人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2011年9月7日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2011】第16ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

アンダルシア・カハグラナダとコフィディス ル クレディ アン リーニュは、まるで今大会における「ロングエスケープ」最多記録でも競っているかのようだ。休養日前までの逃げが可能な13日間(全15ステージから、チームタイムトライアルと個人タイムトライアルを除く)で、フランスチームは11回、南スペイン母体のプロコンチネンタルチームは実に12回も前に飛び出している! コフィディスはそのうち2回を見事に勝利に結びつけたが(第11ステージのダヴィ・モンクティエと第14ステージのレイン・タラマエ)、一方のアンダルシアは敢闘賞2回だけと少々不完全燃焼気味だ。そして今第16ステージも、スタートゲートをくぐり抜けた直後に、アンダルシアとコフィディスが飛び出した!

タイム差はあっという間に開いた。追い風にもほどよく助けられた。スタートから30kmほ走っただけで、アントニオ・カベーリョ、ヘスス・ロセンド(共にアンダルシア)、ジュリアン・フシャール(コフィディス)の3人は、8分半ものリードを奪った。ただし「今ブエルタでほぼ唯一の、真の平坦ステージだったね」と後にステージを制したファンホセ・アエド(サクソバンク・サンガード)が語ったように、スプリンターたちが、絶好機を逃すまいとすぐに追走体制を整えた。特にチーム レオパード・トレックが——今季誕生したばかりのビッグチームだが、前夜、来季からチーム・レディオシャックと合併することが正式に発表された——、ダニエーレ・ベンナーティのために大いに働いた。おかげでタイム差は緩やかに減っていく。

ところがある時点から突然、追走スピードは急上昇を始める。なにしろゴール前10.1km地点には、この日2回目の中間スプリントポイントが待ち受けていた。そう、つまりスプリンターがポイントを争う場所であり、なにより総合リーダーがボーナスタイムを獲得できる場所。この地を目指して、チームスカイが猛烈な加速を始めてしまったのだ!

ステージ開始時点で、総合首位ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)と2位クリス・フルームの差はわずか20秒、3位ブラドレー・ウイギンズとの差46秒。こんな僅かな総合タイム差を、英国チームはこつこつ「秒単位」で縮めようと試みた。ゴール前35kmからは、メイン集団が一時分断するほどのハイスピードで前の3人を追いかけた。そしてスプリントポイントの直前で、まんまと逃げを吸収する。ちなみに最後まで果敢に先頭を逃げ続けたアンダルシアは、またしても敢闘賞しか手に入らなかった(ロセンドが獲得)。

必死に動いたチームスカイも、ただし、何も手に入れられなかった。マイヨ・ロホ擁するジェオックスがダビ・デラフエンテに先頭通過=6秒を取りに行かせたその背後で、必死にペダルを漕いだフルームは無念の4位通過=0秒。いや、何も手に入れられなかったどころか、チームスカイはむしろ1日の終わりには数秒さえ失ってしまった。最終盤はカーブが多く、さらにラスト300mで発生した「珍事」のせいで集団は小さく粉々に砕け散り……、コーボが上手く2秒差の区間10位に滑り込んだ一方で、フルームは4秒差、ウイギンズは7秒差と小さな遅れを喫した。総合争いを秒単位で縮めようと動き回った両者だったのに、逆にそれぞれ総合を22秒差と51秒差に広げてしまったのだった。

「珍事」はロータリーが引き起こした。この日限りでブエルタを離れると宣言していたファビアン・カンチェッラーラ(チーム レオパード・トレック)が見事なまでに力を尽くし、ベンナーティを乗せたレオパード列車は快調に前へと突き進んでいた。ラスト500mの90度カーブも難なくこなし、最終リードアウト役がが猛スピードでリーダーを引っ張っていた。おそらくあと100mもすれば彼は静かに脇に逸れ、ベンナーティが軽く最後の仕上げをするだけで十分なはずだった。

最終発射台ロベルト・ヴァーグナーは、ゴール前300mのロータリーを右に回った。左ハンドル・右側通行のドイツ人にとっては至極当然の判断だったのかもしれない。なにより右方向にも左方向にも、沿道のフェンスは連なっていたのだから!

