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果たして英雄か、それともプロトン一のマゾヒストか。世界を唖然とさせた拷問のような細道を、ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)が力技でねじ伏せた。まるで北のクラシックとアルデンヌクラシックがいっぺんにやってきたかのような、石畳+激坂の難関ゴール。大会開催委員長ハビエル・ギエン自らがゴール地点に組み込むことを願った、2011年ブエルタ・ア・エスパーニャ最大級の見せ場だった。
来るべき激坂の影におびえながらも、誰もがひたすら前へと突き進んだ。多くの逃げが湧き上がり、「今日も総合首位の座を守れる、なんて幻想は抱かない」と前夜語っていたシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)さえもアタックを試みた。さすがにマイヨ・ロホの抜け駆けは許されず、あえなくプロトンに飲み込まれてしまう。そして吸収と同時に、ハインリッヒ・ハウッスラー(ガーミン・サーヴェロ)とマッテーオ・モンタグーティ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)がエスケープを開始。しばらく後には、前日も逃げたジュリアン・フシャール(コフィディス ル クレディ アンリーニュ)と、2日前に土井雪広(スキル・シマノ)と共に前方を走ったアドリアン・パロマレス(アンダルシア・カハグラナダ)が2人を追いかけて飛び出した。65km地点で4人は合流を果たすと、後方に最大7分半ほどの差をつけた。
メイン集団内では、早々にカチューシャが追走体制を組み始めていた。ボーナスタイムの存在しないレース、たとえばツール・ド・フランスなら、もしかしたら逃げ切り勝利だって許されたかもしれない。ただし真っ先にフィニッシュラインを越えた選手に20秒のご褒美が与えられるブエルタでは、区間勝利(または区間トップ3入り)こそが、総合争いを有利に進める最大の秘訣となる。特にカチューシャのエース、ロドリゲスにとってはボーナスタイム収集は非常に大切な作業だった。なにしろ2日後の個人タイムトライアル47kmで「少なくとも2分半は失うだろう」と自ら予言しており、だからこそ得意分野ではできる限りの秒数を稼いでおかなければならない。1年前の個人タイムトライアル46kmでは、ロドリゲスは区間勝者から6分12秒、後の総合勝者ヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・キャノンデール)から4分17秒も遅れている。
ロドリゲスの大好きな激坂フィニッシュでは、つまり、逃げ切りの可能性など最初からほぼ「ゼロ」に等しかった。ゴールまで25kmを切ると数選手がアタックを試みたが、いつの間にやらエスケープの4人と共に全員がカチューシャトレインに回収されていた。またゴール前12kmからの、やはりひどく険しい峠道では、レイン・タラマエやダヴィ・モンクティエ(共にコフィディス ル クレディ アンリーニュ)、アンヘル・マドラソ(モヴィスターチーム)、ヴァウテル・プールス(ヴァカンソレイユDCM)といった実力者が見事な山の脚を見せるも、激坂突入前にきっちりと潰された。
もちろん総合ライバルたちも、ただカチューシャの好きにさせておいたわけではなかった。たとえば「ロドリゲスが大本命なのは分かっていたさ。だからこそ彼がアタックする前に、先手を打った。それに石畳のリスクも避けたかったし」とゴール後に語ったスカルポーニは、ラスト3kmから、ランプレ・ISDのチームメートに集団前を引かせた。特にプルゼミスロ・ニエミエックの素晴らしい牽引が、ロドリゲスから右腕ダニエル・モレーノ——体重が軽すぎて石畳ゾーンでは体が浮いてしまったという——を引き剥がした。さらにラスト1kmのアーチをくぐった直後には、スカルポーニ本人が加速。さらにゴール前500mの勾配18%ゾーンでも、畳み掛けるようにペダルを踏み込んだ。
しかし本命の名に相応しく、ロドリゲスはまさしく無敵だった。7月に現地に下見に来ていた激坂ハンターは、どこで立ち上がり、どこで座ればよいのか、完璧に熟知していたという。ラスト400mの勾配20%ゾーンは、どうやらダンシングポイントだったようだ。瞬間的に巨大な爆発力を発揮すると、全てをあっという間に後方へと追いやった。その後はサドルにしっかり座り直し、ハイスピードを保ちながら、フィニッシュラインまでひたすら漕ぎ続けた。ライバルたちから少しでも多くタイムを奪い取るために、もちろん区間1位のボーナスタイムを手に入れるために。
坂の上ではお望みどおりに、20秒のご褒美が待っていた。第5ステージのやはり「激坂」フィニッシュに次ぐ、今大会2度目の区間勝利。さらには「必ずしも今ステージ後に取れなくても良い」と考えていた総合リーダージャージ「ラ・ロハ」も手に入った。むしろ今のロドリゲスがマイヨ・ロホよりも気になるのは、総合ライバルたちとのタイム差だったのだが……。
スカルポーニは努力の甲斐あって、9秒遅れてゴールに到着。区間2位のボーナスタイム12秒も手に入れた。またバウケ・モレッマ(ラボバンク)とユルゲン・ヴァンデンブロック(オメガファルマ・ロット)もそれぞれ9秒で被害を食い止めた。また初日マイヨ・ロホのヤコブ・フグルサング(チーム レオパード・トレック)が12秒遅れと好走を見せ、1週目にタイムを失ったイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)やデニス・メンショフ(ジェオックス・TMC)も15秒遅れと「総合争いへの復帰」を匂わせた。一方でディフェンディングチャンピオンのニバリは32秒遅れでゴールし、つまりロドリゲスからは計52秒も失った。本人によれば失速の原因は、「昨日の落車のせいで、最終盤は調子が良くなかった」とのこと。
総合では32秒差でチームメートのモレーノが2位につけ、以下34秒差フグルサング、45秒差ニバリ、51秒差スカルポーニと続く。1分以内にいまだ8人が、ロドリゲスの目安「2分半」以内には上位24人がひしめいている。しかもタイムトライアルに関してロドリゲスが最も恐れる2人、ヤネス・ブライコヴィッチ(チーム・レディオシャック)は1分30秒差れ、ブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)は1分43秒差につけている。翌第9ステージは、タイムトライアル前日の難関山岳フィニッシュ。ロドリゲスの奮闘は、またしても繰り返されるのだろう。
■ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)
区間優勝、総合リーダー
今日のゴール前は、やはりボクが制した第5ステージの最終坂よりも厳しかった。ただコースを知っていたのが有利だったね。この近辺に住んでいるモレーノと一緒に、7月に下見に来ていたんだ。それが今日の勝利に大いに役立った。どこでリズムを上げればよいのか、どこでサドルに座ればよいのか、どこで再び加速すればいいのか。ボクはあらかじめ分かっていたんだ。
ボクの狙いは、リーダージャージを取ることではなかった。ステージをコントロールして、勝利をあげ、ボーナスタイムを手に入れることだったんだ。ボクはできる限りボーナスタイムを獲得しなければならないんだ。このことは開幕前から理解していたし、だから上りフィニッシュに狙いをつけてきた。タイムトライアルでタイムを失うだろうと自覚しているからね。ブライコヴィッチやウィギンスのような選手からは、少なくとも2分半は失うだろう。明日もリードをさらに広げに行く。明日の最終峠は確かにボク向きの峠ではないけれど、今の調子ならば、いい走りを見せられるはずなんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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