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【Cycle*2021 パリ〜トゥール:レビュー】チームの献身と自身の努力を今度こそ勝利へと結びつけたアルノー・デマール「すべてが報われた。勝利に酔いしれてる」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか【ハイライト】
パリ〜トゥール|Cycle*2021
終わり良ければ、すべて良し。秋の柔らかな陽光がぶどう畑に降り注ぐ中、自身にとっての2021年シーズン最終戦に、アルノー・デマールが力強い勝利をもぎ取った。スプリンターズクラシックから転身して4年目のパリ〜トゥールが、プロトン屈指のスプリンターの手に落ちた。
仲間と抱き合って喜ぶデマール
「本当に嬉しい。すごく感動してる。この数ヶ月、成功のない日々を過ごしてきたし、必ずしも自分が願うような脚もなかった。でも、今日は、本当に理想的な1日となった」(デマール)
ロワール渓谷には、いつもと変わらず、強い追い風が吹いていた。スタート時間はあえて3分後ろにずらされたが、序盤に逃げ出した3人の後方では、猛烈なスピードレースが展開された。グルパマ・FDJ大胆な横風分断を仕掛け、ライバルたちにたっぷりと脚を使わせた。
かつてのスプリンターズクラシックは、残り50km、「ぶどう畑の小道」……つまりは未舗装路へと走り込んだ。突入と同時に、朝からの逃げを飲み込みつつ、大量37選手が前方へと駆け上がる。中でもスタン・デウルフとフレデリック・フリソン、さらにはフランク・ボナムールが、まんまと先行を開始した。
7つの短い上りと、9つの土の道が、めまぐるしく次々と押し寄せた。砂利でパンクが相次ぎ、細くうねるようなカーブでは、集団は幾度も細かい粒に弾け飛んだ。
先を急ぐ3人の背後で、再び大きくなったプロトン内では、やはりグルパマが勢力的にレースを作り続けた。常時なら「最終発射台、もしくはそのひとつ前」のラモン・シンケルダムが、猛烈に踏み倒した。4つ目の上りで、昨大会覇者カスパー・ピーダスンはたまらず脱落した。
続いてヴァランタン・マドゥワスが平地でも、坂道でも、舗装路でも、未舗装路でも、繰り返し加速を強いた。ジュリアン・アラフィリップの世界選手権2連覇の立役者の、とてつもない揺さぶりに、欧州個人TT2連覇シュテファン・キュンクも呼応したものだから、集団はみるみるうちに削られていく。
残り17km、この日6番目の上りで、マドゥワスが何度目かの攻撃に転じた。ただボブ・ユンゲルスとヤスパー・ストゥイヴェン、ロジャー・アドリア、マティス・ルーヴェル、そしてグルパマのエーススプリンター、デマールだけが、共に戦いを続けることを許された。
マドゥワスとデマールが滑り込んだ追走集団では、当然のようにグルパマが仕事に精を出した。アドリアが単独で追走に飛び出すと、2人は回収に力を尽くした。合流後に走り込んだ最後の未舗装路では、マドゥワスが持てる力をすべて尽くした。フィニッシュまで12kmを切ると、ライバルたちが早くもお見合いを始めてしまったが……デマールはためらわず前を引いた。
ぶどう畑を土埃をあげながら走る選手たち
そして残り10.5km。この日最後の坂道で、デマールが鉄槌を振り下ろした。2016年ミラノ〜サンレモ覇者の猛烈なスピードアップ。平坦巧者が見せた坂道での爆発的な加速に、ついていけたのは、ただ2021年春の同大会覇者ストゥイヴェンひとりだけ。フリソンがパンクし、2人に数を減らした先行組を、いよいよ本気で追いかけ始めた。
2対2の追いかけっこ。残り10kmの時点で差はわずか12秒。しかも後方の2人は超一流。だからこそ、誰もが、それほど苦労せずに前を捕らえるだろうと考えた。しかし市街地で繰り広げられた猛チェイスは、想像以上に困難を極めた。残り5kmで10秒差。残り2.5kmでも……相変わらず10秒差。
「フィニッシュが近づくに連れて、本当に前に追いつけるのかどうか不安になった。ほんの目の前に2人は見えているのに、ずいぶんと長い間、10秒前後で延々と足踏みを続けた。前の2人はどうか早く顔を見合わせてくれ……と願ったさ」(デマール)
ラスト1kmを示すフラムルージュを5秒差で抜けた時点でも、ボナムールとデウルフの協力体制は崩れていなかった。しかし左にカーブを曲がり、かつては2600mの長さを誇ったグラモン大通りに滑り込むと……デマールの望んでいたように事が進んだ。残り600m、2人はついに顔を見合わせる。脚が止まった。
デマールは一切ためらわなかった。スプリントに向けて、ストゥイヴェンが自らの後輪から動かなくなったが、構わず前を追いかけた。残り350mで2人を完全にとらえた。そのまま勢いを殺さず、ラインまで250mを残し、力強くロングスプリントに打って出た。
「穴を埋めるために自らイニシアチヴを取った。その直後に250mの表示板が目に入って、目の前が大きく開けていたから……全力で加速を切った。本気で勝ちを逃したくなかった。スプリントをもぎ取りに行った」(デマール)
背後でもがくボナムールとストゥイヴェンを悠々と退け、デマールがフィニッシュラインを先頭で駆け抜けた。チーム全体の仕事と、自らの渾身の努力を、今度こそ勝利へと結びつけた。2020年は年間14勝、ジロ区間4勝と大暴れし、2021年も6月までで8勝と絶好調を保ってきたピュアスプリンターにとって、6月11日以来4ヶ月ぶりにつかみ取った栄光だった。
最後のスプリントをもぎ取ったデマール
「シーズン中盤はすごく苦しかった。ツールの途中リタイア、ブエルタでの無勝利……。でも妻はいつだって支えてくれたし、チームのみんなが僕を信じ続けてくれた。僕もプロとして、決して投げ出さず、努力を続けた。いつか辛い日は終わりが来ると分かっていた。そして今日、すべてが報われた。勝利に酔いしれてる。最高だね」(デマール)
ちなみに旧パリ〜トゥールを2013年3位、2016年2位と逃してきたスプリンターにとって、新パリ〜トゥールでの勝利は、どうやら少々予想外でもあったようだ。
「旧大会もかなり大きな意味を持つレースだったけれど、ぶどう畑の小道のおかげで、戦いはよりいっそうハードになった。新しいコースは決して僕向きとは言えなかった。スプリンターにとってはかなりきついんだ。でも、今日は、望んでいたとおりにすべてが進んだ」(デマール)
ボナムールは、大躍進の2021年を、2位で締めくくった。初出場ツール・ド・フランスではスーパー敢闘賞に輝き、8月のブルターニュ・クラシックでは、ワールドツアーのワンデーレースで初めてのひと桁台6位に食い込んだ。チーム内でリーダーの地位に昇格し、そして迎えた「落ち葉のクラシック」での表彰台乗り。
「ちょっとがっかりしてる。最後は顔を見合わせてしまったし、デマールがとてつもない勢いで上がってきた。残念だよ。でもデマールは偉大なるチャンピオンだ。負けた相手が彼だったことで、失意もほんの少し薄まるというものさ」(ボナムール)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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