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気温も程よく下がり、道も比較的平坦だった。予想以上に厳しかった開幕からの6日間を終えて、ようやく「ほっ」と一息つける時間がやってきた……はずだった。しかし1日の終わりには、多くの選手たちが——特にたくさんの総合優勝候補たちが——体のあちこちを痛めてしまっていた。
飛び出しはあっさりと許された。前日の序盤1時間は時速50km超のアタック合戦が繰り広げられたというのに、打って変わってこの日はのんびりとしたサイクリングモード。第3ステージ以降は1日も欠かさず逃げに選手を送り込んでいるコフィディス ル クレディ アン リーニュからジュリアン・フシャールとルイス・マテマルドネス、やはりほぼ毎日存在をアピールするアンダルシア・カハグラナダのアントニオ・カベーリョ、そしてスティーヴ・ウアナール(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)の4人は、ゼロkm地点で飛び出すと、楽々と9分ものタイム差をつけた。しかも後方の追走集団は焦らず慌てず、そのままスタートから4時間に渡って、時速35km程度のゆっくりとした歩みは続けられた。
ステージの最終45分間は、一転して、ひどくハードだった。「でも最終盤に厳しいな戦いが待っていることを、誰もが知っていたのさ」と後の勝者マルセル・キッテル(スキル・シマノ)が語ったように、ゴールまで約30km地点、突如状況は変わる。きっかけは、横風区間を利用してガーミン・サーヴェロが激しい加速を始めたこと。そこまで半分眠っていたようなプロトンは、あっという間に散り散りに分断してしまった! 再合流のために多くの選手が労力を費やし、集団内は緊張感で満たされていく。
また前方の4人も急速に追い詰められていった。たまらずコフィディスのマテマルドネスがアタックをしかけ、さらにチームメートのフシャールがあとを継ぐと、わずかな可能性を求めてあがき続けた。しかし「本物の」平地ステージが極端に少ない2011年ブエルタで、滅多にないスプリント機会を逃すまいと、多くのスプリンターチームがトレインを組んで襲い掛かってくる。ゴールまで7.5kmを残して、長い逃げには終止符が打たれた。
マーク・カヴェンディッシュもマシューハーレー・ゴス(いずれもHTC・ハイロード)もいなくなったプロトン内では、多くのスプリンターに野心を抱くことが許された。ベテランも新人も、ビッグチームも小さなプロコンチネンタルチームも、前方の場所取りに大いに励む。何本ものトレインが走り、交差し、カオス状態を生み出した。そして最終1kmのアーチを先頭でくぐり抜けたのは、キッテルを背後に従えたスキル・シマノの隊列だ!
自分のスプリントに極限まで集中していたキッテルは、後ろで何が起こったのか、全く気がつかなかったと言う。おかげでゴール前200mで解放された後、何事にも邪魔されることなく、力強くフィニッシュラインを先頭で越えることができた。今季プロ入りを果たし、そのプロ1戦目のツール・ド・ランカウィでプロ1勝目を上げ、大会直前のツール・ド・ポローニュでは区間4勝を荒稼ぎした23歳が、生まれて初めてのグランツールで初めての区間勝利。また2005年に誕生し(当時はシマノ・メモリーコープ)、2009年ツールに続くチーム2度目のグランツールを戦うスキル・シマノにとっては、待望のチーム1勝目となった。
ちなみにブエルタ開催側や多くのスペイン自転車ファンにとって、「スキル」と言えば、今までは80年代中盤に活躍した「スキル・セム」を思い浮かべることのほうが多かったはずだ。1984年にはスキル・セム所属のエリック・カリトゥが今と同じラフルな斜めライン入りジャージでブエルタ総合優勝を遂げているし、1985年にはやはりスキル・セムのショーン・ケリーがブエルタポイント賞を勝ち取っている。しかしキッテルの勝利と、もちろん日本の土井雪広のロングエスケープのおかげで、これからは「スキル・シマノ」として定着していくことだろう。