右方向への進路は、実は、レース車両用の迂回出口だった。選手たちは左側を選ぶべきだった。たとえロードブックを暗記していなくとも、ロータリーやカーブの直前には目立つように選手用進路案内パネルが張られてある。しかしプロトン先頭にいたヴァーグナーは右側へ迷わず行ってしまった。背中に張り付いていたベンナーティは「左が正しい道だと分かっていたけれど、一瞬ブレーキをかけざるを得なかった」。後ろにいたペテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)も、一旦右へ行きかけ、慌てて方向転換。その際にはベンナーティとあわや接触事故か……という場面さえあった。そして小さな混乱を横目に、前から4番目にいたアエドが、冷静に、するりと抜け出した。

本来ならば集団スプリントで終わるはずだったゴールに、アエドはほぼ独走状態で入ってきた。本人にとって初めてのグランツール勝利は、アルゼンチンにとっても史上初めてのグランツール快挙だった。勝てるはずだったベンナーティは3位で満足するしかなかった。結局7秒遅れでレースを終えたサガンは、周囲の慰めなど一切耳に入らぬ様子で、ひどくがっくりと肩を落としたままだった。

またゴール前15km、プロトン内で集団落車が発生。ポイント賞ジャージ姿のホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)が巻き込まれ、地面に激しく叩きつけられた。3人のチームメートに助けられ、痛めた左手首をかばいながら、11分01秒遅れで何とかゴールにたどり着いている。


■ファンホセ・アエド(サクソバンク・サンガード)
ステージ優勝

今ブエルタでは実質的に初めての平坦ステージだった。しかも追い風のおかげで、静かな1日を過ごすことができた。でも最終盤のプロトン内では緊張感がひどく高まった。急カーブがいくつか登場したし、ゴール前300mにロータリーがあったからね。そのせいで少し混乱も起こった。3選手がコースを間違ってしまったんだ。

キャリア最高の勝利だよ、もちろんさ!これまでクリテリウム・デュ・ドーフィネやティレノ〜アドリアティコ、カタルーニャ一周などのビッグレースでもステージ優勝を手に入れてきたけれど、今日の勝利こそが最高に美しい勝利。個人的にも嬉しいんだ。だって1年のうち何ヶ月かはスペインで暮らしているし、この国が大好きだから。

今日の勝利は16日間苦しんできたことに対するご褒美のようなものだ。レースに残ったことは、正しい選択だったね……。ブエルタでの第一目標はステージ優勝を挙げることだった。これは達成できた。この先の希望は、レースを絶好調で終えること。そうすれば世界選手権では10位以内、いや、5位以内だって願えると思う。でもその前に、日曜日のマドリードでスプリントゴールが待っている。

■ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)
総合リーダー

中間スプリントでタイムを稼げないことなど、分かりきっていたことだった。チームはデラフエンテにスプリントを取りに行かせた。ボクも、もがいたけど、とにかくスカイが何のボーナスタイムも取れなかったことだけは見えたんだ。フィニッシュラインではフルームから数秒奪ったけれど、状況は何も変わらない。この先もボクらは戦っていく。確かにもっと大人数の逃げができるといいんだけどね。エスケープ選手にボーナスタイムを取って欲しいんだ。

マイヨ・ロホで過ごす初めての1日は、感動的だった。レースが始まってからは、ナーバスな気持ちも吹き飛んだ。今年のブエルタで首位にたてていることを誇らしく思う。この先もたくさんのファンがボクを応援するために会場まで来てくれるだろう。アングリルでもたくさんのファンがボクの応援に来てくれた。明日のペーニャ・カバルガでも同様に素晴らしいサポートが得られるはずだ。なにしろボクの故郷、カンタブリアでのステージだからね。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