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7月の終わりに
ツールがパリに夏をつれてきた。数日前までレインコートを着込んでいたパリジャン&パリジェンヌたちは、プロトンの到着と共に、ようやくきらきらと降り注ぐ太陽の光を楽しんだ。3週間前にリエージュをスタートした198人は、153人にまで数を減らしていた。一回り小さくなった集団の真ん中には、マイヨ・ジョーヌが太陽よりも強烈に輝いていた。
長い旅を名残惜しむように、120kmの短い旅は、ゆっくりとした歩みで始まった。最終日のもはや恒例行事となっている4賞ジャージ記念撮影やシャンパンタイムを、選手たちは思う存分満喫することが出来たはず。なにしろ3分21秒差でマイヨ・ジョーヌを着用するブラドレー・ウィギンス(スカイ プロサイクリング)の絶対的優位は、もはや揺るがしようもない。2位クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)や3位ヴィンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール)も、グランツールでは初めてではないけれど、ツール表彰台を確実にしていた。
ティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシングチーム)は全21日中、わずか2日間を除いて純白のジャージを守り続けた。また山岳賞は第17ステージで早くもトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)の手に落ちていたし、ポイント賞は第18ステージで初出場ペーター・サガン(リクイガス・キャノンデール)の受賞が決まっていた。もはやスプリンターたちは中間ポイントに躍起になる必要はなく、ただ、世界で最も美しいシャンゼリゼ大通りでの区間勝利の栄光だけを夢見た。
大ベテラン、最後の炎
数時間後には「引退選手」と呼ばれることになる39歳ジョージ・ヒンカピー(BMCレーシングチーム)が、プロトンの先頭で、シャンゼリゼ大通りへと滑り込んだ。すると、そこまでサイクリングモードでのんびり走っていたプロトンが、突如、超高速バトル集団へと変身をはたす。「今まで2回ツールを走ってきて、今年が3度目のシャンゼリゼでしたけれど、今までで一番速かったです!」と新城幸也(チーム ユーロップカー)も断言したほど。
理由のひとつは……約2ヵ月後に40歳になるイェンス・フォイクト(レディオシャック・ニッサン)と3ヵ月後に41歳になるクリストファー・ホーナー(同)——現地のレースコメンテーターのマンジャス氏は「もしかしたら2人にとって人生最後のツール・ド・フランスとなるかもしれません」と連呼した——が、必死の試みを繰り返したこと。特にセバスティアン・ミナール(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)とルイアルベルト・ファリアダコスタ(モヴィスター チーム)との共同戦線を張ったフォイクトは、その強力なルーラーの脚で、迫り来る大波に必死の抵抗を続けた。
ただし背後では栄光のシャンゼリゼ大集団ゴールへと向けて、豪華すぎるほどのスプリントトレインが2本組みあがりつつあった。全身グリーンのサガンのために総合3位ニーバリを含むリクイガス黄緑集団が隊列を整え、そして虹色アルカンシェル姿のマーク・カヴェンディッシュのために、マイヨ・ジョーヌ自らが特急列車を走らせた。さらにロット・ベリソルチームやオリカ グリーンエッジやチーム サクソバンク・ティンコフバンク、アルゴス・シマノ等々も追走・吸収への協力を惜しまなかった。そしてゴール前3km、巨大なコンコルド広場からシャンゼリゼへのラストストレートと突っ込んでいくちょうどそのときに、大ベテランのもしかしたら最後のアタックは幕を閉じた。
So British
「コンコルド広場からシャンゼリゼへと入る場所というのは、石畳でガタガタしているし、カーブもきつい。最終日ゴールを勝とうと思ったら、あそこを先頭で切り込んでいかなきゃならない。かなりの怖いもの知らずじゃないと、無理ですね」
シャンゼリゼで勝つには、上記が新城幸也の分析だ。豪華、マイヨ・ジョーヌのトレインに引かれたマーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)は、そのとおり大胆不敵に、そして真っ先に最終直線へと突っ込んで行った。
「本当はゴール前300mで飛びだす予定だったんだ。でも斜め後ろからの風が吹いていたし、最後のカーブをあまりにも高速で曲がったものだから、その時点でスプリントを切ることに決めたんだ。賭けのようなものだたけれど、上手く行ったね!」
カヴェンディッシュにとって、2009年大会からシャンゼリゼでは負けなしの4連勝。世界チャンピオンジャージ「アルカンシェル」姿で、来るロンドンオリンピックでの金メダル獲得に向けて絶好調ぶりを感じさせた。もちろんJ SPORTSの現地生中継に顔を出してくれた新城幸也も、ツール終了2日後にロンドンへ発つ。
「イギリス自転車界にとって重要な日となった」とカヴが語ったように、英国人がステージを勝ち、英国人がマイヨ・ジョーヌを獲り、英国人が表彰台の2番目の位置に立った。パリの大通りはひどくブリティッシュな色をまとい、99回目のツールは幕を閉じた。つまり来年2013年は、記念すべき第100回大会。ツール・ド・フランスがいまだ足を踏み入れたことのない、美しき島コルシカの旧港が、プロトンの上陸を待っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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