人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2012年7月3日

ツール・ド・フランス2012 第2ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

痛みを押して

ベルギーで過ごす最後の1日。お天気は良く、かといって暑くもなく、風はあるものの、それほど強くもなく……。いわば絶好の自転車日和だ!しかも道に特筆すべき起伏もない。難点と言えば、走行距離が200kmを超えることだけ。そもそも長い1日になるだろうと予測されていたが、その上、前日のアップダウンで神経をすり減らしたプロトンはステージ序盤をのんびりと過ごそうと決めたようだ。スタートから20kmはアタック合戦も特に見られず、その後あっさり3選手を行かせると、後方集団はサイクリングモードへと突入した。

前日の落車でひどく体を痛めた選手にとっては、幸いだったに違いない。トニー・マルティン(オメガファルマ・クイックステップ)は左手に舟状骨の骨折が認められたが、「走り続けたい。1週間後のタイムトライアルまで行くことが、まずは第一目標だ」と強い意志でリタイアを拒否。最終盤の集団落車で地面に落ちたルイスレオン・サンチェス(ラボバンク サイクリングチーム)やブリース・フェイユ(ソール・ソジャサン)も体のあちこちに痛みを抱えていた。彼らはステージの大部分をプロトンのお尻に張り付いて過ごすしかなかった。

前日にやはり落車しながらも、果敢に前線への飛び出しを試みたのがアントニー・ルー(FDJ・ビッグマット)だった。22km地点でエスケープの口火を切ると、クリストフ・ケルヌ(チーム ユーロップカー)とミカエル・モルコフ(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)の合流を待って、長い逃げへと走り出した。

「プロトン内で苦しむよりは、前で苦しんだほうがずっといいと思ったんだ。ベルギーの道は舗装状況が悪くて振動がすごから、確かに手は痛んだ。それに逃げは結局は何の役にも立たなかったけれど、でもトライしなきゃ始まらないからね!」

後ろがそれほど厳しく締め付けてこないおかげで、先を行く3人は最大8分ものリードを奪うことに成功した。ちなみにモルコフは2日連続の逃げで、この日1つしかない山岳ポイントを先頭通過し、さらにもう1日赤玉ジャージを着る権利を確保している。

いつもとは違う夏

第1ステージを通して忙しく働いたレディオシャック・ニッサンにとっても、幸いだったに違いない。「明日はほかのチームにも仕事をしてもらいたいものだよ」とマイヨ・ジョーヌのファビアン・カンチェラーラ(レディオシャック・ニッサン)は前夜にこう不満を漏らしていたが、頼まれなくてもこの日はスプリンターチームが積極的に仕事を引き受けてくれた。ロット・ベリソル チーム、チーム アルゴス・シマノ、オリカ グリーンエッジ等が、きっちりとプロトン前方でタイム差コントロールに努めた。

ただし「現役最強スプリンター」マーク・カヴェンディッシュ擁するスカイ プロサイクリングは、最前線からは一歩引いて控え目にしていた。総合優勝を狙うブラドレー・ウィギンスの保護が最重要任務であるため、「ほかのチームに仕事をしてもらう。受身の態勢で行くよ」とチーム監督も断言。つまり2012年ツール・ド・フランスでは、カヴを牽引するおなじみの圧巻なトレインは見られない。保護役はエドヴァルド・ボアッソンハーゲンとベルンハルト・アイゼルの2人に専ら託されることになる。

「例年とは違う。これまでのボクには、全てを完璧にコントロールして、ゴールまで連れて行ってくれるチームがついていた。今年のチームは別の目標を持っている。でもね、別の目標を追い求めるチームの一員でいられることが、本当に嬉しいんだ。それにチーム全体がボクのために働いてくれる場合は、勝利に対する責任やプレッシャーが大きいもの。一方で今回は比較的リラックスして走れるんだ」

