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たしかに魔の山アングリルで総合争いは大きく動いたかもしれない。ただし2011年ブエルタ「頂上決戦」の舞台は、間違いなく、標高565m・登坂距離6.1kmという小さなペーニャ・カバルガ峠であった。今大会最後の山頂フィニッシュで、総合首位ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)と2位クリス・フルーム(チームスカイ)による、手に汗握る一騎打ちが繰り広げられた。
ステージ序盤には、赤色のジャージ……ではなく、青玉ジャージを巡る小さな直接対決が繰り広げられた。時速50km近い飛び出し合戦を制し、43km地点からエスケープに乗った21人の中に、マッテーオ・モンタグーティ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)の姿が見られたのだ。今大会ここまで何度か大逃げを打ち、山岳ポイントをコツコツと積み重ねてきた——しかも山岳賞ジャージを2日間着用した——イタリア人は、最初の3級ブストス峠で1位通過。3ptをまんまと手に入れた。
しかし3日前から青玉ジャージを着ているダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)が、決してライバルの好きにさせてはおかなかった。「調子は良くなかったんだけれど、チャンスだと思ったから」と、2つ目の峠を目指してアタックを仕掛けるとあっという間に前方集団を捕らえてしまった。ところでこの逃げ集団は、すでに5人にまで小さくなっていた。モンタグーティの姿も消えていた。ただアージェードゥゼールのチームメート、ギヨーム・ボナフォンがアシスト精神を発揮して、モンクティエのトップ通過だけは上手く阻んだ。幸いにもルナダ峠は2級山岳で、2位通過には3ptが与えられることから……モンクティエはつい先ほど失ったポイントとまさに同じ分だけ取り戻した。両者の関係は、スタート前もゴール後も変わらず、22ptのままである。
ちなみに両者の間にこの日、コーボが割り込んできた(モンクティエと21pt差)。もちろんコーボの狙いは、キング・オブ・マウンテンではない。同じく2位につけるポイント賞ジャージでもないのだが……。ボーナスタイムを手に入れようと努力するたびに、または区間争いを繰り広げるたびに、自動的にポイントがたまっていったのだから仕方がない。
「22秒差」という僅差で先頭に立つコーボは、この日もチーム全体を集団コントロールに走らせた。2007年ツールのスーパー敢闘賞ダビ・デラフエンテ、2008年ツール総合勝者カルロス・サストレ、そして2005・2007年ブエルタ&2009年ジロ覇者デニス・メンショフというそうそうたるメンバーが、過去のグランツールでは総合10位が最高位(2009年ブエルタ)という少々地味な30歳のために素晴らしい犠牲精神を発揮した。ゴール前10.8kmの中間ポイントへ向けてフルームと総合3位ブラドレー・ウイギンズを擁するチームスカイが高速列車を走らせたときも、入り口の極めて細いペーニャ・カバルガへ向けてチーム・カチューシャが突進していったときも、大物ベテランたちは確実な仕事を行った。マイヨ・ロホを保護し、ライバルの目論見を潰し(結局スカイは中間ポイントを戦わなかった)、そしてリーダーを最終攻撃へと送り出した。
最終峠ではダニエル・マーティン(ガーミン・サーヴェロ)、クリス・セレンセン(サクソバンク・サンガード)、マルツィオ・ブルセギン(モヴィスターチーム)が先陣を切って飛び出していた。総合トップ10入りを確実にしたいユルゲン・ヴァンデンブロック(オメガファルマ・ロット)も果敢に前へと向かっていた。背後のメイン集団では、メンショフが厳しいリズムを強いていた。そしてコーボは、自らでアタックを仕掛けた。前を逃げる数人に区間トップ3=ボーナスタイムを取らせる安易策ではなく、「さらにタイムを広げるため」に、ゴール前1.3kmでマイヨ・ロホ自らが攻撃に転じた!
