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カンチェ!カンチェ!
ちょうど8年前の夏、ここリエージュのプロローグで、ほぼ無名の23歳が人生初めての栄光を味わった。あの日区間勝利とマイヨ・ジョーヌをいっぺんに勝ち取って、一気にスターダムへとのし上がった。あれからいくつもの季節が過ぎ、たくさんの勝利を積み重ねた。ツール区間7勝、マイヨ・ジョーヌ21日、パリ〜ルーベ2勝、ミラノ〜サンレモ1勝、ツール・デ・フランドル1勝、世界選手権タイムトライアル4勝、五輪TT金メダル。
そして2012年6月30日土曜日。ファビアン・カンチェッラーラは、人生8つ目のツール区間優勝を手に入れた。全長わずか6.4kmのコースで、2位以下を7秒も引き離す7分13秒の好タイムを叩き出した。平均時速は53.2km/h。2004年大会初日はほぼ同じコースを53.6km/hで駆け抜けたから、実はほんの少しだけ、あの時のほうが速かった。それでもカンチェッラーラ本人は、きっぱりと断言する。
「今日の勝利は本当にスペシャルなんだ。8年前の勝利も特別だったけれど、それよりもはるかにスペシャルだね。選手人生の中でも間違いなく『トップ』の勝利だ」
ツール・デ・フランドルで落車し、右の鎖骨を3カ所骨折してから3ヶ月。以来、ハイレベルな走りを取り戻すために、厳しいリハビリとトレーニングに耐えてきた。最高の体調と最高の脚でツールのプロローグ当日を迎えるために、全てを尽くしてきたと語る。「だからこそ、この日の勝利はボクにとって多くの意味を持つ」。
「すごく誇らしい。妻と子、そしてこれから生まれてくる子供に捧げたいよ。ベイビーのために、新しい『プティ・リオン』(マイヨ・ジョーヌ着用者に送られるライオンのヌイグルミ)を手に入れることが出来たので本当に嬉しいね」
一方で昨季に「TT王」の称号を奪い取ったはずのトニー・マルティンは、メカトラブルの犠牲となり、23秒を失った。またフレンチTTチャンピオンのシルヴァン・シャヴァネルは、1時間5分にわたって暫定首位の座を守り続け、最終的には7秒差の3位という好位置につけた。
第1ステージにかける奴ら
カンチェッラーラの言葉を借りれば「全長6.4kmのヴェロドローム(自転車競技場)」は、8年前と同じように、自転車大国独特の熱気に包まれた。少々人がまばらだった2日前のチームプレゼンテーションと比べても、今週末から夏のバカンスに突入したばかりのリエージュには、本格的な暑さにも誘われて、多くのファンたちが詰め掛けた。もちろん地元っ子のお目当てはフィル。そう、リエージュ州で生まれ育ったフィリップ・ジルベールだ!
ベルギーチャンピオンジャージはほんの1週間前に脱いでしまったし、2012シーズンはいまだに1勝も上げていないけれど……。ワロン地方が誇る自転車チャンピオンは、久しぶりに心からの笑顔を見せつつ、大会1日目を終えた。
「感激でいっぱいだよ。キャリアにおける最高の瞬間だね。ファンたちの熱を全身で感じることが出来た。コースを走っている間中、観客から背中を押されているような、そんなステキな気分だった」
ジルベールは首位からわずか13秒遅れの9位。つまり「ジルベールのために用意された」第1ステージ終了後にマイヨ・ジョーヌを手に入れるためには、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュさながらのアップダウンを利用してカンチェッラーラから13秒を奪い取る必要がある。少々難解な賭けかもしれない。また上り坂フィニッシュでジルベールの最大のライバルと目されているペーター・サガンは、首位から24秒遅れ(ジルベールから11秒遅れ)。開幕前に「第1ステージでは区間優勝を狙う。それにマイヨ・ジョーヌかマイヨ・ヴェールも着たい」と語っていた22歳は、果たしていくつの野望を叶えることができるだろうか?
「ユキヤは明日から逃げに乗ったっていいんだよ!たしかにチームは総合を狙っていくし、ユキヤにはアシストとしての仕事を期待している。ただし全員をプロトン内に縛り付けておくつもりはない。エスケープに選手を送り込むのは、戦術としても重要だし、わがチームの信条でもあるから。だからユキヤにはぜひともチャンスを見つけて欲しい」
チームユーロップカーのゼネラルマネージャー、ジャンルネ・ベルノドーは、数日前からの騒動でやはり少々疲れた表情ながらも、こんな風に語ってくれた。つまり明日からさっそく逃げる可能性だってある新城幸也は、38秒遅れの134位。……総合本命のひとりに上げられるフランク・シュレクと同タイムである!
6.4/101.4
その総合争いは、初日からひどく緊張感が漂っていた。2012年ツールの見どころのひとつがTTの長さで、2012年ツールの優勝大本命2人——カデル・エヴァンスとブラドレー・ウィギンス——がまさしくTT巧者。つまり、TTがマイヨ・ジョーヌの行方をいつにも増して大きく左右するに違いなく、たとえ全長101.4kmの独走種目のうちたった6.4kmとはいえ、本命たちの意気込みは凄まじかった。
注目されていたエヴァンスvsウィギンスのTTバトル第1回戦は、ウィギンスにあっさり軍配が上がった。「パーフェクトなスタートだ」とウィギンス。世界最高のTTスペシャリストであるカンチェッラーラからは7秒の遅れを喫したものの、プロトンの残り196人のタイムを全て上回った。ちなみに2004年にカンチェッラーラがプロローグ@リエージュを制したとき、区間2位に入ったのはランス・アームストロングだった。当然3週間後にマイヨ・ジョーヌを着ていたのもアームストロング。同じ現象が今年も繰り返されるのか。
エヴァンスはライバルから10秒の遅れを喫した。「短いTTはボク向きじゃないから、タイムを失ったのは至極普通のこと」とディフェンディングチャンピオンは落ち着いた様子で語る。そのエヴァンスの若きアシスト役ティージェイ・ヴァンガーデレンが、首位から10秒差、ウィギンスからわずか3秒遅れという好タイムで、新人賞マイヨ・ブランを身にまとった。
「クレイジーなサプライズだね。確かにこのジャージが着れたらいいな、とは思っていたけれど、初日でいきなり手にできるなんて!でもチームの本当の目標は、カデルをパリの表彰台の一番高いところまで連れて行くこと。そしてカデルはプロローグよりも、ツール最終盤の長いTTを得意としている。10秒というタイム差は、心配には値しない」
一方ではウィギンスの頼もしい山岳アシストになるであろうクリス・フルームも、首位から13秒差・ウィギンスから6秒差と悪くない順位につけている。TTの通算距離の長さがやはり有利となりそうなデニス・メンショフも同タイム。つい1ヶ月前に最終日TTを利用してジロ・デ・イタリア逆転総合優勝を果たしたライダー・ヘシェダルは、一昨年ブエルタ王者ヴィンチェンツォ・ニーバリと共に首位から18秒(ウィギンスから11秒)遅れ。
TTよりもむしろヒルクライムへの特性に秀でた者たちは、かなりの短距離ながらも、苦戦を強いられたようだ。ロベルト・ヘーシンクは首位から26秒(19秒)遅れ。4年ぶりのツールスタートを切ったアレハンドロ・バルベルデは35秒(28秒)、フランク・シュレクは38秒(31秒)、サムエル・サンチェス40秒(33秒)。将来的にはベルナール・イノー以来のフランス人総合王者に!と期待されるピエール・ローランに至っては、早くも45秒(38秒)もの遅れを喫してしまった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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