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サイクル ロードレース コラム 2011年9月3日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2011】第13ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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滅多にないほど僅差の争いが繰り広げられている。たとえば1989年のツール・ド・フランスは史上最短の8秒差マイヨ・ジョーヌで有名だが、総合3位は3分半以上、4位は7分半と大差がついていた。わずか39秒差でアルベルト・コンタドールvsアンディ・シュレクの勝負が決した2010年のツールも、第13ステージの段階で、総合3位以下はすでに2分45秒以上のもの遅れを喫していた。ところが2011年ブエルタでは、現在その39秒よりもさらに少ない36秒差に、6人がひしめいている。2分45秒以内ならば15人だ。この日、大逃げでタイム差を取り戻したミケルニエベ・イトゥラルデ(エウスカルテル・エウスカディ)に敬意を表するならば、総合3分13秒以内に20人が密集している!

おかげで総合争いはヒートアップする一方だ。真っ先に熱を帯びたのは、秒単位の争いだった。前ステージでは総合6位のバウケ・モレッマ(ラボバンク)がボーナスタイムのために中間スプリントへ打って出たが、この日はヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・キャノンデール)が第1中間スプリントを先頭で走り抜けた。まんまと4秒差の総合2位へと上昇を果たす。……なにより35人という大人数で構成されたエスケープ集団——我らが土井雪広(スキル・シマノ)もその一員だった——に、マイヨ・ロホのブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)と共に紛れ込んでしまった! これには後方メイン集団のライバル達が大慌て。特にホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)が必死に働き、無事に抜け駆け組を回収した。

分単位の戦いはゴールまで続いた。開幕からの12日間で期待以上のタイムを失ってしまった総合リーダーたちが、起死回生のチャンスを求めてロングエスケープを行ったのだ。とりわけ3分50秒遅れだったニコラ・ロッシュ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)と4分25秒遅れのケヴィン・シールトラーイェルス(クイックステップ)は、それぞれスタート前から「逃げに乗る」と決意していたという。まずは最初のエスケープに乗った。その集団がニバリと共に吸収されると、スタートから55kmほどで新たに出来上がった逃げグループにもきっちり滑り込んだ。ここに3分39秒遅れダニエル・モレーノ(チーム・カチューシャ)、3分47秒遅れクリス・セレンセン(サクソバンク・サンガード)も合流。また開幕前はマイヨ・ロホ大本命ながら、当の昔に総合争いから放り出されてしまったイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)が、総合4分46秒遅れのチームメート、ミケルニエベ・イトゥラルデを引き連れて上がってきた。アントンは後に力尽きてしまうが、すでに前方にいた2人のチームメートがニエベのサポート役を引き継いだ。

20人以上が集まった先頭集団の、なにも全員が、総合タイム差のことだけを考えていたわけではない。たとえば2日前にすでに区間勝利を手に入れたダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)の、この日の最大の目的は山岳ポイント収集だった。「ゼロkm地点から戦ったよ。絶対にエスケープに乗らなきゃならなかったからね」と語る36歳は、首尾よく2回の逃げに入り込んだ。ただし1つ目の逃げには青玉ジャージ姿のマッテーオ・モンタグーティ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)が、2つ目の逃げには山岳巧者モレーノが入り込んでいたせいで、コース上に点在する5峠で最大限のポイントを収集することはできなかった。それでもゴール地では念願の山岳賞ジャージを獲得。4年連続4度目のキング・オブ・クライマーに、大きく一歩近づいた。

前方はかなりの大人数ながら、最大3分のリードしか許されなかった。総合上位選手が逃げ込んでいたから、当然、タイム差コントロールは厳しく行われた。しかも後方メイン集団の中には、吸収さえ諦めない一団が存在した。まずは総合9秒差のフレデリック・ケシアコフ(アスタナ)が、途中まで逃げていたエンリーコ・ガスパロットの助けを得て、下りで加速を敢行! ゴール前27.2kmに位置する第2中間スプリントでの、ボーナスタイムを狙ってのことだった。ただし下り巧者ニバリも同調したこのアタックは、チームスカイが冷静に終止符を打った。さらにはチーム・レディオシャックが、メイン集団のスピードアップに努めた。「チーム総合首位」を目的に掲げる同チームは、前方に1人も選手を送り込むことができなかったからだ。

