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【Cycle*2021 ミラノ~トリノ:レビュー】イル・ロンバルディア制覇に向けて最高の仕上がりを披露したログリッチ「最後の1戦は、最大の1戦だ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか【ハイライト】
ミラノ〜トリノ|Cycle*2021
かつてないほど絞り込まれた肢体で、しなやかに急坂を駆け上がった。秋の古都を見下ろすスペルガの丘で、プリモシュ・ログリッチが栄光をつかみとった。4日前のジロ・デレミーリャでの急坂フィニッシュに続くワンデー2連勝。3日後に訪れる2021年最後のモニュメント、イル・ロンバルディアへ向けて、最高の仕上がりを披露した。
トロフィーを掲げるログリッチ
「最高の結果だ。天気は良かったし、レースも素晴らしかった。そうそうたる強豪とワンデーで渡り合い、勝利を得られたのも素敵だった」(ログリッチ)
序盤から6人が先頭集団を作り上げ、3分ほど先を逃げていた。ポー平原に描かれたコースは、残り25km以外はほぼ平坦で、特別な難所など存在しなかった。しかし、シーズン末のプロトンは、道の終わりに聳える急坂×2回まで待ち切れなかった。
残り60km。進路が南から西へと90度変わるタイミングを、北クラシック精鋭軍は見逃さなかった。ドゥクーニンク・クイックステップがとてつもない加速を切ると、集団をずたずたに切り裂いた!
カオスの中、分断を逃れたのはわずか5チーム・19人だけ。イスラエル・スタートアップネーションとUAEチームエミレーツは4人ずつ、ユンボ・ヴィスマは3人、モビスターは2人を首尾よく送り込んだ。2年前の同大会覇者マイケル・ウッズに、秋のイタリアワンデー転戦は初体験というタデイ・ポガチャル、後の勝者ログリッチ、41歳いまだ絶好調アレハンドロ・バルベルデと、それぞれのエースを忘れずに前へと連れて行った。
もちろん仕掛け人のウルフパックは、大量6人で前を猛烈に引っ張った。2枚目のアルカンシェルをお披露目にやって来たジュリアン・アラフィリップと、4日前のエミーリャ一周でログリッチに次ぐ2位に食い込んだジョアン・アルメイダを守りつつ、アシスト4人が風の中で先頭交代を繰り返した。前を行く逃げ選手をあっという間に回収し、後方のライバルたちにはすぐに50秒近い差をつけた。
つまり大量のチームが罠にはまった。イネオス・グレナディアーズやトレック・セガフレード、アルケア・サムシックは慌てて追走に乗り出した。しかしタイム差は思うように縮まらない。20kmほど先でアスタナ・プレミアテックも参戦し、さらにはコフィディスやクベカ・ネクストハッシュ、AG2Rシトロエンもスピードアップに加わった。
しかしドゥクーニンク隊列はますますペダルを踏む脚に力を込め、距離は相変わらず開いたまま。残り24km、スペルガ大聖堂への1度目の上りが始まる時点でも、いまだ後続は23秒の遅れを引きずっていた。
全長4.3kmの坂道で、数人のエースたちは、凄まじい努力の果てに先頭集団へのブリッジを成功させる。2kmほどの登坂でアダム・イェーツが真っ先に追いつき、ナイロ・キンタナも後に続いた。マイケル・ストーラー、パヴェル・シヴァコフ、ダヴィド・ゴデュも合流。さらにはディエゴ・ウリッシやバウケ・モレマ、アレクサンドル・ウラソフ等々も……。
追い付いてきたライバルたちに、ウルフパックは息つく暇を与えなかった。ファウスト・マスナダは上りで激しい速度を強いた。マウリ・ファンセヴェナントは頂上間際で単独アタックをかますと、続く下りを利用して集団を大いに翻弄した。
いまだ3人を残すUAEが、仕事を請け負った。追い付いてきたウリッシが平地で力を尽くし、約25秒差で2度目のスペルガ登坂に突入すると、ラファウ・マイカがクライマーの脚を見せつけた。
アルカンシェルをお披露目したアラフィリップ
その後輪にぴたりと張り付き、牽制役を務めたのがアラフィリップだ。世界選手権から10日ぶりの実戦で、レース半ばで自分には勝てる脚がないと判断。同僚たちに「今日はジョアン(アルメイダ)で行こう」と告げていたのだとか。
そんなマイカとアラフィリップの背後に、小さな空間が出来上がる。フィニッシュまで残り4.5km。イエーツが穴を埋めに走った。
そして、そこからのイェーツは、ほぼ単独で、ひたすら先頭でハイペースを刻んだ。ポガチャル、アルメイダ、ログリッチ、ウッズ、バルベルデという豪華ライバル勢がついてきたが、構わず前を突き進んだ。残り4kmでファンセヴェナントを追い抜いた。残り3.2kmでは、ウッズとバルベルデを後方へと送り返した。
さらに残り2.8km、平均勾配9.1%の坂道の、最大14%ゾーンに差し掛かると……残す3人さえ一気に振り払った。ただほんの一瞬ジグザグ走行を見せたログリッチは、すぐにイェーツの後輪へと戻ってくるのだけれど。
2人になってもイェーツの毅然たる態度は変わらなかった。ポガチャルとアルメイダを確実に突き放すために、残り2kmを切ると時々はログリッチも前を引いたが、イェーツは主導権を握る方を好んだ。なにしろスプリント対決でログラを退け、優勝をつかみ取ったことはいまだかつて1度もない。だから過去の教訓から、ギリギリまで待たずに、早めの仕掛けを試みた。残り1kmで軽く、残り500mでは大きく加速を切った。
イェーツとログリッチの一騎打ち
しかし上りスプリントにかけては、やはりログリッチが一枚上手だった。しかも分断後にはチーム総出で猛チェイスし、1度目の登坂では自力で2kmの穴を埋め、かろうじて下りではシヴァコフが制御してくれたものの……最終盤でも惜しみなく体力を使ったイェーツと比べて、平地では身体の大きなトビアス・フォスとミハエル・ヘスマンにがっちりと護衛され、なんら危なげなくここまで走り続けてきたログリッチには、十分すぎるほどのパワーが残っていた。
「最後のひと押しに向けて、脚がどれだけ残っているかなんて、決して予めわからない。時には上手くいくし、時には上手くいかない。そして、今日の僕には、脚があった」(ログリッチ)
決して自分向きではない世界選手権を48位で走り終えた後、ログリッチは「イル・ロンバルディアだけじゃなく3戦全部を勝つために走るよ!ホールパッケージだ!」と笑顔でフランドルを立ち去った。3つのうち2つは、宣言通りに制した。残すは1つ。
「最後の1戦は、最大の1戦だ。僕らの前に、素敵な挑戦が待ち受けているよ」(ログリッチ)
4日前はフィニッシュ500mで置き去りにされ4位に沈んだイェーツは、この日は2位で満足するしかなかった。アルメイダはエミーリャ→ミラノ〜トリノと2戦連続で表彰台に乗り(2位→3位)、5位ウッズは同じく3位→5位と好成績を並べた。エミーリャではなく、前日のトレ・ヴァッリ・ヴァレーゼで3位に入ったポガチャルは、やはり4位で好調さを証明した。土曜日のクライマックスに向けて、みな仕上がりは上々だ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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