1年前はオレンジ色の軍団が山頂を埋め尽くしていたものだ。しかしにぎやかな歓声は、やがて絶望の声にかわった。マイヨ・ロホ姿のイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)が、最終峠突入直前に激しく落車し、即時リタイアを余儀なくされたからだった。2011年9月の気持ちよく晴れたペーニャ・カバルガもまた、突然、重い沈黙に包まれた。「バッファロー」柄の黄色いTシャツを身にまとい、陽気に騒いでいたコーボ親衛隊は、一気に青ざめた。ラスト1kmのアーチを抜けた直後、総合2位のフルームが突如ダンシングスタイルに移行すると、コーボを大きく突き放してしまったのだ。しかもただでさえ急勾配のペーニャ・カバルガの中でも最も険しい、19%ゾーンで!
「もうダメかもしれない、という思いが頭の中をよぎった(byコーボ)」、「ああ、我々はブエルタを失うんだ、と考えた(byジェオックス監督)」……おそらく世界中で勝負を見ていた多くの自転車ファンが、同じように考えたに違いない。ただしカンタブリアのファンたちは、地元の星を心の奥底から信じていたようだ。ほんの一瞬の沈黙の後、激しい応援は再開された。彼らの声はよりいっそう強く、いっそう熱を帯びていた。その声に押されるように、コーボばスピードを取り戻した。「これっぽっちも力は残っていなかった。でも応援してくれるファンのために、最後の力を振り絞った」。そしてフルームを再びとらえた。
総合優勝を争う2人は、ラスト200mで、文字通り激しい競り合いを演じた。はるか遠いアフリカ大陸からやってきた若者がスプリントで人生初のステージ優勝を手に入れ、この土地で生まれ育ったコーボは見事に総合リーダージャージを守りきった。ただし1秒差+ボーナスタイムの差のせいで、両者の差はわずか「13秒」へと縮まった。
また3位ブラドレー・ウイギンズは「マイヨ・ロホを失ってから気持ちが切れた」と、総合ではすでに1分41秒もの遅れを喫した。一方で4位バウケ・モレッマ(ラボバンク)が2分05秒差と、表彰台争いを追い上げてきた。両者の差も24秒と、いまだに極めて少ない。
■クリス・フルーム(チームスカイ)
ステージ優勝
昨夜、去年のカバルガステージの最終部分をビデオで見たんだ。だからラスト2kmがひどく難しいことは分かっていた。でもボクは差をつけるために動かなきゃならなかったし、ボクは計画通りに動いたよ。トライしたんだ。すべてを尽くした。コーボを振り払うことができたけれど、でも後ろを振り返ったとき、彼が再び近づいてきている姿が見えた。だから気合を入れなおして、ステージ優勝のチャンスを取りに行った。
大会終了まであと4日に迫った今、コーボとの差を13秒に縮められたんだから悪くない。レッドジャージを取り戻せたら確かに素敵だったと思うけれど、でもボクは持てる力を全て尽くしたんだ。正直に言うと、明日以降のことは何も考えずに走った。ボクらの戦術はブエルタを、今日、この山頂で手に入れることだったから。ただ確実なのは、この先もマドリードまで戦っていくこと。
■ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)
総合リーダー
空っぽになるほど力を使い果たしてしまった。こんな状態は今まで経験したことないし、これほど厳しい戦いになるとは想像さえしていなかった。アングリルと同じくらいハードだったよ!フルームはものすごく強かった。ボクはただ彼のアタックについていく事しかできなかった。これっぽっちの力も残っていなかった。でも応援してくれるファンのために、力を振り絞った。
フルームがこれほどまでに好調だとは予想もしていなかった。ボクの総合リードはわずか22秒だったから、今日はタイム差をさらに広げたいと考えていたんだよ。数秒失うんじゃなくてね。でも地元カンタブリアで、マイヨ・ロホを守ることができて嬉しい。フルームに一旦先に行かれたとき、もうダメかもしれないという考えが頭をよぎった。でもボクと同じように、彼も同じく疲れていたんだね。だからこそ彼をとらえることができたんだ。この先、最も危険なのは第19ステージ。今日のような上りゴールではないけれど、だからこそ彼らはボク相手に攻撃を仕掛けてくるんじゃないかと想像しているんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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