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大会初の上り坂フィニッシュを翌日に控えて、2012年ジロ・デ・イタリアの戦いが、いよいよ熱っぽくなってきた。第5ステージに続いて、ジロ総合2勝のイヴァン・バッソ率いるリクイガス・キャノンデールが、起伏地帯で主導権を完全に握った(逃げ集団に選手を送り込めなかったせいでもあるが)。まるで「予行練習」さながら、上りでの強烈なスピードアップを繰り返す。
……一方では、厳しさを増していくコースのせいで、無念にも大会リタイア第1号〜第4号が誕生した。ロメン・フェイユ(ヴァカンソレイユ・DCM)はデンマークでの落車が響き、5度目のグランツール参加で5度目の途中棄権。前日大きく後れを取ったトル・フースホフト(BMC レーシングチーム)はもはやレースについて行くパワーがないという理由で、タイラー・ファラー(ガーミン・バラクーダ)は落車で血だらけになり、それぞれ自転車を降りた。またエスケープ集団に入っていたパブロ・ラストラス(モヴィスター チーム)は、峠からの下りで派手な落車事故を起こした。肋骨4本と鎖骨を折り、ひどく痛々しい姿で大会を去って行った。
そのエスケープ集団は、メイン集団に最大8分半ほどのタイム差をつけ、15人にまで膨れ上がっていた。ところが複数の落車があったり、山岳ジャージ姿のアルフレード・バッローニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)が遅れたりと、徐々に人数は減って行く。上りに未舗装ゾーンが待ち構えていた2級パッソ・デッラ・カッペッラを上って下りたあとは、先頭集団は8人に絞り込まれた。
アドリアーノ・マローリ(ランプレ・ISD)、アレクサンドル・ディアチェンコ(アスタナ プロチーム)、ガティス・スムクリス(カチューシャ チーム)、ミカル・ゴラス(オメガファルマ・クイックステップ)、チェザーレ・ベネデッティ(チーム ネットアップ)、ルーク・ロバーツ(チーム サクソバンク)、ジャック・バウアー(ガーミン・バラクーダ)、そして熱心に山岳ポイント収集を繰り返したミゲール・ルビアノ(アンドローニジョカットリ)。この日4つ登場したうちの後半3つの山頂を先頭通過し、コロンビアの山岳巧者がマリア・アッズーラを手中に収めた。しかも最終峠では、ポイント獲得用アタックをすると見せかけて——逃げの友たちも、だからこそうっかり見逃してしまったのだろうか——、そのままゴールへの独走態勢に突入してしまった!
「逃げ集団に入ったのは、単なる山岳ポイント獲得のためだった。でも最後の上りで、先頭集団がゴールまで逃げ切れることを理解した。だってタイム差はまだ5分近くあったからね。でもゴール勝負に持ち込まれたら、一緒に逃げていたメンバーに勝てないかもしれないと思った。だからあえて危険をおかして、独走を打つことに決めたんだ」
賭けは成功した!昨季ダンジェロアンティヌッチィ・NIPPOに所属し、ツール・ド・北海道で総合優勝したルビアノが、6年ぶり2度目のイタリア一周参加で生まれてはじめてのステージ優勝を手に入れた。しかも、スタート時点で首位から2分35秒差につけていたルビアノには、マリア・ローザに袖を通す可能性さえあった。
エスケープのなかでは、当初、ロバーツが最も総合上位につけていた(41秒差)。しかも中間スプリントを先頭で通過し、ボーナスタイムも6秒獲得。「暫定」マリア・ローザの地位を長らく占めていた。そこに45秒差(−ボーナスタイム4秒)のスムクリス、49秒差(−同2秒)マローリが続いた。そのマローリが、ライバル2人を峠で千切った。直後にルビアノには先に行かれてしまったが、残された4人の集団内(ディアチェンコ、ゴラス、ベネデッティ)で、マローリはまんまと総合最上位にのし上がる。
はるか後方では、ラムナス・ナヴァルダスカス(ガーミン・バラクーダ)が、ピンク色を背負って、1日中苦しんでいた。勾配が少し上がるたびにメイン集団から置き去りにされ、道が平坦になると持ち前の独走力でプロトンへと追いつく。そんな綱渡りを何度が繰り返した。ただし終盤にはついに力尽きて……、ゴールでは15分を失うことになる。ナヴァルダスカスが首位の座から追い落とされ、またエーススプリンターのファラーを失ったガーミン・バラクーダは、ステージ最終盤に来て事の重大さに気がついがようだ。ゴールまで15kmしか残っていないというのに、突如としてプロトンを猛スピードで牽引し始めた。11秒遅れで総合3位につけていたライダー・ヘシェダルを、首位へと押し上げるために。
ゴール前10kmで、ルビアノは独走優勝をほぼ確信したと言う。それでも、もう1つの可能性へ向けて必死でペダルをこぎ続けた。ラスト7kmでは、ついに「暫定」マリア・ローザの座に躍り出た。
「監督からマリア・ローザがもしかしたら着られるかもしれない、と言われた。だから全力を尽くした。でも最終盤は全くの平坦だったから、ボクには難しすぎた」
残り2kmの地点で、後方4人とのタイム差は大きく縮まった。つまりルビアノは、マローリに暫定首位を明け渡した。そのマローリの座も、ガーミンが高速チェイスを仕掛けてきたこともあり、決して安泰ではなかった。しかも最終ストレートでは、それほど余裕もないのに、スプリントに突入前のお見合い合戦まで行ってしまって……。
「いい逃げ集団に乗ったね。監督からあらかじめエスケープに滑り込むように言われていたけれど、チームリーダーのスカルポーニをもしもの場合に助けるためだったんだ。でも幸いにタイム差が十分に開き、自ら勝負に行くチャンスを与えられた。でもコースは本当に難しかった。へとへとになったよ。でもすごく幸せだ。疲れすぎて前さえもよく見えない状況になっていたけれど、『リーダージャージが取れるかもしれないぞ』と言われて、体に残っている力を全て出したんだ。このピンクジャージは、ボクにも選手として何かできる、という証明さ」
表彰式後にこう語ったマローリは、今大会イタリア人として初めてのマリア・ローザを手に入れた。2位争いのスプリントを制し、ボーナスタイムも12秒加えた。総合では一緒に逃げたゴラスを15秒、そしてヘシュダルを17秒突き放した。ちなみにボーナスタイムを抜きにすると、ヘシュダルとのリードはわずか3秒のみ。もしもマローリが中間ポイントやゴールでボーナスタイムを取れず、ほんの少し牽制合戦が長引いたら、ほんの少しガーミンの引きが早かったら、結果は大きく変わっていたのかもしれない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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