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劇的なアタックも、圧倒的な王者による強烈な支配も見られないまま、ついに最後の週末がやってきた。隠し切れないフラストレーションを抱きつつ、それでも来る厳しい山々へと期待をつなげる関係者たちは、みな挨拶代わりにこう口にした。「今日から本物のジロは始まるんだ」。
絶好の勝負日和だった。ほぼ1日中お日様に恵まれ、雨や強風や寒さ……、というような人間の力が及ばないモノに選手本来の実力が左右されることもなかった。スタートから15kmでエスケープ集団が出来上がり、そこからフィニッシュラインが引かれるパンペアーゴ峠への、1回目の登坂で、サンディー・カザール(FDJ・ビッグマット)とステファノ・ピラッジィ(コルナゴ・CSFイノックス)がさらに前へと飛び出した。第12ステージの大逃げで暫定マリア・ローザにもなったカザールは、念願の総合トップ10入りを果たすために。もう一方のピラッジィは山岳賞ジャージへ向けたポイント収集に勤しみ、5つある峠のうち4つをトップ通過。
逃げ集団は17選手で構成されており、つまりほぼ全てのチームが1人ずつ前に選手を送り込んでいた。ただし総合2位ライダー・ヘシェダルのガーミン・バラクーダと、総合3位イヴァン・バッソのリクイガス・キャノンデールに限っては、チーム全員が後方待機。もちろん山が近づくと共に、この3週間繰りかえし見られてきたように、山へ向けてリクイガスが強烈な列車を走らせた。残念ながら、この日も第17ステージと同じく、山岳エンジン役シルヴェスタ・シュミットは絶不調だったのだが……。
やはり第17ステージに「これまで経験してきたグランツールで一番つらい日」を味わったロマン・クロイツィゲル(アスタナ プロチーム)は、前夜も調子が悪かったという。総合ではすでに13分近く遅れを喫していたから、もはや表彰台は諦めていた。むしろチームメートのパオロ・ティラロンゴのトップ10入りをアシストするつもりで、この日はスタートを切っていた。ところが最後から2つ目の峠、パッソ・ラヴァーゼの上りで、自らが渾身のアタックに打って出た!
「監督から、もしもボクがアタックするつもりなら最終峠の最後の数キロにするよう、指示されていた。でもラヴァーゼの上りはボク向きだった。それに少し前にダリオ・カタルド(オメガファルマ・クイックステップ)が飛び出したから、行こうと決めた。うまく協力すれば逃げ切れるかもしれないと思ったんだ」
自らの名誉を取り戻すために、2012年ジロ・デ・イタリアの物語に自らの名前を残すためにも、クロイツィゲルは区間勝利が欲しかった。このときのメイン集団は、まだリクイガスの刻む一定テンポに従って走っていた。
メイン集団で総合本命たちが動いたのは、パンペアーゴへの2度目の上り。つまりゴールへと向かう最終峠の、最も勾配の厳しいラスト4kmに入ってからだ。長らく先頭を走っていたピラッジィとカザールは、エスケープ集団の残党に一旦追いつかれ、再び突き放していた。勇気ある追走者クロイツィゲルは、カタルドを振り払い、長らく先頭を走ってきた2人へと数秒に迫っていた。そしてメイン集団では長らく先頭を引いてきたリクイガスのヴァレリオ・アニョーリが退き、ここでついに、ガーミン・バラクーダが主導権を引き継いだ。ヘシェダルを守るピーター・ステティーナとクリスティアン・ヴァンデヴェルデが、力強くリズムを刻み始める。
結局、カザールとピラッジィの両者の念願は、いずれも完全には果たせなかった。カザールは総合19位から順位を1つ上げただけだし(総合10位までのタイムも6分43秒→6分25秒へとわずかに縮めただけ)、ピラッジィは相変わらず青色ジャージまで21ポイント足りない(最終峠を1位通過できていれば、6ポイント足りないだけで済むはずだった)。クロイツィゲルはと言えば、ラスト2.5kmでとうとう単独先頭に立つと、息もできなくなるほどの渾身のペダリングで、ゴールへと真っ先にたどり着いた。
「本当に苦しかった。最後の200mまできて、ようやくボクに勝利のチャンスがあることを確信できた。だから、最後にもう一度、持てる力を文字通り全部出し尽くしたんだ」
本当に全エネルギーを使い果たしてしまったせいで、ガッツポーズのために両手をハンドルから離すことさえ難しかったほど(そうしてバランスを崩してしまった)。自転車選手の父からエリート教育を受けてきたクロイツィゲルが、26歳にして、初めて手に入れたグランツール区間優勝だった。
「パンペアーゴという威厳ある山で区間勝利を手にすることが出来て、本当にすごく嬉しいよ。でも総合表彰台に上るときのような喜びとは、まるで違うね。総合争いに加わることが出来なくて、すごく悔しいんだ」
表彰台候補だったクロイツィゲルの代わりに、大会前は無印だったヘシェダルがこの日も戦いを先導した。昨大会覇者ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)が何度か急加速を見せて、集団をどんどん小さく千切って行く。そしてメイン集団が総合首位ホアキン・ロドリゲス(カチューシャチーム)、2位ヘシェダル、3位バッソ、4位スカルポーニ、新人賞リゴベルト・ウラン(スカイ プロサイクリング)、7位ドメニコ・ポッツォヴィーボ(コルナゴ・CSFイノックス)の6人に絞られた、その時だ。
ゴール前2.5kmで、カナダ人として史上初めてマリア・ローザを着た男が、強烈な一発を繰り出した。スカルポーニ以外の全員を……まとめて置き去りにしてしまうほどの!わずか30秒差でピンクジャージを保持するスペイン人も、後ろで苦しんでいる。さらにヘシェダルは加速を続けた。ロドリゲスとのタイム差を少しでも稼ぐために。ゴール前1kmのアーチの下では、イタリア最後の希望、スカルポーニさえもついに突き放した。
「ヘシェダルからタイムを稼ぐ予定」で今ステージへ臨んだロドリゲスは、「真実はタイムを失ってしまった」と苦しかったラスト数キロを振り返る。
「ヘシェダルのアタックは本当に強すぎて、ボクには付いていけなかった。だから自分のペースで上ることに決めて、ポッツォヴィーヴォの後について行ったんだ。さもなきゃ、完全に崩れてしまっただろうから」
冷静な判断が功を奏し、最終的にはスカルポーニを追い越して……ロドリゲスはヘシェダルから13秒遅れでフィニッシュラインを通過することに成功した。これはすなわち、17秒差でマリア・ローザを守りきったことを意味する。攻撃的に走ったスカルポーニは、表彰台圏内=総合3位に浮上。ただしロドリゲスから1分39秒遅れ、ヘシェダルからは1分22秒遅れだから、もう1つ階段を上がるのはかなり難しそうだ。むしろ残り2日は、バッソとの、表彰台争いに集中することになるだろう。チームメートに連日仕事をさせてきたバッソは、ラスト2kmで大いに苦しんだ挙句、1分45秒遅れの総合4位に転落している。
たしかに本物のジロは始まった。切れ味や華やかさは少々物足りなかったかもしれないが、アタックも見られた。「無印」で「サプライズ」だったヘシェダルは、ミラノまであと2日を残し、2012年ジロ・デ・イタリアの総合優勝大本命の座に押し上げられた。あとは心静かに、ジロ伝説の峠モルティローロと、ジロ史上最標高地点ステルヴィオの審判を待とう。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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