フィニッシュラインまで100m、キッテルの後ろでは、集団落車が起こっていた。きっかけとなったタイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)とミハル・ゴラス(ヴァカンソレイユDCM)の接触は、前から数えて5、6番目……。つまりプロトンの極めて前方での出来事だった。当のファラーとゴラスが病院送りとなっただけでなく、2人よりも後ろにいたほぼ全ての選手が落車に巻き込まれてしまったことになる。しかも大集団ゴール時に前方にいるのは、なにもスプリンターやスプリントアシストばかりではない。「まさしくトラブルを避けるために、前線に留まるよう心がけていたんだ。スプリント時もいいポジションにつけていた」とゴール後にミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)が語ったように、多くの総合有力選手も集団前方にいたのだ! そしてスカルポーニやヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・キャノンデール)、ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)、ユルゲン・ヴァンデンブロック(オメガファルマ・ロット)といった実力者たちを、落車がもろに直撃した。
「ゴール前3km以内で発生したメカトラブル・落車のせいで遅れた選手には、アクシデント発生時に所属していた集団と同じゴールタイムが与えられる」というルールに則って、落車に巻き込まれた全ての選手に、優勝者キッテルと同じゴールタイムが記録された。ギリギリで落車をかわしてブレーキをかけたシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)はマイヨ・ロホを守ったし、総合争いの選手たちも数字の面では何の損失もなかった。しかし肉体的には被害をこうむった。ニバリは太ももと臀部を強く打ち付け、ロドリゲスは掌を痛め、スカルポーニは右腕と左足を打撲し、ヴァンデンブロックは膝と肘を出血。この平凡な平坦ステージでの落車が、後のマイヨ・ロホ争いを左右することにならないとよいのだが……。翌日の第8ステージから、いよいよ2011年ブエルタは本格的な難関山岳シリーズに突入する。
■マルセル・キッテル(スキル・シマノ)
ステージ優勝
この感激を上手く言い表せない。グランツールでの区間優勝は、ボクにとってもスキル・シマノにとっても夢だった。チームにとって素晴らしい結果だし、本当に幸せだよ。ボクにとってはキャリア最大の勝利だ。しかもボクらチームは今大会に招待してもらったわけだけど、開催委員会の期待にしっかり応えることができた。これが本当に嬉しいんだ。
チームメートなしでは、ボクのスピードを見せ付けることなんかできなかったはずだ。だからチームの仕事を本当に誇りに思うよ。チームメートを心から信頼しているし、今日の彼らはボクのために120%を尽くしてくれた。パーフェクトだった。この先もステージ勝利のチャンスを探っていきたいし、スプリンターとしてさらに成長していきたいと願っている。
■シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)
総合リーダー
スプリンター向けのステージだったから、かなり静かなリズムでレースは進んだね。チームも1日中しっかり集団をコントロールした。最終盤は風のせいで集団内がひどく緊張感に包まれたけれど、ボク自身はそれほどストレスに感じなかったし、常によいポジションに留まることができたんだ。ゴール直前でファラーの落車が集団を巻き込んだときだけは、唯一、怖い思いをした。転んでしまうんじゃないかと考えたよ。急ブレーキをかけた。幸いにもギリギリで難を逃れることができて、落車せずにすんだ。
明日はまるで別の1日になるだろう。間違いなく、今日よりも難しいはずだ。ゴール前はバルデペニャス・デ・ハエンよりも険しい「壁」だと聞いている。だからマイヨ・ロホを守れるだろう、などと幻想を抱いたりはしない。もちろん、いつも通りにジャージを守る努力はするし、野心を抱いていないわけでもないんだよ。ただボクは冷静なだけなんだ。ロドリゲスやモレーノについていくのは、かなり難しいはずだからね。ジャージを失ってしまったとしても、大きな問題じゃない。だってこのブエルタには、まだまだボクが輝けるチャンスがたくさん残っているんだから。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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