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この日が33歳の誕生日だったホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)は、自分にお祝いしてあげたいと考えていた。前ステージ、ミゲール・ルビアノがあとわずかのところで総合首位を取り損ねたアンドローニジョカットリは、スタート前にマリア・ローザ獲得宣言を出していた。同じく17秒差でジャージを逃したライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)は、「あとほんのわずかだったのに。フラストレーションがたまったし、とんでもなく不満だった」せいで、この日は一段とモチベーションが高かった。多くの表彰台候補が「今日が最初のテスト」と考えていた。つまり2012年ジロ・デ・イタリア最初の上りフィニッシュステージでは、残念ながら、エスケープ集団が逃げ切れる可能性はひどく少なかったようだ。
それでも、別府史之(オリカ グリーンエッジ)は挑戦した。昨大会の第10ステージは3人での逃げだったが、この日はマッテーオ・ラボッティーニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)、レト・ホレンシュタイン(チーム ネットアップ)、ミルコ・セルヴァッジ(ヴァカンソレイユ・DCM)と4人で暑く長い午後を分かち合った。
……とは言っても、別府はルート上で収集すべきポイントを簡単に分け合ったりしなかった!101.7km地点の3級山岳では先頭通過で山岳5ポイントを、178.8km地点の中間スプリントでは首位8ポイント(ついでにボーナスタイム6秒)を、それぞれ独り占めに。ただしフーガ賞(最も逃げ距離が多かった選手)だけは、首位ラボッティーニの197kmに、あと10km足りなかった。プロトンから最大9分近いリードを奪った逃げ集団が、いつしか協力関係を失い、バラバラになって行ってしまったからだった。別府が中間ポイントと同時に仕掛けたアタックが、大きなきっかけだった。
中間ポイントへと差し掛かる、ほんの少し前までは、背後からの圧力はそれほど強くなかった。マリア・ローザ姿のアドリアーノ・マローリを取り囲むランプレ・ISDが、比較的静かにプロトンの歩みを制御していたものだ。ゴール前40km、タイム差はいまだ5分半ほど残っていた。ところが、道が緩やかな下り基調になったのを利用して、突然ガーミン・バラクーダが強烈なスピードアップを開始。前夜ピンク色のジャージを脱いだばかりのラムナス・ナヴァルダスカスさえも、ルーラーの脚を最大限に発揮した。みるみるうちにタイム差を示す数字は小さくなっていく。このまま無為に吸収されてしまいたくない。そんな別府が思い切ってリスクを冒しに行ったとき、プロトンはすでに2分半差にまで迫っていた。
最後まで足掻いたのは、この日のステージ地からそれほど遠くないところで生まれ育ったラボッティーニだった。しかしゴール前3.5km地点まで続く上り坂——非常に緩やかではあるが、登坂距離は17kmほどと長い——で、メイン集団から飛び出してきたステファノ・ピラッジィ(コルナゴ・CSFイノックス)に、さらにホセ・エレーダ(モヴィスター チーム)に追いつかれ、仕舞には突き放されて行った。結局はこの両者もまた、ゴール前の短い上り坂で、押し寄せてくる強豪達の波に飲み込まれてしまうのだが。
メイン集団では、総合表彰台候補を抱えるチームがそれぞれにちょっとした加速や飛び出しを仕掛けては、それぞれに潰しあっていた。ラスト5kmに入るとアスタナの実力者たち、2009年ジロ新人賞ケヴィン・シールドラーエルスや今季のアムステル・ゴールドレース覇者エンリーコ・ガスパロットが集団制御に努めだした。きっちりメイン集団に残っていたヘジェダルのために、ガーミンもコントロール権を手放さなかった。そして決定的に道が上り始め、ゴール前1kmの表示が見えると同時に、数選手が勢い良くアタックを仕掛けた。
ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)は、今ステージで特別に何かを仕出かしてやろうと考えていたわけではなかったという。ただチームメートのプリジミスラウ・ニエミエツが一緒に飛び出していたせいで、「行かない手はないんじゃないか?」と思い立った。だからランプレのリーダーは、フィニッシュライン500m手前で、急激な加速を見せた。
パオロ・ティラロンゴ(アスタナ プロチーム)は、今ステージは絶対に勝ちたいと願っていた。普段は忠実な山岳アシストとして評判の高い34歳が、この日ばかりは、自分のためだけに走っていた。
「今日は、チームから区間勝利を獲りに行くよう指示されていたんだ。だから最終盤の地形をしっかりと予習していた。ステージの間中、常に前方に留まるよう努力していたし、スカルポーニの加速にも反応した。でも、追いつくためにものすごい力を要した。苦しかった」
常にリーダーのために滅私の精神で全力を尽くしてきたティラロンゴが、プロ人生12年目にして初めての勝利を手に入れたのは、昨ジロの第19ステージのことだった。かつて彼のリーダー役だったアルベルト・コンタドールが、感謝の気持ちを込めて、元グレガリオに勝利をプレゼントしてくれたのだ。この日手に入れたプロ2勝目は、自らの力でもぎ取った。しかもジロ直前のツール・ド・ロマンディで何度か小集団ゴールスプリントに加わっていたティラロンゴは、非常に、冷静だった。
「ゴール前250mで、自分に言い聞かせたんだ。スカルポーニはきっと力を落としてしまうに違いないぞ、って。そして彼がサドルに座るのを見た。その瞬間、出せる限りの力を爆発させて、彼を追い越した。最後は空っぽだったよ」
ちなみに2011年ジロ・デ・イタリアの「正式」な総合勝者を打ち負かしたわけだが、「タイトルを剥奪された」総合勝者に先んじてフィニッシュラインを越えた1年前の区間優勝の方が、ティラロンゴの心の中ではあくまでも上なんだとか。
ようやく大会1週間目にして、ジロはイタリア人ステージ勝者の誕生を祝った。一方でマリア・ローザはイタリア人の手から滑り落ちた。史上3人目のアメリカ人マリア・ローザから始まった2012年ジロは、史上初のリトアニア人に続いて、史上初めてのカナダ人総合首位を迎え入れた。5秒遅れの5位で堂々と区間を終えたヘシェダルへ、ピンク色のジャージが譲渡された。
「今日はチャンスを絶対に逃したくなかった。チームは素晴らしい仕事をしてくれたよ。ゴール前600mまでボクを前に連れて行ってくれた。本当にジャージが取れて嬉しい。数日間は守りたいな」
一方で2位に終わったスカルポーニは、それでもライバル全員を3秒以上突き放し、ボーナスタイム12秒を手に入れた。フランク・シュレク(レディオシャック・ニッサン)は予想以上に調子が上向きなことを喜び、ロドリゲスはバースデー勝利を逃したことを悔しがった(それぞれ首位から3秒遅れ)。イヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)は9秒遅れで、アシスト役の勝利を喜ぶロマン・クロイツィゲル(アスタナチーム)は11秒遅れでゴールラインを越えた。2週間後のミラノの総合上位候補たちが、早くも総合順位の上の方を占領し始めた。ロドリゲスは総合3位(15秒差)に浮上し、スカルポーニは総合首位から54秒差、ロドリゲスから39秒差につけている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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