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18km地点から2人で逃げ始めた。後ろでは強豪揃いの追走集団が作り上げられた。ステージ終盤の80kmはたった1人で走った。雨で濡れた路面で、転んだことさえあった。最後はこのジロ・デ・イタリアの総合優勝を取ろうと息巻く選手が、猛烈に追いかけてきた。……いや、追いつかれた。それでもマッテーオ・ラボッティーニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)は、山の上で、飛び切り大きな勝利を勝ち取った。彼のこんな苦難の1日は、最後には報われた。
そもそもはギヨーム・ボナフォン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)と共に飛び出したのだ。ほんの2日前に遅すぎるシーズン初勝利をフランスとアメリカで祝ったAG2Rは、イタリアでも成功を続けたいと願っていた。ところが24歳のボナフォンは、今ステージで待ち構える4峠の、早くも1つ目であっさり脱落してしまう。同じ24歳のラボッティーニは、自ら加速してライバルを振り払ったわけでもないのに、突然1人になってしまった。
山に入る前には、後ろから2選手の飛び出し×2回が企てられたこともあった。肝心の山に入ると、大量12選手の追走集団が編隊された。名前を連ねたのは、実力も知名度も群を抜く強豪選手ばかり!
2004年ジロ総合勝者ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ISD)を筆頭に、2008年ジロ総合3位マルツィオ・ブルセギン(モヴィスター チーム)、2008年ジロ山岳王エマヌエーレ・セッラ(アンドローニジョカットリ)、2007年ツールスーパー敢闘賞アメッツ・チュルーカ(エウスカルテル・エウスカディ)。グスタフエリック・ラーション(ヴァカンソレイユ・DCM)、ディエゴ・ウリッシ(ランプレ・ISD)、エフゲニー・ペトロフ(アスタナ プロチーム)、マルコ・ピノッティ(BMCレーシングチーム)、アンドレイ・アマドール(モヴィスター チーム)の5人はそれぞれジロ区間勝利の経験があるし、ステファノ・ピラッジィ(コルナゴ・CSFイノックス)は今季ティレノ〜アドリアティコの山岳王、マッテーオ・カラーラ(ヴァカンソレイユ・DCM)は中堅ステージレースの総合をいくつも制している。賞歴に欠けるのは、アルベルト・ロサダ(カチューシャ チーム)だけだった。
一方のラボッティーニといえば、昨季プロ入りを果たしたばかりで、ツアー・オブ・ターキーでの逃げ切り勝利(しかもこの日と同じ、2人でのスプリントを制して)が唯一の勲章だった。ただジロのユース版「ベビージロ」で区間勝利を上げており、それがファルネーゼヴィーニのルーカ・シント監督の目に留まって、現チーム入りにつながった。このシントこそ、山道を1人で走るラボッティーニに、チームカーから熱い指示をかけ続けた張本人だ。
「シントとは非常にいい関係を築いている。昨冬にシントから『ジロに出ろ、そしてステージを勝て』と言われたんだけど、最初はそんな考えを笑い飛ばしたよ。でも彼の言葉を徐々に信じ始めて、ハードトレーニングへと打ち込んだ」
12人が追走を打つ前、ラボッティーニは約8分のリードをつけていた。2つ目の山頂を越えてもなお、5分の差を保っていた。3つ目の上りに入ると、さすがに焦ったピラッジィが飛び出し、そこにクネゴ、チュルーカ、ロサダ、アマドールが加わって、5人の精鋭がさらに追撃の手を強めた。全長7.75kmの最終峠に突入した時点で、5人との差は2分半。
しかもサスペンスは、もっと後方からも迫ってきた。総合勢が軒並み揃うメイン集団は、ステージ終盤に向けて着々とスピードを上げていく。とくに3つ目の峠からの下りでは、ただでさえ道幅が狭くて危険な上に、濡れて滑りやすくなった道を利用して、アスタナ プロチームが集団を絞り込みにかかった。下り終えたときにはメイン集団は20人ほどにまで減っていた。
