで慣れないゴールスプリントに打って出た。
「ゴール前300mから加速したんだ。でも距離が長すぎたね。それにアニョーリとちょっとした意志の行き違いがあったんだよ」とニバリは振り返る。21歳で生まれて初めてのグランツールを戦うサガンが、初めてのステージ勝利を手に入れた一方で、ニバリは4位という不本意な結果に終わってしまった。2位の座をラストラスに取られたのは当然としても、ブレーキが間に合わなかったアシストのアニョーリに3位を奪われてしまって……。「でも今日の動きには満足しているんだ。総合争いに有利な結果となったからね」とニバリはあくまでも前向きだ。
ロドリゲスやシャヴァネルらは、17秒遅れの小さな10人グループでゴールにたどり着いた。23秒遅れの大集団には、総合2位ダニエル・モレーノ(チーム・カチューシャ)が入っていた。ロドリゲスはニバリに総合で7秒の逆転を許したが、シャヴァネルは無事に赤色ジャージを守りきった。
■ペテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)
ステージ優勝
すごく満足だよ。ボクらチームはすごいことを成し遂げた。もちろんニバリが勝って、ボーナスタイムを取れていたら、もっと良かったけどね。下りでは、ニバリが前方に出るよう言ってきた。だからリクイガスの4人で、先頭で下ったんだ。でもあの信じられないような状況が出来上がるとは、予想もしていなかったんだよ。背後の選手たちが付いてこられないと気がついたから、ライバルを引き離すために、ボクらはさらにスピードを上げた。ゴールまで1kmを切ったあとは、ラストラスを突き放して、ニバリが1人で逃げ切るチャンスを作ろうと動いた。でもラストラスは、ボクらを追い越しにかかった。だからボクが勝ちに行くしかなかったんだ。チームの勝機を絶対に逃したくなかったからね。
2週間前にポーランド一周を制したおかげで、体が絞れていたし、ブエルタで何かできるかもしれないという自信につながった。でも暑さのせいで予想以上に苦しめられている。なにより大会前のレース転戦で、開幕時にはすでに少し疲れていた。だから体調はあまりよくないんだ。この勝利で天にも昇ったような気分だけれど、ボクの真の目標はマドリードまで走りきること。生まれて初めてのグランツールを完走したい。世界選手権や来年のことなんか、今は何も考えたくはないんだ。
■シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)
総合リーダー
ひどい高速ステージだった。スタート直後はまるでクレイジーだったね。30km地点ではボクも逃げに乗ったほどだよ。30秒ほどのリードを奪ったし、もちろん、ボクはプロトンを待ったりなんかしなかった!おかげでチームメートたちは、少し一息つけたんじゃないかと思う。4選手が逃げに乗ってからはチームはコントロールをやめた。逃げ集団内で総合トップの選手は50分遅れだったから、スプリンターチームに仕事をさせた。仕事の大部分はチーム レオパード・トレックが請け負ってくれた。
2級峠では警戒を怠らなかった。下りでタイム差ができる可能性も分かっていたから、集団の前線に留まっていたんだ。でもリクイガスの選手たちが下りで飛び出した。議論を吹っかけるつもりはないけれど、リクイガスは、TVバイクを利用して加速したんだ。ボクも彼らの後ろを追った。実は安全のためにある程度の距離を保って走っていたんだけど、ある時点まで行ったら、もはや彼らに追いつくことなど不可能になっていた。こうして数秒失ってしまった。でも全体的に見れば今日は上手くやれたし、マイヨ・ロホを守ることができて満足しているんだ。明日は、もしも何か事件が起こらなければ、スプリントゴールで終わるだろう。ボクもジャージを守れるはずだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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