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第1回目の休養日を終えてからすでに8日間も休みなしで走ってきたのに加えて、255kmというワンデークラシック並みのとんでもない距離。プロトンは7時間近くもサドルの上にしがみ付き、途中では嫌な雨にも見舞われた。当然ではあるけれど、選手たちの脚も頭もすっかり疲れきってしまったはずだ。おかげで本来ならばそれほど厳しくないはずの4級峠も、普段でさえ危険になりうるゴール前の3つのカーブも、かなりの難題へと姿を変えてしまった。
気の遠くなるような距離にもお構いなく、スタート直後に6選手が逃げを打った。そのうちシモーネ・ポンツィ(アスタナ プロチーム)だけは監督の指示で後ろに下がったが、残す5人は先を続けた。今大会11目にして初めて前に飛び出した4人、つまりアドリアン・サエス(エウスカルテル・エウスカディ)、ミカエル・ドラージュ(FDJ・ビッグマット)、マヌエーレ・ボアーロ(チーム サクソバンク)、ステファン・デニフル(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)と、逃げ常連のオリヴィエ・カイセン(ロット・ベリソル)——おかげで大逃げ総距離=「フーガ賞」総合ランキングは今ステージ後にぶっちぎりのトップだ——は、最大4分程度しかリードを奪えなかったが、かといって急速にタイム差を失うわけでもなかった。
2011年大会勝者ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)の「最終盤以外は、ちょっと退屈なステージになるんじゃない?」との予言は、確かに間違いではなかったかもしれない。ぴっかぴかのマリア・ローザ、ホアキン・ロドリゲス擁するカチューシャ チームは、総合をまるで脅かさない逃げ集団を静かに見守った。ゴール勝負にかけるスプリンターチームも、カウンターアタックを避けるためにも、あまり早い段階で吸収してしまわぬよう注意深く走った。もちろん、逃げ切りを許すつもりもなかった。たとえば実家がゴール地からそれほど遠くないフランチェスコ・キッキ(オメガファルマ・クイックステップ)や、イタリアでの住居が最終峠のすぐ近くというマーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)は、ステージ勝利に通常以上のモチベーションを抱いていたのだ。
ゴールまで30kmと接近し、タイム差もついに10秒を切り、背中にプロトンの息遣いが聞こえてきて……そんな前方集団から、ボアーロが1人飛び出した!初日の個人タイムトライアルで4位と素晴らしい好走を見せた24歳は、その後、約17kmに渡って単独で抵抗を試みる。ただしフィニッシュラインを一旦通過し、最後の周回コースへと突入した直後に、メイン集団に主役の座を譲り渡した。
その集団内では、ゴール前11km地点の4級峠へ向かって、激しいバトルが巻き起こっていた。確かに取るに足らない起伏ではあったものの、万が一を期して、総合狙いのチームたちがきっちり前方で隊列を組んだ。小さなアタックが多発し、前夜3位と好調ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(モヴィスター チーム)はガツンと前へ飛び出した。数選手がすぐさま反応し、しかも下りではロマン・クロイツィゲル(アスタナ プロチーム)やスカルポーニが追いかけたことも!しかし、パンチャーや総合リーダーたちが違いを生み出すには、あくまでも十分な起伏ではなかった。なにしろ下り切ると同時に、5人のスカイボーイズとカヴェンディッシュ——スカイはこの近郊でチーム合宿を組み、4級ヴィーコ峠もきっちり下見済みだったそうだ——や、その他諸々のスプリンターたちが、プロトンの再合流をあっさりと成功させてしまったのだから。
集団ゴールスプリントへ向けて、どうやらほぼ全員がしかるべき場所へと配置されたようだった。ただし2人を除いては。1人目は、オリカ グリーンエッジのスプリントリーダーで、赤色の「キング・オブ・スプリンター」ジャージを身にまとっていたマシュー・ゴス。ステージ中盤以降、集団後方を苦しげに走る姿が何度も目撃されていた。そもそもスタート前から本調子ではなく、あらかじめ「彼は勝利を狙いに行かない、チームも彼のためには働かない」と決まっていたとのこと。そして2人目は、フランク・シュレク(レディオシャック・ニッサン)。彼の場合は、不運にも、2度のトラブルに巻き込まれたから。上り直前の平地で前を行く選手に邪魔され立ち尽くし……、前にやっと追いついたと思ったら、上りでは他選手の落車に足止めされ……。結局ゴール地では46秒を失い、前日のタイムロスもあり、総合ではロドリゲスから2分11秒差へと突き放されてしまった。
山を上手くクリアしたスプリンターたちは、最後の障害、3連続カーブへと飛び込んでいった。再びヴィスコンティがアタックするも、1つ目のカーブ前は難なく通過。スカイが制御しつつ2つ目のカーブに突入し、ここも上手くすり抜けた。しかしゴール前400mに待ち構える、3つ目のカーブで、純粋なる競争のチャンスはまたしても奪われた。カヴの最終アシスト役ゲラント・トーマスは軌道ミスで右足を地面に軽く付き、サチャ・モドロ(コルナゴ・CSFイノックス)は曲がりきれずに転び、そこに数人の選手が突っ込んで……。
見事なコーナリングで抜け出したロベルト・フェラーリ(アンドローニジョカットリ)が、圧倒的な速さでストレートを駆け上がった。恐ろしい勢いで追い上げてくるキッキや、不調のゴス、またはカーブで落車したダリル・インペイの代わりにスプリントに打って出たトーマス・ヴァイクス(オリカ グリーンエッジ)を、軽やかにかわして。第3ステージは自らがゴール前集団落車の原因をつくってしまったが、この日は、誰にも責められることのないクリーンな勝利だった。
「キャリア最高の勝利だよ。イタリア人にとって、ジロでのステージ勝利というのは、ご褒美以外の何者でもないんだ!とくにデンマークでの一件があったから、名誉を挽回したかった。改めてあの日のことは謝罪したいし、ボクをレースから追放しなかった審判団には本当に感謝している」
ただし、あの日は落車の犠牲となり、この日は4位と屈辱を味わわされたカヴェンディッシュだけは、心からフェラーリを賞賛することはできなかったようだ。念願のポイント賞ジャージは取り戻したけれど。「今日はブラボーを贈るよ。でもまだコースにいられるなんて、本当に運がいい男だ。審判たちに家へ送り返されればよかったのに」と、ついついいつもの悪い癖が出てしまった。
「ラスト1km地点で、カヴェンディッシュの隣にたまたま並んだ。彼はボクを見た。ボクも彼が何を言いたいのかすぐに理解した。でもボクはスプリンターだし、ボクの仕事はスプリントすること。そして可能であれば勝つこと。そしてカーブの出口で、彼を追い越した。あとは全てが高速で進んだから、デンマークで起こったことなんか考えている暇はなかった。この勝利が本当に欲しかったから、すごく嬉しい。でもカヴェンディッシュのお気に召したかどうかは、確かじゃないよね」
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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