人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2012年7月6日

ツール・ド・フランス2012 第5ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

スキャンダル再び

完全なる引退から1年半。いまだにランス・アームストロングの一挙一動は、自転車界のトップニュースを飾る。それがスキャンダルだった場合は特に。数週間前にアメリカのアンチドーピング機構が、数人の元チームメートの証言に基づいて、ツール7連覇王者のスポーツ競技会への参加を禁止した。そしてこの日の朝、オランダの日刊紙テレグラフが、4人の元チームメートの名前と、彼らがシーズン後に6ヶ月の出場停止処分を受けることをすっぱ抜いた。その4人とは現在ツール・ド・フランスを走っている選手だったから、騒ぎはひときわ大きくなってしまった!!

7月に入ったばかりのフランスには、いまだ本格的な夏は到来していない。新城幸也が果敢なエスケープを見せた第4ステージは一瞬の通り雨を除いて、例外的に見事な青空に恵まれた。前夜の敢闘賞が赤ゼッケンをつけて走ったこの日は、またしてもプロトンはたくさんの雲に付きまとわれた。

そして例年ならツールの平坦ステージ序盤を活気付けてくれるはずの飛び出し合戦も、いまだに影を潜めたまま。前日同様、ゼロkm地点であっさりと4人のアタックが決まる。マチュー・ラダニュ(FDJ・ビッグマット)の飛び出しに反応して、ジュリアン・シモン(ソール・ソジャサン)、パブロ・ウルタスン(エウスカルテル・エウスカディ)、ヤン・ヘイスリンク(コフィディス ルクレディアンリーニュ)が合流。2人のフランス人、とりわけ地元ノルマンディー出身のシモンを含む——今大会初めてミカエル・モルコフ(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)の姿が前方になかった——エスケープ集団は、最大5分40秒のリードをメイン集団から許された。

トライしたのはいいけれど、この第5ステージは大会6日目にして初めての「山岳ポイント」のないステージ。……だからこそモルコフは休養を取ることが出来たのだが、つまりは完璧なるスプリンター向けスプリントである。通算26日目のマイヨ・ジョーヌ生活を満喫するファビアン・カンチェラーラ(レディオシャック・ニッサン)は、集団コントロールの全権をスプリントチームに委ねて、自らはチームメートに守られながら落車やアクシデントに注意するだけでよかった。

ぎりぎりの追いかけっこ

スタート直後も、ステージ中もひどく静かで少々退屈だったけれど、その代わりに最終盤にはとびきり熱い戦いが待っていた。

残り30kmで2分。20kmで1分15秒。残り10kmで45秒。ちなみに自転車界ではいわゆる「10km=1分」と言われているから(つまり平坦ステージで残り10kmで1分あればギリギリ逃げ切れるかもしれない、という意味)、両軍にとって少々微妙な数字だったかもしれない。しかしプロトン制御にいまだ慣れていないロット・ベリソルが追走の計算を間違えてしまったのか、単に追走スピードが遅すぎたのか、それとも逃げる4人の逃げ脚が速かったのか。とにかく協力体制を崩さずに走り続ける先頭集団の、粘りは驚異的だった。

集団落車も追走にブレーキをかけた。残り2kmでタイラー・ファラー(ガーミン・シャープ)、トム・フェーレルス(チーム アルゴス・シマノ)、ペーター・サガン(リクイガス・キャノンデール)、ヨーヘニ・ウタロービッチ(FDJ・ビッグマット)といった主要チームのスプリントリーダーたちが、まとめて地面に叩きつけられたのだ。

今大会はスプリンターの数が多すぎる……、という意見が多く聞こえてくる。第3ステージにホセホアキン・ロハス(モヴィスター チーム)が落車で、今ステージ中にマルセル・キッテル(チーム アルゴス・シマノ)が体調不良で——プロローグの日の夜から下痢と嘔吐を繰りかえし、青白い顔でなんとかしがみ付いていたのだが——途中リタイアしているから、少しだけライバル争いは緩和したかもしれない。それでもマーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)を筆頭に、大量のピュアor非ピュアスプリンターがゴール前で激しいポジション争いを繰り返す。こうして恒例のように、この日も集団落車がプロトンを襲った。

