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2月アルガルヴェ一周に始まって、3月パリ〜ニース、4月バスク一周、6月クリテリウム・デュ・ドーフィネ、7月ツール・ド・フランス、そしてこの8月のブエルタ・ア・エスパーニャ。トニー・マルティン(HTC・ハイロード)は2011シーズンに10回の個人タイムトライアル(以下ITT)を戦い、この日、6つ目の優勝を手に入れた。2位以下に59秒という大差をつけて! なによりの朗報は、ITT世界王者の証アルカンシェルを身にまとって走ったファビアン・カンチェッラーラ(チーム レオパード・トレック)を1分27秒も突き放したこと。もちろん両者にとって今回のITTはほんの調整に過ぎず、本番は3週間半後のコペンハーゲンで訪れる。
スペシャリストたちによる区間争いの一方で、ほぼフラットな47kmの路上では、マイヨ・ロホをめぐる戦いも繰り広げられた。中でも素晴らしい走りを見せつけたのが、2年前のツール総合4位でオールラウンダーとして覚醒するまで「スペシャリスト」としてならしてきたブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)だ。前日のラ・コバティヤ山頂フィニッシュでは山岳タイムトライアル張りの爆走を見せたばかりだというのに、この日は世界屈指のトラックレーサーとしての美しきフォームを披露。13.3km地点の第1回中間計測ポイントでは、マルティンを1秒上回るトップ通過を果たした! ただし様々に角度を変える強風がウイギンズの脚にブレーキをかけてしまったか、後半は少々タイムを落とし、最終的にマルティンより1分22秒遅れでゴール地へとたどり着いた。
ウイギンズの好走が予想通りなら、関係者を驚かせたのは——ただし本人は「本気では驚いていない」とのこと——クリス・フルーム(チームスカイ)だった。前日に驚異的な牽引でチームリーダーのウィギンスを山頂へと連れていったアシスト役は、そのウイギンズのちょうど1人前を走っていた。スタート前の両者の総合タイム差はわずか3秒。そしてこの日はチームから、「全力で走ってもいいよ」とゴーサインが出ていた。だからケニア生まれ・南ア育ちで、2010年には英国選手権ITTでウイギンズに次いで2位に入ったフルームはあらん限りの力を発揮した。
サラマンカの美しきマヨール広場にたどり着いたとき、電光板には55秒遅れの2位と表示されていた。その約2分半後に、フルームは自分がチームリーダーを総合で逆転してしまったことを知る。咄嗟に「え、どうしよう」と慌ててしまったそうだが……。生まれて初めてのグランツールリーダージャージに袖を通す頃には、「チームタイムトライアルで失ったタイムを取り戻すために、これまで必死に努力してきたけれど、この先はもう少し快適な走りができそうだ」と残り2週間の戦いに向けてポジティブな意欲を取り戻していた。そう、初日に得意種目で42秒も失ってしまったチームスカイだが、今やフルームがマイヨ・ロホ&ウイギンズが20秒差の総合3位。総合争いを断然有利に運べるポジションにつけている。
その初日チームタイムトライアルでマイヨ・ロホを手にしたヤコブ・フグルサング(チーム レオパード・トレック)は、10日目を終えてもしっかり総合争いに踏みとどまっている。カンチェッラーラからコース指導を受けて1分37秒差という抜群のタイムを記録し、総合ではフルームとウイギンズの間に割って入った(12秒差の総合2位)。同時にチームメートのマキシム・モンフォールが、59秒差の総合6位につけている。この2人もまた、この先の戦いにチーム力を大いに利用していくことができそうだ。
またディフェンディングチャンピオンのヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・キャノンデール)は、堅実な走りで2分24秒遅れでゴール。31秒差の総合4位で、大会開幕前から名前を挙げられていたマイヨ・ロホ本命の中ではトップポジションに立つ。フレデリック・ケシアコフ(アスタナ)は34秒差の総合5位に留まり、ここまでの好走が決して偶然ではないことを証明した。バウケ・モレッマ(ラボバンク)は初めてのマイヨ・ロホ姿を約1時間しかお披露目することができなかったものの、総合1分07秒遅れと、被害は最小限に食い止めた。
ある意味、予定通りに、ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)は大きくタイムを失った。ひどく苦手とするITTで、マルティンから5分24秒遅れてゴールにたどり着き、総合は2位から14位へと大きく下げた。タイムロスよりも、むしろ嘆くべきは「事前の計算(2分半)よりはるかにタイムを失ってしまった」ことであり、「昨日も予想外のタイムを失った(50秒)」こと。現時点でウィギンスとの総合タイム差は3分03秒、ニバリとのタイム差は1分52秒。ただ「プリート」にとって幸いなのは、この日が今大会最後のタイムトライアルで、タイム回復のチャンスはまだ11ステージも残っていることだろうか。
翌日は嬉しい大会1回目の休養日。初めてのグランツールの第1週目でいきなり「逃げ」と「チームメートの優勝」を経験した土井雪広(スキル・シマノ)にも、わずかながらほっと一息つける時間が訪れる。
■トニー・マルティン(HTC・ハイロード)
ステージ優勝
素晴らしい勝利となった。ブエルタはなにも世界選手権の調整のためだけにきているわけじゃないんだ。ステージ優勝を手にすることも、ボクにとっては大切なこと。それにカンチェッラーラやウィギンスを倒すことができたのが最高だね。今後に向けて大いなる自信となる。
今日はボクにとって全てが上手く進んだ。ゴール後にTVでレースを2時間見ていたから、何が起こったかもしっかり把握している。ウィギンスとのタイム差を考えると、自分が本当にいい仕事を成し遂げたことが分かるんだ。(タイム差がこれほど開いたことには)少し驚いている。確かに長距離ではあったけれど、それほど難しいコースではなかった。だから総合狙いの選手達は、もっと互いにタイムが接近するだろうと予想していたんだけど。
ここ2年連続で、ツールの総合上位を狙って走った。でもいずれも残念な結果に終わった。だからこの先はビッグタイムトライアルと、パリ〜ニースやバスク一周のような1週間のステージレースに集中していく。それに来年は五輪もあるしね。
■クリス・フルーム(チームスカイ)
総合リーダー
上りで力を使った翌日に、47kmのタイムトライアルというのはひどくきつかった。でもこれ以上の幸せはないね。ハイレベルな走りがしたいとずっと夢見てきて、それが現実になったんだから。今日はただ堅実な走りをして、ほかの総合争いの選手達から後れを取らないように努力したんだ。でも今日のボクはとにかく絶好調で、こうしてマイヨ・ロホを手に入れることができた。この先の悩みの種はジャージを守らなければならないことと、この先まだ2週間もハードに走らなければならないことだね。こんな状況は決して予想していなかったよ。ボクがチームの第2キャプテンになるだなんてね。チームからはこのタイムトライアルに全力を尽くして走って良い、とのお許しをもらっていた。本当にステキな1日となった。ファンタスティックだね!
ボクはケニアで生まれ育った。南アフリカの学校に転校してから、スポーツとしての自転車を始めたんだ。英国籍を取得するために、ケニアのパスポートは返上したんだ。後悔はしていない。ケニア人だったら世界選手権出場のチャンスがもっと大きかったかもしれないけれど、そもそもケニア自転車連盟はほぼ存在していないも同然だから。ボクは英国旗のもとで走っている。でも確かにボクのこれまでのバックグラウンドは風変わりかもしれないね。だから今ボクが来ているレッド・ジャージには、自転車の伝統のない国でレースを走る子供達へのメッセージを込めたい。到達不可能だなんて考えたらダメだよ、って!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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