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サイクル ロードレース コラム 2011年9月5日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2011】第15ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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誰もが史上5番目の「伝説」になりたいと願っていた。最大23.5%の激勾配を制して、アングリルの山頂で自らの力を下界に示したいと夢見る者は多かった。「自転車界のオリンポス」は、なにしろ、数少ない選ばれし者だけが栄光を手に入れられる場所なのだから。

12.2kmの山道を勝ち取ろうと、ロングエスケープを試みる男たちがいた。アンドルー・タランスキー(ガーミン・サーヴェロ)、ディミトリー・シャンピオン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、シモン・ゲシェケ(スキル・シマノ)は、スタートから35kmで逃げ始めた。ただし神々の台座に近づくはるか以前に、先頭から引き摺り下ろされることになる。3人の吸収とほぼ入れ替わりで、直前のコルダル峠ではダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)、カルロス・サストレ(ジェオックス・TMC)、ダニエル・マーティン(ガーミン・サーヴェロ)、そしてマルツィオ・ブルセギン(モヴィスター チーム)が可能性を求めて飛び出した。山岳賞ジャージ姿のモンクティエは山頂で10ptを手に入れると、すっかり満足して歩みをゆるめた。サストレもマーティンも先を続けられなかった。ただブルセギンだけが勢いを止めることなく、神の国の門へと先頭で飛び込んだ。……飛び込んだと同時に、あっけなく、メイン集団に飲み込まれてしまうのだが。

アングリルで真っ先に権力掌握に動いたのは、ディフェンディングチャンピオン擁するリクイガス・キャノンデールだった。前夜に突如1分半近くタイムを失ってしまったヴィンチェンツォ・ニバリの復権のために、2人の護衛が集団前線で速いリズムを刻んだ。2008年ツール覇者サストレ——1999年に史上初めてアングリルを制した亡きホセマリア・ヒメネスの、義理の兄弟だ——が、再び勇気を振り絞る場面も見られた。また22%の激坂ゾーンでは、2011年ブエルタの王者になり損ねたイゴール・アントンが飛び出した。5月のジロで「地獄の門」ゾンコランを手に入れた純正ヒルクライマーは、ブエルタ最難関峠で名誉を取り戻したいと願っていた。

しかしゴール前6.5kmの、アングリル最難関「ヤギ」ゾーン直前。あらゆる強豪たちの企みをぶち壊す、1つのアタックが生まれる。前日終了時点で総合4位(55秒差)につけていたファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)の、会心の一撃。第10ステージの個人タイムトライアル以降、総合争いを大きく動かす「アタック」のないまま、ひどく僅差の接戦が淡々と続いてきた。均衡を揺さぶるきっかけをつくったのは、確かに、前日のラスト4kmで見せたコーボの加速だったのかもしれない。そしてこの日の飛び出しは、ヒエラルキーを大きくひっくり返すほどの破壊力を持っていた。

まずはニバリがあっという間に後方へと落ちていった。山頂までの6kmで2分37秒を失い、総合では3分27秒遅れ。わずか48時間前は4秒差の総合2位につけていたというのに……、「レアル・マドリードだって毎年優勝することはないのさ。そして今年のボクは、ブエルタを勝つことはないだろう」と敗北宣言を出さざるを得なくなった。ちなみにフレデリック・ケシアコフ(アスタナ)は前日に続いて体調が絶不調で、やはり2日前の総合9秒差から22分33秒差へと急降下している。

マイヨ・ロホ姿のブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)は、またしてもクリス・フルームの献身的な仕事に支えられていた。タイムトライアルで手に入れたマイヨ・ロホを黙ってリーダーに譲り渡し、自分は7秒差の2位で我慢していた若きアシストが、この日も必死の牽引を行ってくれたのだ。おかげでコーボを先には行かせてしまったものの、一定の速いテンポで追走を続けることができた。しかし室内自転車競技場ではエレガントな走りでいくつもの世界大会を勝ち取ってきたウイギンズも、激坂を優雅に駆け上がることは不可能だったようだ。頂上まで3km地点の、またしても20%を超えるひどい山道で、ついに、フルームの背中から滑り落ちてしまった。