残り2kmで15秒。プロトンはほんのすぐ背後に迫っていたというのに、彼らは最後の力を振り絞った。ヤン・ヘイスリンク(コフィディス ルクレディアンリーニュ)が単独アタックを仕掛けただけでなく、ほかの3人も決して諦めなかった。

「あまり難しいことを考えずに飛び出した。勝利まであとほんの少しだった。でもボクにとって、ステージが500m長すぎたよ」とヘイスリンク。地元ノルマンディーのスタートステージに思いいれが強かったシモンは「最後の数百メートルまで協力して走れば、逃げ切れたはずだと思うんだ。それが残念だった」と悔しがる。また2007年大会で「ロングエスケープ→ゴール前400mで吸収」の経験を持つラダニュは、今回は「ロングエスケープ→ゴール前250mで吸収」というよりひどい敗北を味わった。

「本当にうんざりだ。ツールで2度もこんな目にあうなんて。逃げ中はきっちり力配分に気を使ってきた。タイム差が4分以上に広がった後は、他の3人にあまりエネルギーを使いすぎないように声をかけた。エスケープというのは、猫とネズミの追いかけっこみたいなものなんだ。そしてゴール20kmで、ちょっと厳しいけれど可能性はある、と考え始めた。ゴール前3kmで、逃げ切れるぞ、と確信した。ゴール前300mで、勝てる、と思った。だけどほんの50m先で、吸収されたんだ。がっかりさ」

G vs C : 2−1

この日もロット・ベリソルが列車を走らせていた。気になるカヴは……。アンドレ・グライペル(ロット・ベリソル)に言わせると「どうして全てをカヴェンディッシュを基準に考えるのか?」となるわけだが、とにかく前夜は落車でチャンスを逃してしまったカヴェンディッシュは、この日はなんと自家用車で乗り付けた。

なんでも総合優勝を目指すブラドレー・ウィギンス(スカイ プロサイクリング)の発案だという。2日後にいよいよ始まる山の戦いに控えて、チーム全体がプロトン前方にいることが好ましいのではないか。ウィギンスの保護と、カヴェンディッシュの牽引とを、兼ねられるのではないか。こんなリーダーの慈悲深い一声で、世界チャンピオンは2012年ツールで初めてチームの仕事の恩恵に浴したのだった。おかげでゴール前2kmの落車に巻き込まれることもなく、集団スプリントへと好ポジションで飛び込むことができた。

しかし、最も警戒すべきライバルは、トレインに手厚い世話を受けていた。カヴが「ボクをスプリントで倒せるのは彼だけさ」と大絶賛する親友マシュー・ゴス(オリカ グリーンエッジ)が最終コーナーへ先頭で突っ込み、ついでにエスケープ集団を全員吸収する働きをみせたが、地元ベルギーでの開幕以来連日働きどおしのロット勢がきっちり先頭を取り戻した。スプリントを切る直前になっても、アシストを3枚も保持していた。第2ステージでうっかり見逃してしまった「ただ乗りも」認めなかった。

「今大会のベストスプリントチームを保持しているのはボクだ。全員が非常に良く働いているし、協力体制も上手く行っている。レース時の瞬時の決定なども、問題なく機能しているんだ」

グライペルは2連勝。落車やイレギュラースプリントの犠牲になったわけでもないカヴェンディッシュは、屈辱的な5位に沈んだ。これにて因縁の2人、グライペル対カヴェンディッシュは2対1。ちなみにグライペルはマイヨ・ヴェール争いには興味がないそうだが(「第2ステージは足慣しのつもりで中間スプリントを打ったんだ」とのこと)、いまだ1勝しか上げられていない「世界最強スプリンター」のマイヨ・ヴェールポイントをあっさりと上回ってしまった。もちろんマイヨ・ジョーヌはカンチェラーラのもとに留まっている。

本格的な山岳激戦が始まるまであとわずか。フランス気象庁によると、この先プロトンが進む道には、雨と雷が待ち受けている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