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サイクル ロードレース コラム 2012年5月11日

ジロ・デ・イタリア2012 第5ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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のんびりとした、いわゆる「移動ステージ」が突如として姿を変えたのは、ゴールまで40kmを切ったころだった。

初夏の陽気に恵まれたジロ一行は、アドリア海へ向けて南下して行った。スタートと同時にアレッサンドロ・デマルキ(アンドローニジョカットリ)、ピエルパオロ・デネグリ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)、オリヴィエ・カイセンとブリアン・ブルギャク(共にロット・ベリソル)が逃げ出すと、プロトン内のあちこちで楽しげな笑顔の花が咲く。開幕からの緊張と慌しい日々を抜け出して、総合争いの選手たちはゆっくり太陽を楽しんだ。リトアニア人として史上初めてマリア・ローザを手にしたラムナス・ナヴァルダスカス(ガーミン・バラクーダ)も、リラックスした様子でペダルを回し続けた。

もちろん、ガーミンのチームメートたちが、タイム差コントロールをきっちり担当してくれたおかげだ。なにしろチームにとっては、ナヴァルダスカスの総合首位を保守するもよし、10秒差につけるチームメートのタイラー・ファラーかロバート・ハンターがスプリント勝利を上げてもよし(=1位20秒、2位12秒のボーナスタイム獲得で逆転マリア・ローザもあり得た)……。そんなガーミン有利のシナリオがあらかじめ書かれていたせいか、ほかのチームからはあまり協力を得られなかった。それでもこのアメリカチームは逃げの4人に6分差以上与えず、付かず離れずの理想的な状態を長らく保ち続けた。

暢気な雰囲気に包まれていたプロトンも、ゴール前36kmから始まる少々厄介なアップダウンが近づくにつれて、緊張感が高まり始めた。イタリアが生んだ天才的ヒルクライマー、マルコ・パンターニの終焉の地リミーニを過ぎた頃には、逃げ集団との差もすでに2分ほどに縮まっていた。

その時だ。後ろを振り向いていたルーカスセバスティアン・アエド(チーム サクソバンク)が——どうやらジョン・ガドレ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)と言い合いをしている最中だったようだが——、他選手にぶつかって落車。チームメートのマヌエーレ・ボアーロを巻き込み、さらにはテイラー・フィニー(BMC レーシングチーム)も転がり落ちてしまった!

「なんだか毎日落車しているような気がするね。自分の意思ではコントロールできない出来事が、たくさん降りかかってきてしまった」

初日にマリア・ローザを颯爽と奪い去った21歳の神童だが、以来、まるで不運に付きまとわれているかのようだ。デンマークでの2度目の落車はタイムにこそ影響はなかったが、若者の脚を痛めつけた。そして今大会3度目の落車で、ついにフィニーは12分02秒もの大量のタイムを失った。ちょうど集団が加速する直前に起きたアクシデントだったことも、この残念な結末に大きく響いた。

小さな4級峠への上りに突入すると同時に、イヴァン・バッソ擁するリクイガス・キャノンデールが猛攻を仕掛けたのだ。逃げ集団はほどなくして吸収された。ばらばらと、後方に置き去りにされる選手の数が増えだした。それは前日のTTTで転んだアンドレア・グアルディーニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)であり、マイヨ・ローザを夢見たファラーであり、本来なら軽い上りをモノともしないトル・フースホフト(BMC レーシングチーム)であり、起伏が大の苦手なテオ・ボス(ラボバンク サイクリングチーム)であり、先に転んだルーカスセバスティアンの兄フアンホセ・アエド(チーム サクソバンク)であり、第3ステージで集団落車の原因を作り出したロベルト・フェラーリ(アンドローニジョカットリ)であり……つまりたくさんのスプリンターたちが次々と勝負から放り出されてしまったのだ!

もちろん前にしっかりと居残ったスプリンターたちも存在した。そしてゴールまで13kmほどに近づいたころ、別府史之が引っ張るオリカ グリーンエッジの隊列が集団先頭へと上がってきたところで、完全にスプリンターチームが主導権を奪い返した。

なによりチーム全員でがっちりとトレインを組んだのは、スカイ プロサイクリングだった。チームでスプリントリーダーを務めるマーク・カヴェンディッシュは、第3ステージで自分を転ばせたフェラーリから謝罪を受けるも、「あの落車のせいでポイント賞ジャージのチャンスを失った」と不満は晴れなかった。しかも「ケガのせいで良く眠れないから、疲れがまるで取れない。100パーセントじゃないんだ」と体調も完璧とはいえなかった。それでも、きっちりと起伏は乗り越えた。なによりパートナーのペタトッドさんと生後1ヶ月の愛娘ダリアグレイスちゃんが、ゴール地で待っていたからだ。そしてゴール前1kmのアーチを抜けてもなお、カヴには2人のアシストが付いていた。

最終ストレートでは、マシュー・ゴス(オリカ グリーンエッジ)が飛び出した気配を背後に感じるやいなや、カヴェンディッシュもトップスピードへと切り替えた。そのまま決して追抜かれることなく、しかりギリギリまで迫られつつも——「ラスト100mはひどく難しかった。やけに長く感じた。ゴスはすぐ側まで迫っていた」——今大会2勝目を見事に勝ち取った。ばら色のレースは出場4回目にして、通算9勝目(+チームタイムトライアル2勝)。27歳の誕生日を11日後に控えて、グランツールでは早くも通算32勝目となる。

「ダリアグレイスがボクの走る姿を見るのは初めてだし、ボクと一緒に表彰台に上がるのも初めてだよ。彼女がピンク色の服を着ていたのは気がついた?彼女のことをとても誇りに思っているし、同じように彼女がボクのことを誇りに思ってくれるといいな」

スプリント時に小さな分断が起きたため、18番目以降にゴールしたメイン集団には、カヴェンディッシュから5秒遅れのタイムが与えられた。つまり2回目のマリア・ローザ表彰式に臨んだナヴァルダスカスは、スプリントで4位に入ったチームメートのハンターに、5秒差に詰められたことになる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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