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標高2757m地点は、万年雪が美しかった。酸素は薄く、山頂には谷底からの強風が吹き上げ、空気はとびきり冷たい。しかし辺り一帯はファンたちの熱気に包まれていた。なにしろジロ史上でも最標高の「チーマコッピ」ステルヴィオが、7年ぶりにステージフィニッシュを迎え入れるのだ。しかも総合首位ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)と2位ライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)の差は17秒、総合3位ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)と4位イヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)との差は6秒……という極めて僅差の争いの行方が、22.4kmの長い上りをたっぷり使って大きく動く可能性があったのだから。
ステルヴィオの直前には、伝説の峠モルティローロが待っていた。ステージ最初の峠で逃げ出した14人の集団から、4つ目のこの山で、昨秋のジロ・ディ・ロンバルディア勝者オリバー・ザウグ(レディオシャック・ニッサン)が独走態勢に入った。一方で3分ほど後方のメイン集団では、「ヘシェダルを突き放すならこの山」と大勢の専門家たちが断言してきた通り、ロドリゲスがアタックを試みた。ただしそのヘシェダルが真っ先に反応。激坂にも耐えられる脚を見せつけた。むしろバッソが苦しめられる場面があったが、結局、総合争いはニュートラルのまま「パンターニの山」を通り過ぎた。
モルティローロを下り切ったあとの谷間は、五月雨式アタックの舞台となった。上位4選手とそのアシストたちが互いを厳しく警戒しあう、その隙を利用して2人、3人、と細かな飛び出しが断続的に相次いだ。しかも総合8位トーマス・デヘント(ヴァカンソレイユ・DCM)を筆頭に、ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ISD)、ミケル・ニエベ(エウスカルテル・エウスカディ)、ダリオ・カタルド(オメガファルマ・クイックステップ)、ヨハン・チョップ(BMCレーシングチーム)等々、逃げ出したのは総合トップ20位以内の選手ばかり。
「逃げ出した理由は、最後の上りに備えて、あらかじめ少しタイム差をつけておきたかったから。どうしても総合8位の座を守りたかったんだ。前後の選手とそれほどタイム差が離れていなかったから、なおのことね」
ゴール後にこう語ったデヘントや、そのほかの強豪たちは、上手く協力し合ってメイン集団からのタイム差を順調に開いて行く。もちろん前を行くザウグへと追いついて、そしてステルヴィオへ突入すると同時に置き去りにした。この時点でカウンターアタック集団のリードは4分だった。
「タイム差が3分くらい開いた時点で、ステージ優勝の可能性を探り始めた。でもステルヴィオのような山では、5〜6分くらい簡単に失ってしまう。それにラスト15kmは本当につらかった」
上りが始まって5km、デヘントはニエベと2人で先頭に立った。さらに5kmほど走ったところで、つまりゴール前12.7km、デヘントはついに1人になった。後ろからはクネゴが必死で追いかけてきていたが、これまで大逃げで数々の勝利やジャージを手にしてきた「エスケープスペシャリスト」は、2004年ジロ総合勝者の追随を決して許さなかった。それどころか、あまりにパワフルに上り続けるものだから、残り6.5km地点でメイン集団とのタイム差は5分35秒にまで広がった。……すなわち暫定マリア・ローザまであと5秒!
「でもピンクジャージが取れるとは決して考えなかった。だって総合争いの選手たちが、最後にスピードを上げてくることは分かっていたんだ」
しかし長い上りの大半はガーミン・バラクーダの集団制御に費やされ、本命たちが加速装置を入れたのは、ようやくラスト4kmに入ってから。しかも、すでにモルティローロでも千切れかけていたバッソは、ここで真っ先に戦いから脱落して行った。断然ミラノでの表彰台が近づいたスカルポーニは、ただし、あくまで総合優勝の可能性に賭けてアタックを打った。「最後まで諦めたくなかった。それにライバルたちは、みな調子がそれほど良くなさそうだったし」と語った昨大会王者は、ロドリゲスとヘシェダルを十数秒突き放し、熱狂するファンの波をひとりかき分けて突き進んだ。しかし全長22.4kmの山道の、ラスト800mで、激坂ハンターの脚が火を噴いた。
「4kmだろうが800mだろうが、それほど大きな違いはなかったはずだ。ゴールラインでつけられるタイム差は、ほぼ同じだったと確信している。もちろんアタックを仕掛けたときは、もっとリードを開きたいと考えていた。ヘシュダルの疲れが極限に達しているように見えたからね」
極めて短いアタックで、ロドリゲスはまんまとヘシュダルを振りほどき、スカルポーニさえも追い抜いた。ヘシェダルから奪い取れたタイムはわずか14秒だったけれど、前夜失った13秒を補填することには成功した。もちろん2012年ジロ・デ・イタリア最後の山頂フィニッシュの終わりに、もう1度、マリア・ローザ表彰台へと臨むこともできた。もしかしたらこれが最後かもしれない……と本気で思っていたのかどうかは分からないが。
「ミラノでのタイムトライアル後にもマイヨ・ローザを守れていたとしたら、それは奇跡に違いないね。ヘシュダルはボクよりもTTが得意だし、特にタイム差は31秒しかない。でもボクは信じたい。このヘシェダルはこの2日間の疲れと、プレッシャーを抱えている。だからボクは自分自身に、わずかながらボクにも希望があるはずだ、と言い聞かせているんだ」
スカルポーニはロドリゲスから12秒遅れでフィニッシュラインを越え、総合3位の立場をキープするに留まった。見事な独走勝利を決めたデヘントが、バッソから総合4位の座を奪いとった。しかもデヘントは、スカルポーニまでもたったの26秒差に迫って来ている。それどころか、首位ロドリゲスと2分18秒差、ヘシェダルとは1分37秒差がありながら、イタリアメディアは「もしかしてデヘントの総合優勝もあり得るのではないか」との脅威を大いにかき立てている。昨ツールの最終TTはトニー・マルティン、カデル・エヴァンスに次ぐ3位。つまり自身初のグランツール表彰台を現実にするための実力は、十分に備えている。
ピンク色の表彰式を楽しんだ直後に、ロドリゲスは赤ジャージも手に入れた。4位ゴールでゴールポイント14pを手にしたおかげで、マーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)を……わずか1p逆転してしまったのだ。難関山岳を連日必死にグルペットで耐えてきた世界チャンピオンは、区間3勝を上げたにも関わらず、2010年ブエルタ、2011年ツールに続く「キング・オブ・スプリンター」になることはできなかった。ただし幸いにも、アッズーリ・ディターリア賞と敢闘賞でいまだカヴは首位に立っている。ミラノの最終表彰式にほぼ間違いなく臨むことができそうだ!せめてもの慰めに。
またマッテーオ・ラボッティーニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)は、今ステージも序盤の逃げに乗り、19pを上乗せして山岳賞ジャージを確定させた。フーガ(大逃げ)のチャンスも今ステージが最後であるからして、21日間で5回の逃げ距離を記録したオリヴィエ・カイセン(ロット・ベリソル)が、望み通りに大逃げ大賞に輝いた。
219km長い自転車旅を無事に終えた157選手は——この日は2人がリタイア、4人が「チームカーを風除けにして長時間走った」として失格になった——、開催委員会が用意したホテルでゆっくりと暖かいシャワーを浴びた。チームバスはスタート直後にすでにミラノへ向けて出発しており、選手たちはチームカーに分乗して、運のいい選手はヘリコプターに乗って、さらに250kmの長距離移動を行った。5月の最終日曜日に、ミラノの中心部で、大会最後の30kmを走るために。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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