苦労してよじ登った山のてっぺんでは、たくさんの栄光が、コーボを待ち構えていた。まずはヒメネス、シモーニ、エラス、コンタドールといったそうそうたる真の山男たち、本物のチャンピオンたちに続く、アングリル王者のタイトル。実力派ながら少々華やかさに欠けてきたコーボだが、今後は伝説の山と共にその名を語り継がれていくことになる。グランツールのステージ優勝に関しては、記録の上では3つ目で、2つ目の山頂フィニッシュ制覇。2008年ツールの、やはり「伝説の」オタカム山頂で勝ち星を貰ってはいるが、あの日のコーボはチームメートのレオナルド・ピエポリの背中を見ながらゴールラインを超えたのだ。後にピエポリが薬物陽性で失格となり、2位のコーボに勝利がまわってきただけだった。つまりグランツールの山頂で、勝利の「バッファロー」ジェスチャーを披露したのは今回が初めて!

さらにはマイヨ・ロホさえも、生まれて初めて身に纏った。ステージ2位以下に48秒のリードをつけ、ステージ1位のボーナスタイム=20秒を手に入れたおかげで……。そう、このボーナスタイム20秒が非常に有効だった。なにしろ1分21秒遅れでゴールしたウイギンズは総合3位(46秒差)に後退し、リーダーを置きざりにして48秒差の4位でゴールしたフルームが総合2位にアップしたのだが、コーボとの総合タイム差はぴったり20秒!

「単にボーナスタイムのせいでチームが総合首位を失うなんて、本当にがっかりだよ」とフルームは肩を落とす。ちなみにコーボが15日間で手に入れたボーナスタイムは総計40秒で、一方のフルームとウイギンズはゼロ秒。つまりボーナスタイムの存在しないツール・ド・フランスならば、当然順番も変わっていたはずだ。ただしウイギンズは「いまだゲームオーバーなんかじゃない。チームは総合優勝をまだまだ狙える」と、あくまで前向きの姿勢を保ち続ける。

総合4位バウケ・モレッマ(ラボバンク)は1分37秒遅れとなり、また山頂フィニッシュも残り1つとなったため、いよいよ総合表彰台争いはコーボ、フルーム、ウイギンズの3人に絞り込まれただろうか。翌日は大会2度目の休養日。大会に残る178選手は、ほんのわずかながら英気を養って、最後の6日間に乗り出す。日本の土井雪広(スキル・シマノ)も、きっと再び何かしでかしてくれるに違いない!

■ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)ステージ優勝、総合リーダー

本来ならばもう少し後の、山頂近くでアタックを打つ予定だったんだ。でも上りの中盤で自分が絶好調だと感じたから、ちょっとトライのつもりでアタックをかけた。すぐに大きな差をつけられたから、そのままゴールまで前を行くことに決めたんだ。アングリルには上ったことがなかった。ブルゴス一周の後に、ギアを選ぶために下見に来るつもりだったんだけれど、結局は来る暇がなかった。今日は34x32で走った。

まだブエルタは終わっていない。ボクの地元カンタブリアでの2ステージが残っているし、さらにバスクでの2ステージがある。チームを信頼しているけれど、フルームがまだいいポジションにつけている。彼はまだまだ危険人物だ。

3ヶ月前には、自転車界から離れようと考えていたんだ。何の成績も挙げられなかったし、もはやモチベーションが保てなくなっていたから。1年半ほど鬱に苦しんできたんだ。でもチームスタッフが、契約の終わりまで走り続けるように励ましてくれた。ただ自転車を楽しんで、自分のベストを尽くすように、って。そしてある日、ボクの心の中で全てが変わって、自転車界のトップへと復活を果たした。今日の勝利とマイヨ・ロホのおかげで、ボクが苦しんできたあらゆる悪夢を忘れることができるだろう。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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