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2011サイクルシーズンを振り返る vol.1 〜グランツール編〜 ジロ:コンタドール圧勝、ツール:エヴァンス悲願達成、ブエルタ:コーボ初優勝
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか【ジロ・デ・イタリア】史上屈指の難コース、コンタドール圧勝
イタリア統一150周年を祝う記念大会には、とてつもない難関コースが用意されていた。難関山岳ステージが9つ、うち頂上フィニッシュがなんと8つ!また大会序盤にはW・ウェイラントが命を落とす悲しい事故が起こり、大会終盤には危険な「未舗装ダウンヒル」が前夜に突如取りやめられるという騒動も起きた。
あらゆる試練は至極あっけなく、パワフルに、アルベルト・コンタドールが蹴散らした。ビーチ帰りに少々苦心して勝ち取った2008年ジロとは違い、新たにサクソバンクのジャージを身にまとった3大ツール王者は、ライバルから「火星人」と命名されたほど桁外れの山の脚を見せた。2010年ツール期間中のドーピング検査で陽性となり、1年間の出場停止処分→処分取り消し→UCI国際自転車連盟がCASスポーツ仲裁裁判所へ提訴……と処遇が落ち着かなかったにも関わらず。
第8「平坦」ステージの短い上りでライバルたちを驚かせたコンタドールは、翌日、大会最初の難関シチリアのエトナ山頂でマリア・ローザをあっさりと勝ち取る。その後は協力者たちに区間勝利をプレゼントしつつ(J・ルハノ、P・ティラロンゴやエウスカルテル勢等々)、山が来るたびにライバルからタイムを大量に奪い去った。2010年ブエルタ総合優勝を引っさげて大会入りしたV・ニバリ(総合3位)や、ランプレ移籍でグランツール表彰台を初めて本気で取りに来たM・スカルポーニ(総合2位)は、ただ次点争いに終始するのみ。コンタドールは圧倒的な力で、6度目のグランツール勝利——2007年ツールで初優勝を飾って以来、出場した全てのグランツールで優勝——を懐にねじ込んだ。
賛否両論の難コースを世に送り出してきた開催委員長ゾメニャン氏は、2011年夏に退任。新たにミケーレ・アクアローネ氏がトップの座に就いた。新体制の船出となる2012年ジロ・デ・イタリアは5月5日、デンマークからスタートを切る。
【ツール・ド・フランス】落車で本命脱落、エヴァンスがついに悲願達成
大会1日目の集団落車で、早くもコンタドールの3連覇に黄信号が点滅した。その後も何度が自転車から落ち、しかも厳しかったジロの疲れから完全に回復しきっていなかった王者は、あらゆる手を尽くすも総合5位で大会を終える。またA・クレーデン、B・ウィギンス、A・ヴィノクロフ、J・ブライコヴィッチ、J・ヴァンデンブロックという総合表彰台候補が、全て落車のせいで大会序盤にリタイアを余儀なくされた。R・ヘーシンクやS・サンチェス、L・ライプハイマーも落車による負傷で、本来の力を発揮できず。メディアカーが逃げ集団内のJ・フーガーランドとJ・フレチャと接触事故を起こすという、許しがたい事故さえも起こった。そしてこの2人と逃げていたT・ヴォクレールが、マイヨ・ジョーヌを幸運にも着ることになる。
2004年に10日間マイヨを守ったヴォクレールは、今年も驚異的な粘りと、それ以上に積極的な走りでやはり10日間の黄色い日々を過ごした。最終的には総合4位という好成績を収め、またリーダーを支え続けたP・ローランがフランスにラルプ・デュエズ勝利と新人賞マイヨ・ブランをもたらした。ちなみに中間スプリントポイントにルール変更が加えられたおかげか、区間5勝のM・カヴェンディッシュがようやく念願のポイント賞マイヨ・ヴェールを持ち帰っている。
パリでの総合優勝は、落車に見舞われなかった幸運な強豪たちにより争われた。過去2回総合2位のカデル・エヴァンスが4日目の激坂フィニッシュを制し、まずは総合争いの主導権を握る。対する2年連続総合2位のアンディ・シュレクは、この4日目に少々出遅れた。さらに第16ステージ、ゴールへと続く濡れた下りで恐怖心に打ち勝つことができず、タイムを大幅に失ってしまう。しかしアルプス100周年を祝う、記念すべきガリビエ山頂フィニッシュでアンディは伝説的な単独大逃げ勝利を獲得。翌日のラルプ・デュエズ山頂ではマイヨ・ジョーヌも身にまとった。シャンゼリゼ到着まで2日を残し、総合優勝に王手をかけた……はずだった。
本来タイムトライアルが苦手なアンディは、最終タイムトライアルのコースを事前に下見していなかった。当日の朝には渋滞にはまり試走さえできなかった。一方で難関山岳で決して崩れることなく、それどころかガリビエステージでは追走集団を積極的に牽引したエヴァンスは、同コースを6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネで走っている。その際には入念過ぎるほどの下見も行っていたのだ。おかげで42.5kmの単独走行で堂々たる総合逆転劇を演じ、エヴァンスは34歳という遅咲きのツール初優勝を手に入れた。そして母国オーストラリアに史上初めてのマイヨジョーヌを持ち帰った。
2012年ツールの開幕は6月30日土曜日。ベルギー・リエージュでのプロローグ(個人タイムトライアル)から3週間の激戦に走り出す。
【ブエルタ・ア・エスパーニャ】超接戦、ボーナスタイムの差でコーボ初優勝
13秒。マイヨ・ロホを手にしたファンホセ・コーボと2位クリス・フルームは、史上稀に見る僅差で戦いを終えた。3週間で3300kmを走り切った2人を分けたのは、ただボーナスタイムだけ。コーボが全部で52秒のボーナスを手に入れたのに対し、フルームは20秒。本来のレースタイムだけで見れば、皮肉なことにフルームが19秒差で総合トップに立てるはずだった。
フルームが今大会初めてはっきりと存在感を示したのは、第9ステージのコバティーヤ頂上フィニッシュ。チームリーダーのB・ウイギンズのために、驚異的な牽引を行ったのだ。続く翌日の個人タイムトライアルでは2位という好成績を叩きだし、リーダージャージさえも手に入れた。……しかしひどく少ないタイム差で上位十数人がひしめき合う中で、フルームはウイギンズのために働き続け、マイヨ・ロホをリーダーに譲り渡してしまう。
ブエルタ2度優勝のD・メンチョフやツール元王者C・サストレの補助のために大会入りしたコーボは、調子の上がらぬリーダーに代わって、やはり第9ステージで好調の兆しを見せていた。またうつ病に長らく苦しんできたコーボは、総合争いほぼノーマークだったのを利用して、第14ステージ最終盤のアタックでタイム収集を成功させる。そして翌日の激坂アングリルでは、区間と総合を一度に制するという快挙を成し遂げた。トラック出身のウィギンスは魔の山でついに力尽き、あとは文字通り最終日マドリードまでコーボとフルームの一騎打ちが繰り広げられた。
D・モンクティエが4年連続4度目の山岳賞ジャージを獲得。グランツール初挑戦の21歳P・サガンは区間3勝でセンセーションを巻き起こした。また土井雪広が日本人として史上初めてスペイン一周を走り、そして走り切った。34年ぶりのバスク自治州通過で熱狂に包まれたブエルタは、2012年8月18日にバスク地方ナバラのパンプローナで再開だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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