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4つの難関峠と、なによりも、ユネスコ世界遺産に指定され、また「ベスト・オブ・アルプス」に選ばれた山間の美しい町、コルティナ・ダンペッツォへと飛び込む長いダウンヒル。ヒルクライムの脚が勝負を左右する単純な山頂フィニッシュではなく、下り技術や戦術も要求される下りゴールだったからこそ、なおのこと、ドロミテのタッポーネ(最難関ステージ)として総合勢の出方が注目された。
本命たちによるメインバトルが繰り広げられる前には、軽めの前菜として、スタートから35km地点で5人が逃げ始めた。マッテオ・モンタグーティ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、ホセ・セルパ(アンドローニジョカットリ)、ケヴィン・シールドラーエルス(アスタナ プロチーム)、ブラニスラウ・サモイラウ(モヴィスター チーム)、さらに3日前に長いエスケープを打ち、青いジャージを身にまとうマッテーオ・ラボッティーニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)。エスケープ集団は、一時は後方プロトンに最大6分近いリードを奪った。また、当然少しでも山岳ポイントを補強しようと願うラボッティーニは、全部で4つあるうち最初の2つの山頂を、望み通りに先頭通過を果たす。
その2つ目の峠、パッソ・ドゥランの山頂まで5kmに迫ったとき、後方メイン集団内から、オレンジ色の弾丸が2発同時に放たれた。下りを9人全員で牽引してきたエウスカルテル・エウスカディの、アメッツ・チュルーカが、リーダーのミケル・ニエベを引っ張って前へと飛び出したのだ。このバスクチームおなじみのタンデム作戦は、発射台としては大成功。勢いに乗ったニエベは前方の逃げ選手に合流して、3つ目の上りへと先頭で飛び込んだ。ただし1年前に超難関ステージ(チーマ・コッピ等難関峠の連続、200km超という長距離、そして雨と寒さが全部同時に襲った第15ステージ!)をもぎ取った勝者は、どうやらあの時ほど絶好調ではなかったようだ。後ろから猛スピードで迫ってきたメイン集団に、上りの途中で、ほかの逃げ選手もろとも飲み込まれて行った。
ニエベの夢を断った3つ目の峠、フォルチェッラ・スタウランサの上りでは、ロマン・クロイツィゲル(アスタナプロチーム)の表彰台の夢もへし折られた。「過去7年のグランツール経験で、こんなに辛い日はいまだかつてなかった」と語ったように、脚に痙攣を起こし、メイン集団から滑り落ちてしまったのだ。ステージ最終盤のわずか40kmで11分26秒を失い、総合順位は5位から20位へと一気に下落。ただしこの先にも飛び切り難しい山岳ステージが2日残っているため、本人もチームも「諦めない」と宣言する。また本来「山岳アシスト」役のパオロ・ティラロンゴが、いまだ総合8位に留まっている。
前を行く者たちを次々と呑み込み、邪魔者たちをせっせと後ろへと追いやったのは、いつもと同じ、リクイガス・キャノンデールの高速山岳列車の仕業だった。いや、いつもと違う点もあった。若きダミアーノ・カルーゾが見事な牽引を長時間に渡って行った一方で、頼もしい山岳アシスト役シルヴェスタ・シュミットがほとんど任務を果たせなかったのだ。ステージ終盤までは、メイン集団の後方に紛れ込んでいた。いよいよ今ステージ4つ目の峠、つまり最後のパッソ・ディ・ジャウ——昨大会のチーマ・コッピ——への登坂が始まると、前線の定位置へと入った。と、ほぼ同時にメカトラブル発生!「あそこでシルヴェスタを失ったのはすごく痛かった」とゴール後にイヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)が嘆いたように、無念にも、シュミットは戦線離脱を余儀なくされてしまった。
つまり予想以上に早く、ゴールまで25kmを残して、バッソは1人になった。ただし前線に生き残ったほかのリーダーたちもまた、アシストを失ってみな1人になっていた。バッソ、ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)、ライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)、ドメニコ・ポッツォヴィーボ(コルナゴ・CSF イノックス)、リゴベルト・ウラン(スカイ プロサイクリング)、そしてマリア・ローザのホアキン・ロドリゲス(カチューシャチーム)の6人が、チーム力やアシスト力とはまるで関係のない、単純に個人だけの力による勝負へと放り出された。
ただし6人の戦いは、最終的に……スプリントで決することになる。なにしろ有力勢のギリギリのにらみ合いの中で、積極的に高速テンポを刻んだのはほぼバッソのみ。ジャウの上りではヘシェダルが勇敢にもアタックを打つが、それを回収したのもバッソだった。また後方からニエベやジョン・ガドレ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)が追いかけてきたのを知るや、集団の加速に努めたのもまたバッソ。2006年と2010年の過去2回マリア・ローザを手に入れた大チャンピオンが、素晴らしい存在感を見せ付ける。
「今日のボクは、間違いなくバッソほど調子はよくなかった。上りでの彼はものすごく強かったし、非常にいいステージを実現した。バッソのパフォーマンスこそ、褒め称えるべきものだね」
こんな風にロドリゲスはライバルに賞賛の声を送ったが、しかし、一方では困惑も隠せなかった。「招かざる客」ヘシェダルの存在だ。つい先日までマリア・ローザを着ていたこのカナダ人のことを、そのうち自滅するだろう、とあまり重要には考えていなかったようなのだ。だがこのヘシュダルこそが6人の中で唯一、上りで攻撃をしかけ、下りでも前に飛び出そうと積極的に試みた選手だった。
「ここまでヘシュダルがボクらについて来れると言うことは、このジロは彼のモノになるかもしれない。タイム差や、ミラノでのタイムトライアルを考えると、彼が優勝する可能性は大いにある。もちろんボクとしてはヘシュダルに脱落して欲しいし、脱落させるためにボク自身もあらゆる手を尽くす」
昨大会の繰上げ覇者スカルポーニが、山頂付近で軽く千切れてしまう衝撃もあったが、長い下りの果てに、ゴール前2kmで再合流。最後には6人全員でゴールへと突き進んだ。ここでもバッソがいつも以上に大胆にアタックやスプリントを仕掛けるが……、ピンク色のジャージが爆発的な加速力を見せると、なんとフィニッシュラインをかすめとってしまった!
ただし、ノーギフト的な、いわゆるアームストロング風に「ボスの座を主張する」ための勝利ではなかったようだ。なにしろガッツポーズの直後に、右袖につけられた黒いリボンへとキスを贈ったロドリゲスは、優勝記者会見で泣き出してしまったほどだったのだから。もちろんマリア・ローザを守るストレス、総合争いの緊張感、そしてここまで走ってきた疲れ等々、心身ともに極限状態にまで追い詰められていたに違いない。だからこそ悲しみの感情さえも、抑えきれずにあふれ出してしまったのだろう。1年前に悲劇的な事故で命を落としたハビエル・トンドは、ロドリゲスにとって、大切な友だった。
ミラノ到着まであと4日。ロドリゲスの30秒後にヘシュダルがつけ、1分22秒差でバッソ、1分36秒差でスカルポーニが後を追う。表彰台争いはこの4人に絞り込まれたと言えるだろうか。もちろん、いまだ「超」が付くほどの難関山頂フィニッシュが2回、ミラノへと向かう道の上で待ち受ける。もうひと波乱起こる可能性は十分に残っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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