しかし「区間勝利」よりも「タイム差」を重視する選手たちが協力し合って前進するエスケープ集団は、最後まで後続に捕らえられることはなかった。唯一、例の第2中間スプリントだけは、総合上位選手たちがボーナスタイム稼ぎのために飛び出したが——モレーノが6秒、シールトラーイェルスが4秒、ロッシュが2秒獲得——、その後はゴール前5.5km地点まで一糸乱れぬリレー交替は続けられた。以降、「区間勝利」を重視する者たちのアタック合戦に突入する。

「あれから協力体制が崩れた。さもなきゃ、もう少しタイム差が稼げたのに」とシールトラーイェルスは嘆いたが、それでも1日の終わりには、メイン集団のライバルたちからは1分33秒を奪い取っていた。区間3位のボーナスタイム8秒も手に入れたモレノは、16位3分39秒差→9位1分52秒差へと大きくジャンプアップ。セレンセンは13位2分14秒差、ロッシュは14位2分15秒差、シールトラーイェルスは16位2分48秒差、そしてニエベは20位3分13秒差と、それぞれに総合争いで前進を果たした。ちなみに彼ら以外の総合トップ20は、全員が同タイムでゴールラインにたどり着いている。

肝心の区間勝利は、ミハエル・アルバジーニ(HTC・ハイロード)の手に落ちた。本来スプリント力に優れ、しかもスプリンターの多いチームでトップスピードを磨いてきたスイス人は、小集団スプリントを難なく制した。30歳にして、生まれて初めて味わうグランツールの栄光だった。

■ミハエル・アルバジーニ(HTC・ハイロード)
区間勝利

今日のような小集団スプリントなら、かなりボクはいけるほうなんだ。でも逃げ切りのために大いに力を使ったし、ひどく厳しいステージだった。区間勝利のために、たくさん仕事をしたし、たくさんエネルギーを使った。今日のステージは、このブエルタのなかでも一番キツイステージだったのかもしれないね。シーズン末にチームは解体してしまうけれど、チーム自体のモチベーションは下がっていないんだ。エースもアシストも、勝利を目指して、互いのために力を尽くしている。

■ブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)
総合リーダー

誰もがアタックを仕掛けた。レースリーダーも総合2位も、そして総合150位も……。クレージーだったよ! スタート直後には、ボクもニバリと共に先頭集団にいたからね。その後も決して落ち着いた時間はこなかった。下りでは危険を冒したくなかった。(ニバリが加速したのは)砂利混じりの難しい下り坂だった。ゴールからはいまだ遠かったし、チームメートを信頼していたんだ。今日もまた、チームは素晴らしい仕事をしてくれた。一切隙を見せずに、1日中よく働いてくれた。

この先もベストを尽くす。開幕前のボクは優勝候補ではなかったし、今だって本命ではないんだよ。マイヨ・ロホを2日間着たからといって、ボクの立場が変わるわけではない。レースの鍵を握っているのはニバリとロドリゲスだ。このジャージを着られたことは本当に素晴らしいよ。7月のことを忘れさせてくれるからね。でもアングリルの山頂で、このジャージを着ているかどうかは、お約束できないんだ。ジャージを守るために100%の力を尽くして戦う。それだけは確かだよ。脚にはすでに2週間の激戦による疲労が蓄積しているから、厳しいだろうね。誰もが疲れ切っている。最初はブエルタなんかホリデーのようなものだと思っていたけれど、まるでホリデーなんかじゃないね。厳しいけれど、でも同時に、すごくエキサイティングでもあるよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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