こう語る英国マン島出身の世界チャンピオンは、英国人初のマイヨ・ジョーヌ誕生の瞬間に立ち会いたい……、こんな風に心から願っているそうだ。もちろん個人的には今年もマイヨ・ヴェールが欲しいため、中間ポイントも果敢にひとりで対応した。アシストの力を借りて加速を打って出た他のチームリーダーたちに混ざって、目立つ黄色のヘルメットもスプリント。昨年までは自分のためにパーフェクトな発射台役を務めてくれていたマシュー・ゴス(オリカ グリーンエッジ)やマーク・レンショー(ラボバンク サイクリングチーム)に続いて、3番目(つまりエスケープ3人に続く6番目)で中間スプリントポイントを通過した。

中間スプリントを過ぎたころから、後方プロトンは急激に逃げ集団とのタイム差を縮めにかかった。一番に逃げを打ったルーが、手の痛みにも関わらず、最後まで1人で抵抗を続けた。2009年ブエルタで驚異的な逃げ切り勝利を手にしたことのあるルーだが、しかし、この日はゴール前15kmで望みは断たれた。

たとえひとりぼっちでも

ベルギー最後のゴール地へ向けて、ベルギーチームのロット・ベリソル チームが威勢のいいトレインを組み上げた。最強のライバルの不利な状況をうまく利用して、やはり2008年頃はカヴのアシストを務めていたアンドレ・グライペルを、勝利へと導こうというのだ。一方で、1日中働いてきたはずのチーム アルゴス・シマノは、肝心のエーススプリンター、マルセル・キッテルがラスト10kmほどで遅れ始めてしまった。急遽トム・フェーレルスを代役として新たなミニ隊列を組み上げる。アレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ISD)やフアンホセ・アエド(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)も、チームメートの助けを得て前方へと上がってきた。ゴール前3.3kmの、道幅が急激に狭まるカーブの手前では、BMCレーシングチームさえも総合リーダーのカデル・エヴァンスを連れて先頭を引いた。

あらゆるリーダーたちが手厚い保護を受けていた。ところがカヴェンディッシュはラスト5kmの地点で、ボアッソンハーゲンに「自分を引かなくてもいい」と告げた。あえて1人で戦う道を選んだのだ。

「どちらにせよ、ほかのトレインと同じ動きをすることなんて不可能なんだ。それにボアッソンハーゲンとは、一緒にトレインを組んだ経験も少ない。だったら自分1人で全部やったほうが簡単だと思ったんだ。もしも誰もいないならば、指示を出したり、決定したり、計算したり、というのが少なくて済む。だから1人でやろうと決めた。もちろん彼らはステージ中ずっと働いてくれたから、これ以上疲れさせたくもなかったしね」

ゴールライン600mまで来ても、カヴェンディッシュの黄色いヘルメットは群集の向こうにチラチラと見えるだけだった。ところが大ベテランスプリンターのオスカル・フレイレ(カチューシャ チーム)に張り付いて前に上がり、ゴスの動きを見逃さず絶好のオープンスペースに滑り込むと、ついにはアシストに引かれて前から2番目を突き進むグライペルの後ろに最適な居場所を見つけてしまった!……この日の朝、レンショーが「ボクはカヴェンディッシュのことはよく知っている。考え方とか、動きの癖とか」と語っていたが、リーダーだって元アシストのことは熟知していたようだ。あとはグライペルの加速に反応して、自らの爆発力を発揮するだけでよかった。

カヴェンディッシュはこれにてツール区間通算21勝。世界チャンピオンになってから、そしてパパになってからは……、嬉しい初めてのツール勝利となった。グライペルは僅差で2位、追い上げてきたゴスは3位に終わった。また前夜に強烈な勝利を上げたペーター・サガンが、この日は中間スプリント7位9pt+区間6位20ptを積み重ね、ついに本物のマイヨ・ヴェールを身にまとった。もちろんカンチェッラーラは何の問題もなく、3回目のマイヨ・ジョーヌ表彰式に臨んだ。

「フランスにマイヨ・ジョーヌでたどり着くことができて嬉しい。明日の最終盤は非常に厳しい。それは間違いない。ただし監督はすでに明日に向けてしっかり準備をしてくれているし、今夜のミーティングで戦術をきちんと確認するつもりだ。難しいけど、きっと上手くこなせるだろうと確信している」

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