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サイクル ロードレース コラム 2012年5月16日

ジロ・デ・イタリア2012 第10ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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神は彼のために、この中世の聖なる城壁都市へと続く坂道を作りたもうたのか。自他共に認める現役屈指の激坂スペシャリスト、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)は、インスピレーションに突き動かされたかのように、天辺へと突き進んだ。勾配のきつい石畳の巡礼地を駆け上がり、壁のように立ちはだかる細い路地裏を抜けると、勝利の栄光とばら色の幸福が待っていた。

2012年大会もそろそろ折り返し地点が近づき、これまで大逃げ勝利が決まったのは第6ステージの1回のみ。それでも選手たちは、わずかな可能性に賭ける。今大会すでに2回エスケープを試みたミゲル・ミンゲス(エウスカルテル・エウスカディ)に、2日連続のマルティン・ケイゼル(ヴァカンソレイユ・DCM)、さらにはギヨーム・ボナフォン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、フランチェスコ・ファイッリ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)、マッシアース・ブランドル(チーム ネットアップ)が、13km地点から勢いよく逃げ始めた。

前日の落車を引き起こしたフィリッポ・ポッツァート(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)は、左手の骨折で大会を去った。これで190人にまで数を減らしたプロトンの、制御権を分け合ったのはマリア・ローザのライダー・ヘシュダルを守るガーミン・バラクーダと、わずか9秒差でそのマリア・ローザを追いかけるロドリゲス擁するカチューシャ チーム。先を行く5人に決して5分以上のタイム差を与えようとはせず、じわじわと前を追い詰めて行く。

タイム差がついに1分を切ったゴール前32km。メイン集団からスタフ・クレメント(ラボバンク サイクリングチーム)が飛び出した。すでに二分割していた逃げ集団を、クレメントは再び1つにまとめ上げた。さらにフレッシュな勢いをもたらし、ほんの少しだけ、エスケープの命を引き伸ばしさえした。ただしガーミンとカチューシャに加えて、ひどく狭い山道へ好ポジションで突入したい強豪たちが前線へ競りあがってくると、ラスト7.5kmで全ての逃げはきっちりと回収された。勝負を左右する上り突入は、2.2km後に迫っていた。

上りは3つのゾーンに分かれている。前半は木陰の激坂、中盤は一旦広い道路を下り、後半はユネスコ世界遺産に指定された旧市街の激坂。そしてゴール前3km、つまり前半で最も勾配の厳しい15%ゾーンで、トムイェルテ・スラグテル(ラボバンク サイクリングチーム)が突進を試みた!

ところでクレメントの先のアタックは、このスラグテルの攻撃準備のため……というわけでは特になかったようだ。スタート直後にも逃げにトライしたが、失敗し、再起のチャンスをじっとうかがっていたとのこと。一方スラグテルのアタックは、あっという間に有力勢に潰された。しかも「これほど楽々上れるのか、と驚いたよ。でも、もう少し待ってからアタックすべきだったね」とラボバンク監督陣からダメだしを喰らってしまったのだが、この後もさらに2度(ゴール前2.5km、そしてラスト500m)、22歳の若者は果敢にアタックを仕掛けることになる。

中盤の下りゾーンでは、リゴベルト・ウラン(スカイ プロサイクリング)とジョン・ガドレ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)が速攻を仕掛けたことも。しかし、親友であり山の守護天使ダニエル・モレーノに導かれたロドリゲスが、矢のような勢いで2人を追い越すと、城門へと真っ先に飛び込んでいった。

聖フランチェスコ寺院の美しき敷石参道こそが、後半部分の最大難関ゾーンだった。11%の急勾配を利用して、今度は3日前の勝者パオロ・ティラロンゴ(アスタナ プロチーム)——ロドリゲスの33歳の誕生日に勝ちをさらい取った張本人——が攻撃を仕掛ける。スラグテルも3度目の加速を見せた……。しかし世界中の自転車関係者が「完全なるロドリゲス向け」だと唱え、スタート前にプリート本人も「理論上はボクのためのステージ」と断言していたこの区間を、今度こそ、逃さなかった。ゴール前200mの薄暗い細道で、完璧なアタックを見せたロドリゲスは、光に満ちあふれるゴール地へと飛び出した。イタリア一周で手に入れた初めての区間勝利と、初めてのマリア・ローザだった。

「ボク向けのコースだったからこそ、それを最大限に利用しない手はなかった。特にボーナスタイムのことを考えるとね。今回のような上りフィニッシュは、全てを尽くさなきゃならないし、勝てる、と信じ続けなければならないんだ。そして今日のボクは、まさにやるべきことを果たした。でも、もっと厳しい上りなのかと思ってたんだけどな……。とにかく、今のボクが絶好調だと確信できた。この先のボクにどんな未来が待っているのかどうかは、まあ、見て行くしかないよ」

プリートの2秒後ろには、「こんな成績が出せるなんて予想さえしてなかった。単純に、信じられない!」と語るバルトス・フザルスキー(チーム ネットアップ)が続いた。マリア・ローザ姿で奮闘したヘシュダルは、フィニッシュラインでは正確にはわずか6秒しか失わなかったのだが、ロドリゲスのボーナスタイム「1位20秒」の関係で総合首位の座を失った。またほぼ全ての総合有力勢は、ヘシュダルと同じ6秒差でゴール。つまり首位と2位以外、総合上位はほとんど順位の入れ替わりは起こらなかった。唯一例外だったのは、この山で26秒遅れたフランク・シュレク(レディオシャック・ニッサン)で、総合トップ10から13位へと少しだけ順位を落とした。

……当然ではあるが、マーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)はステージ優勝のチャンスも、ゴールポイント獲得のチャンスもないと分かっていた。だからこそ「マリア・ロッサが欲しい」と何度も公言している世界チャンピオンは、中間スプリントポイント(上位6人にポイント)を取りに行った。カヴはエスケープの5人に続く、6位通過で1ポイントを獲得。首位マシュー・ゴス(オリカ グリーンエッジ)まで3ポイント差に迫ることに成功した。ちなみに開催委員会の判定によると、明日の第11ステージは「平坦」で「スプリンター向き」ステージ。もちろん、今大会はジロ・デ・イタリアであり、決して一筋縄でいかないのは周知の通りだ。たとえばステージ距離は255kmと長いし、ラスト1kmには3つのカーブが待ち受けている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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