さらに上りでは連日同様シルヴェスタ・シュミット(リクイガス・キャノンデール)が高速リズムを刻みつけた。そのシュミットが退くと同時に、ついにはイヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)が自ら急加速を切った!ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)もカウンターアタックで仕掛けなおし、ゴール前1.7km、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)が大きな一撃を食らわした。ちょうど勾配が8.2%のゾーンだったから、ロドリゲスにとっては容易い、しかし緩すぎもしない場所だ。そして2日前までマリア・ローザを着ていた男の前には、約1分20秒差でラボッティーニが、そして15秒差で追走の最後の残党……チームメートのロサダが残るだけ。
「ロサダはまだプロとして勝ちを手にしたことがなかったから、彼が勝ちに行っても良かったはずなんだ。でも彼はボクを待ってくれた」
こう語ったロドリゲスは、ラスト1kmを示すアーチを抜けた直後にロサダと合流。ほんの一瞬だけ体を休めると、30歳ベテランの献身に応えるべく、さらに先へと突進した。そして危険が接近してくるにも関わらずひどく淡々と走り続けているラボッティーニを、ゴール前350mで、とうとうつかまえた。
「最後の上りは、ずっとローギアで走ったんだ。だってもうそれ以上は上げられなかったから。ロドリゲスに追いつかれたときに、ようやくギアを変えた。追い抜かれたときは、ああ負けた、と全ての希望を失ったさ。でもなんとか後ろに張り付いた。そしてラスト50m、彼を追い越すことに成功したんだ!」
雨の中をずっと逃げてきたラボッティーニは、この日、間違いなく最も勝ちに値する選手だったに違いない。ティレノ〜アドリアティコの総合を制したこともあるルチアーノ・ラボッティーニの息子マッテーオは、最後の1mまで勇敢に戦い、そしてジロ出場歴9回の父親さえ勝ち取れなかったジロ区間優勝を手に入れた。
ロドリゲスは「決して勝ちを譲ってはいない」そうだが、今大会は難関山岳ステージに限ってボーナスタイムが発生しないため、無理してスプリントする必要がなかったのもまた事実。いずれにせよ総合ライバルたちから軒並みタイムを奪えたし、とりわけ前夜に自らからマリア・ローザを剥ぎ取った男ライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)は39秒も突き放した。たった1日で大切なピンクジャージを手もとに取り返して、総合首位として、2度目の休養日を気分良く過ごすことができそうだ。
スカルポーニとバッソは25秒遅れでゴールし、被害を最小限に食い止めた。ロマン・クロイツィゲル(アスタナ プロチーム)はそこから4秒遅れたが、前日まで好調総合3位につけていたクロイツィゲルの山岳アシスト、パオロ・ティラロンゴは54秒もの遅れを取った。総合ではヘシュダルが30秒差の2位に留まり、バッソが1分22秒差の3位にジャンプアップ。アスタナ2人はティラロンゴが1分26秒差の4位、クロイツィゲルが1分27秒差の5位とほぼ並んだ。またタイムトライアル等の失敗で出遅れた感のあったディフェンディングチャンピオンのスカルポーニは、それでも順調に1分36秒差の6位まで浮上している。
休みなしで走り続けてきた12日間に、ようやく区切りが付いた。2週間前にデンマークから走り始めた198人は、175人にまで数を減らした。われらが別府史之(オリカ グリーンエッジ)や、完走を目指すマーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)は、天候・地形ともに厳しかった2日間を無事にグルペットで乗り越えた。一方で前日まで2分20秒差で総合15位につけていたフランク・シュレク(レディオシャック・ニッサン)が、ステージ序盤に自転車を降りた。ほんの24時間前、肩の痛みを訴えつつも「休養日は目の前。だから、なんとか走り続けたい」と語っていたというのに。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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