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サイクル ロードレース コラム 2012年5月20日

ジロ・デ・イタリア2012 第14ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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今大会最初の難関山頂フィニッシュは、ひどく冷たい雨に襲われた。この朝はスプリンター系の4選手がスタート地に姿を現さなかった。いまだ逃げ出さずにレースに向かい合う181選手は、すでに11日間も休みなしで走り続けている。それでも疲れた体に鞭打って、超ハイスピードで走り始めた。なにしろ難関、といっても最初の140kmはほぼフラット。一方で後半の65kmには全長50kmもの上りが待ち構えている。逃げ出すなら、今のうち。そして山岳突入前に、できるだけタイム差を稼ぎたい。こうして幾多のアタックが巻き起こり、序盤1時間は時速50km超を記録した!

つまり1時間とほんの少し走ったところで、ようやく、飛び出し合戦に決着が付いた。58km地点で大一撃を決めたのはマッテオ・モンタグーティ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、アレッサンドロ・デマルキ(アンドローニジョカットリ)、ピエルパオロ・デネグリ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)、オリヴィエ・カイセン(ロット・ベリソル)、アンドレイ・アマドール(モヴィスター チーム)、ニコラス・マース(オメガファルマ・クイックステップ)、ネルソン・オリヴェイラ(レディオシャック・ニッサン)、ヤン・バルタ(チーム ネットアップ)の8人。こんな彼らが順調にエスケープ距離を伸ばし始めると、以降は、ゴールまで前方と後方とで2つのレースが繰り広げられることになる。

前集団にまたしてもカイセンが入り込んだのはもはや特記するまでもないが(通算4度目の逃げ、フーガ賞1位を奪取)、アマドールも3度目の逃げに乗っていた。第8ステージはエスケープ中に暫定マリア・ローザとなりつつ、ゴール前17kmで吸収された。第12ステージは最後まで逃げ切るも……、ゴール前1.8kmでラルスイティング・バク(ロット・ベリソル)の抜け駆けを許し、区間3位に泣いた。2009年プロ入り以来、1度も勝利の美酒を味わったことのない25歳は、この日、3度目の正直にかけていた。

最初の1級峠コル・ド・ジューの登坂口では、エスケープ集団は13分もの大量リードを奪っていた。ここでバルタが無謀にも独走へと打って出る。しかも22.4kmの長い峠道を、たった1人で上り切ってしまった。ところが18kmの長い下りで、アマドールがあっさりと先頭を奪い取った。そして今度はアマドールが、1人で最終峠チェルヴィニアへと挑みかかった。

「この18ヶ月、ひどく苦しい日々を送ってきた。トンドの悲劇的な事故、ソレルの酷い落車事故、さらにボク自身の問題。誘拐されそうになったことがあるんだ」

人生の苦しみに比べたら、22.4kmの上り坂など容易いものだったろうか。しかも途中でデマルキとバルタの合流を許すも、過去の失敗を繰り返すまいと、アマドールは決して警戒を解かなかった。2人の動きを監視し続け、最後はフィニッシュラインへ向けて全力でスプリントを打った。ロシア人の母を持つコスタリカ人が、とうとう母国に——富裕層を狙った営利目的の誘拐が増加しているそうだ——、史上初めてのジロ区間勝利をもたらした。

ちなみにリトアニア人初のマリア・ローザ、とか、カナダ人初のマリア・ローザ、など「史上初めて」と「国際化」が目に付く2012年ジロ・デ・イタリアだが、この5月10日に設立10周年を迎えたUCIワールドサイクリングセンター(WCC)の賜物でもある。スイスのエーグルにある同センターでは、自転車文化の根付いていない国の有力な若者に、育成指導が行われている。たとえば昨年ブエルタ総合2位のクリス・フルームや、「リトアニア人初」のラムナス・ナヴァルダスカス(ガーミン・バラクーダ)もWCCでトレーニングを受けてきた。そしてコスタリカのアマドールも、やはりWCC出身。UCIの国際化政策は、近年、着々と目に見える成果を上げている。

一方でカナダ人初のマリア・ローザ、ライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)は、WCCとは関係はないけれど……、この日、「一旦失ったマリア・ローザを取り返した」史上初めてのカナダ人になった!

後方のメイン集団では、恒例のように、リクイガス・キャノンデールが速い上りリズムを強いていた(下りだけは、濡れた坂道の先導をアスタナプロチームに譲ったが)。コル・デ・ジューの上りではホセ・ルハノ(アンドローニジョカットリ)がアタックを仕掛け、ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ISD)が後を追ったが——しかも一瞬だけ暫定マリア・ローザになったが——、総合争いを脅かす可能性のある両者共々きっちりと回収した。ほかの数人も小さな抵抗を見せるものの、ゴール前17kmほどで、リクイガス隊列によるあらゆるアタック封じ込めは一旦完了した。

そしてゴールまで残り5km、最後の砦、シルヴェスタ・シュミットが退いた。ここまで連日手厚く守られてきたイヴァン・バッソは、ついに1人になった。集団内は突如として色めき立った。いよいよなのか、と。

前夜ゴール後に、マリア・ローザのホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)は語っていた。「バッソが絶対にアタックを仕掛けるよ。だって、彼のジロはチェルヴィニアから始まるんだ、って言ってたからね」。ライバルたちは、ジロを過去2回制したバッソの動きに細心の注意を払った。この隙を上手くついたのが、ヘシェダルだ。ミケル・ニエベ(エウスカルテル・エウスカディ)がアタックを打った、その混乱に乗じて前へと飛び出した。

「有力候補たちは、互いの顔を見合ってばかりだった。だから、ゴール前3kmで、思い切って自分のチャンスに賭けたんだ。あの時点まで戦いはガチガチにコントロールされていたから、これ以上受身になってちゃダメだ、と思って。ただ後ろを引き離したい、自分の力を試したい、と念じていただけ。もしボクが加速したら、他の選手はどう反応するのか、ただそれが知りたかっただけ。他のことなんてまるで考えていなかったよ」

なにしろ総合でわずか17秒しか離れていない危険人物が加速したのだ。ロドリゲスはバッソへの警戒をかなぐり捨て、単独で追いかけた。しかし他のライバルたちに集団に引きずり戻されてしまい、そのままヘシェダルには26秒先にゴールされてしまった。「決して自分向きではない」と語っていた山、つまり距離が長く、勾配がそれほど厳しくない山で、プリートは総合首位の座を守り切ることは出来なかった。

あれほど警戒されたバッソや、ほかの総合ライバルたちは、ほぼ全員ロドリゲスと同タイムでフィニッシュラインを越えた。唯一ロマン・クロイツィゲル(アスタナ プロチーム)だけが6秒失っている。山岳アシスト役ながら、現時点ではリーダーよりも総合上位につけるパオロ・ティラロンゴ(アスタナ プロチーム)が、ゴール前で加速したからなのだろうか……。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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