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サイクル ロードレース コラム 2011年9月12日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2011】第21ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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焼け付くようなスペイン特有の暑さとも、プロトンは今日でお別れ。3週間の辛くて長い旅を乗り越えた169人は、マドリードへ向かってのんびりと走り始めた。大多数の選手にとって戦いはもう終わり。もちろん2011年ブエルタで最も華やかなる勝利を狙うスプリンターたちと……僅差でジャージを争う選手たちに関しては話は別なのだ。

確かに「もう戦いは終わり。誰も逆転を狙いに行かないだろう」という声が多かった。ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)は楽しい1日を過ごす気満々で、赤いジャージの上下に赤いヘルメット、赤いバイクに赤いグローブと全身ロホでスタート地に現れた。ちょっとしたアクセントとして、チェーンに赤・黄のスペインカラーをあしらうお洒落も忘れない。その一方で、13秒差で追いかけるクリス・フルーム(チームスカイ)は「ギリギリの最後まで相手にプレッシャーをかける」ときっぱり断言していた。また同ポイントで緑ジャージを争うホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)とバウケ・モレッマ(ラボバンク)はひどく緊張した面持ちでスタートラインに並んだ。

ゆっくりとしたパレード走行を終えた後、ダミアーノ・カルーゾ(リクイガス・キャノンデール)、ホセアルベルト・ベニーテス(アンダルシア・カハグラナダ)、ホアン・オラク(チーム・カチューシャ)が大会最後のロングエスケープ——とは言ってもステージ自体が95.6kmと極めて短いのだが——へと打って出た。3人、というのはコーボとロドリゲスにとっては都合のよい人数だった。なにしろステージ中に2回登場する中間ポイントで、ライバルにボーナスタイムやらポイントを取られる心配がまるでなかったから。おかげでゴール前22.8km、2つ目の中間ポイントを過ぎた瞬間に、コーボは一抹の不安をも完全に拭い去ることができたはずだ。「ステージ優勝=20秒のボーナスタイム」やフルームの捨て身の特攻以外は、マイヨ・ロホを脱がざるを得ない可能性はなくなったからである。

次第にスプリントトレインが組み上げられ、ラスト10km地点でエスケープ3人が吸収されると、逆にロドリゲスのストレスは高まっていったに違いない。1ptでも多くライバルに奪われた時点で、3週間の努力は全て水の泡になる。しかもゴールポイントは上位15人に与えられる。チームメートの強力な牽引さえあれば、ヒルクライマーでも無理やり入り込める位置だ。特に強力なスプリンターたちが、ほとんどマドリードに残っていない現状では。

いや、確かに3大ツール全てでポイント賞を手にしてきたアレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ISD)や、ジロ&ツールでポイント賞に輝いた経験を持つダニエーレ・ベンナーティ(チーム レオパード・トレック)といったビッグネームは残っていたのだ。ただし37歳の大ベテランは威力を失いつつあったし、後者は前日ステージ優勝を手に入れたとはいっても、未だ春先のケガ&不調から完全に抜け出せたわけではなかった。そして大会最後の栄光もまた、現在進行形で、とんでもない大またでステップアップし続けている21歳のペテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)が奪い取ってしまった。生まれて初めてのグランツールでスプリント3勝。改めて末恐ろしい怪物ぶりを世界中に見せ付けた。

そのサガンの後ろで、モレッマはポール・マルテンス(ラボバンク)に引き連れられてスプリントへと臨んだ。緑色のジャージを着たロドリゲスは……なんとスプリントさえ切れなかった!「プリート」はステージ勝者から36秒遅れの集団にいた。代わりにチームメートのダニエル・モレーノとルーカ・パオリーニが全力でダッシュし、モレッマの「15位イン」を少しでも妨げる助けになればと努力した。それぞれが11位と14位。とりわけ小柄なピュアクライマー、モレーノがこの位置に入るのは並大抵の努力ではなかったはずだ。しかしひょろりと細長いオランダの山岳巧者が、さらに2つ上の9位でゴールしていた!いずれにせよロドリゲスが15位以内にいない状況であれば、1位であろうが15位であろうが、モレッマの逆転ポイント賞は決まりなのだ。「プリートの姿が見えなかったから」と、モレッマはゴールと同時に激しい歓喜の雄叫びを上げた。

またコーボもガッツポーズでフィニッシュラインを超えた。最後までフルームへの警戒を決して解くことなく、19位ライバルの背後、20位でゴール。そして3週間前には本人さえもまるで予想していなかった第66回ブエルタ・ア・エスパーニャ総合王者の座を、わずか13秒差でつかみとった。ちなみにコーボの手に入れたボーナスタイムは全部で52秒、対するフルームは20秒。「ボーナスタイムは確かにエキサイティングな制度だけれど、今回はボクの有利には働かなかった」と語るフルームは、本来のレースタイムだけで争っていたならば、19秒差で総合トップに立っているはずだった。

総合表彰台の3番目の場所に上ったのは、アングリルの山の中腹までは総合優勝に最も近いところにいたブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)だった。もちろんダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)が、大切な青玉ジャージを今年も手に入れた。しかも4年連続4回目の山岳賞にモチベーションをかきたてられ、引退を撤回したどころか、2012年には大会史上最多となる5回目のキング・オブ・クライマーを目指す!

「史上初めてブエルタに参加した日本人選手」土井雪広(スキル・シマノ)は、「史上初めてブエルタを完走した日本人選手」となった。初めて経験する3週目はフィジカルの疲れがピークに達していたというが、「やっと解放されました!」とマドリードの街角でさわやかな笑顔を弾けさせた。


■ペテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)
ステージ優勝

素晴らしい1日だった。ボクは前線にポジションを取って、ベンナーティの背後に入った。でも行方を塞がれてしまって、加速を一旦やめざるを得なかった。だから背後から再スタートを切ったんだ。厳しかったね。幸いにもボクには体力が残っていた。チームメートがステージの間中、風からボクを守り続けてくれたから。ボクはひとそよぎの風さえ感じなかった。ただ今日の勝利を奪うことだけに集中していればよかった。まさにボクが好きなタイプのテクニカルなコースで、ボクもすごく調子が良かったんだ。

今ブエルタには満足している。ただ唯一、アエドが勝った第16ステージのゴール前に起こったことだけが消化不良だね。それにポイント賞ジャージを取れてもいいはずだった。いずれにせよ満足だよ。この3週間の経験は、ボクの将来に大いに役立つだろう。来年はツールを走りたい。有名なレースだから、挑戦してみたいんだ。これまでツールをテレビで見てきたけれど、ブエルタとは違うね。もっと緊張感が漂っている。うん、来年はツールを走りたい。それに五輪への準備としても最適なはずだよ。

■ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)
総合優勝

8月序盤のブルゴス一周以来、自分が好調だということは自覚していたんだ。レース後の2週間、さらに調子を上げることができた。でもブエルタに来たのは、サストレとメンショフを助けるためだった。そして3週間後の今、ボクがこの場でブエルタ総合優勝について語ってる。信じられないね!

18ヶ月、鬱に苦しんできたんだ。ボクにとっての最高の治療薬はブエルタになんのプレッシャーも感じずに乗り込んで、自分のベストを尽くすことだった。アングリルの山頂でマイヨ・ロホを手に入れたあとも、総合首位の座を楽しんだよ。もちろんストレスは感じていたけれどね。この勝利が未来へと続く第一歩であって欲しいと願っている。これまでもレースを勝ってきたけれど、でも今は、調子さえ良ければボクにもグランツールを勝てるんだと理解したんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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