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町中の短い激坂から、距離の長い難峠へ。当然のように求められる脚質は変わる。前夜に圧倒的な爆発力を誇ったホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)は喘ぎ、リードを広げるどころか、大きくタイムを失った。変わって持久力のあるヒルクライマーたちが実力を発揮した。なにより強い向かい風が吹きつけた海抜の高い山道では、「ルーラー」気質を持つオールラウンダーが驚異的な走りを見せた。今大会唯一の長距離個人タイムトライアル(47km)を翌日に控えて、世界屈指のルーラー……ブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)の存在感が一気に強まった。
ゼロkm地点から突入した3級峠を利用して、セバスティアン・ラング(オメガファルマ・ロット)が最初の飛び出しを決めた。しばらく後にホセビセンテ・トリビオ(アンダルシア・カハグラナダ)が追いつき、さらにヴァカンソレイユDCMからピム・リヒハルトとマルティン・ケイゼルの2人が合流。4人に増えたエスケープ集団は、後方プロトンから最大10分半ほどのリードを奪った。しかもマイヨ・ロホ姿のロドリゲスが「おそらく今日はエスケープ集団が逃げ切るだろうね」などと口にしていたせいか、カチューシャ軍団が統率するプロトンは、ゴールまで50kmを切ってもなお7分以上のタイム差を許していた。
ただし総合ライバルたちが黙ってはいなかった。前日大いにトライしたミケーレ・スカルポーニ率いるランプレ・ISDと、やはり前日に「復調」を匂わせたイゴール・アントンと山岳強者ミケルニエベ・イトゥラルデを擁するエウスカルテル・エウスカディが、積極的に追走に加わり出す。背後から迫りくる危険を悟ったのか、前方集団はラスト41kmで真っ二つに分断。ラングとリヒハルトだけが先を続けた。さらに最終峠の突入と同時に、ラングが単独アタックに打って出た。2008年ツール・ド・フランスで山岳ジャージを5日間着用した31歳は、残念ながらこの日は敢闘賞しか手に入らなかった。そして山頂まで6.5kmを残した地点で、強い風の中、強豪たちに道を譲ったのだった。
吸収の直後、珍しくロングエスケープに選手を送り込めなかったコフィディス ル クレディ アン リーニュから、レイン・タラマエが前に出た。しかし2日連続の特攻は、アタック合戦のきっかけを作ったに過ぎない。すぐさま今ジロ2位のスカルポーニが加速を切り、2年連続ジロ3位のヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・キャノンデール)もトライした。さらにアイルランドの従兄弟同士——イングランド生まれのダニエル・マーティン(ガーミン・サーヴェロ)とフランス生まれのニコラス・ロッシュ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)——が共闘を組んで飛び出し、ラスト5kmからはマーティンがひとり前へと急ぎはじめる。
すでにロドリゲスは遅れ始めていた。前日はうまくやったアントンも、またしても不調を露呈していた。だからこそスカルポーニは、執拗な加速を繰り返したはずだった。しかし「1日中調子は良かったし、最終峠の途中まで脚の力もあった。だからいい結果を出したかったんだ。それなのに……」とゴール後に肩を落としたように、以降、スカルポーニの姿も消えてしまう。突如として力を落とし、最終的にはステージ勝者から1分50秒も失ってしまった。
一方でニバリは淡々としたペースでマーティンに追いついた。さらにはウイギンズがクリス・フルーム(チームスカイ)のものすごい牽引に導かれて、そしてバウケ・モレッマ(ラボバンク)とファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)がスカイの仕事を上手く利用して上がってきた。しかも先頭が6人になってから、最高に驚異的な走りを見せたのは「明日のタイムトライアルのことなんて考えずに、今日を山岳タイムトライアルのつもりで走った」というウイギンズだ!
おかげで6人は後ろとのタイム差をしっかりと開くことができた。区間2位モレッマがわずか1秒差でロドリゲスからマイヨ・ロホを奪い取ったのも、ニバリが前日の激坂で大きく失ったタイムを取り戻して9秒遅れの総合3位に浮上したのも、五輪・世界トラックチャンピオンが山頂までハイスピードで突き進んでくれたから。肝心のウイギンズ本人は、前日までの1分43秒差から1分差の総合13位へとランクアップを果たした。総合表彰台を狙って絶好調で乗り込んだツール・ド・フランスは、落車リタイアで台無しになったが、ここスペインではリベンジをかけて「マドリードまで毎日100パーセントを尽くす」と宣言している。また同じくツールを落車で立ち去ったユルゲン・ヴァンデンブロック(オメガファルマ・ロット)も、総合5位と好位置に付ける。なにより元マウンテンバイク・クロスカントリー世界3位のフレデリック・ケシアコフ(アスタナ)が、総合4位と異彩を放っている。
山頂でのスプリントでは、マーティンが非常に上手くやった。6人の中で一番に飛び出しを仕掛けていたピュアクライマーは、ウイギンズとの合流後は背後に隠れてエネルギーをしっかり温存した。ラスト150mではフェンス際の隙間をすり抜けるという巧みな技さえ披露した。宇都宮ジャパンカップのディフェンディングチャンピオンは、25歳で、堂々たる初のグランツール区間勝利を手に入れた。
■ダニエル・マーティン(ガーミン・サーヴェロ)
ステージ優勝
最終盤は向かい風がきつかったけれど、ボク自身の調子は良かった。でもニバリに追いつかれて、ゴールまで逃げ切るのは難しいと悟ったんだ。ウイギンズが衝撃的な走りで追いついてきたからね。だからボクはスプリント勝負を待った。上手くやれて本当に嬉しいよ。世界のトップクライマーたち相手に、グランツールで勝利を上げることができた。チームにとっても朗報だ。チームメートはボクのために多くを尽くしてくれたし、ボクらチームがスプリントだけでなく山でも勝てることを証明してみせた。
(明日のTTについては)まだ何も考えていない。毎日がワンデーレースのつもりで走っている。今までこれほど長いタイムトライアルを走ったことはない。明日は平坦なルートだし、きっと風が多い。まるでボク向きではないステージだ。ただ今日のことだけを考えていたいものだね。
■バウケ・モレッマ(ラボバンク)
総合リーダー
マイヨ・ロホを取れたのはもちろん嬉しいけれど、ステージを取れなくてがっかりしている。怒りを感じてるよ。だって自分のミスだから。隙をつかれてビックリしたせいで、勝てなかったんだ。この赤ジャージは残念賞なのさ。1日を締めくくりに手に入れた、ステキなプレゼントでもあるよ。グランツールで総合首位に立つというのは、すごく特別なことだからね。何年も前からこんな日を夢見ていたんだ。
最後の上りは向かい風がひどく強くて、ボクは常にウイギンズとフルームの側で走っていた。集団はドンドン小さくなっていって、ロドリゲスもラスト5kmで追い抜いたよ。彼はあまり調子がよさそうではなくて、ビックリさせられた。スカルポーニの姿は見なかった。タイムトライアルでは全力を尽くすけれど、ウイギンズとのタイム差がかなり少ないから厳しいだろうね。調子は良いし、休養日後にハードなステージがいくつも待ち受けていることも知っている。ボクだってトップクライマーたちと渡り合えるはずだと思ってる。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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