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サイクル ロードレース コラム 2021年9月21日

【Cycle*2021 UCI世界選手権大会 男子エリート 個人TT:レビュー】トップガンナが2年連続アルカンシェル獲得!ベルギー勢の追随に「彼らの存在が、僕を限界まで追い詰めた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ポディウム

ファンアールトとエヴェネプールに挟まれて表彰台の真ん中に立つガンナ

時速54.355km。1994年に開始した世界選手権男子エリート個人タイムトライアルで、フィリッポ・ガンナが大会史上最速時速を叩き出した。開催国ベルギーの2人のチャンピオンを退け、2年連続で世界王者の座に上り詰めた。世界新記録で金メダルを手にした東京五輪トラック団体追抜に続き、2021年2つ目の、輝かしいタイトルを手に入れた。

「本当に長い1年だった。でも東京五輪で金メダルを獲れたことが、僕にとっては非常に大きかった。さらには今日、勝利を祝えた。このジャージを守ることができたなんて最高だ。来年も好調で乗り込みたい。3度目の勝利を手に入れるためにね」(ガンナ)

新型コロナウイルス禍を乗り越え、世界84カ国のトップサイクリストたちが、自転車大国ベルギーへと集結。初日の男子エリート個人TTでは、幸いにも雨にも風にも邪魔されず、39カ国55選手が己のスピードを競い合った。

真っ先に圧倒的なトップタイムを叩き出したのは、開催国ベルギーで生まれ育ったレムコ・エヴェネプールだった。2年前の世界個人TT銀メダリストは、全長43.3kmのコースを、48分31秒17で駆け抜けた。17番スタートの21歳は、最後の2人が走り終えるまで、堂々とホットシートを温め続けた。

表彰台の座が常に安泰だったわけではない。最後から4番目にスタートしたカスパー・アスグリーンが、13.8km地点の第1中間計測で、エヴェネプールのタイムを6.98秒も上回る快走を披露。その直後にはシュテファン・キュンクが、さらに3.86秒も記録を塗り替えた。

しかしベルギーチームで走るデンマーク個人TT王者アスグリーンも、ほんの10日前に2年連続で個人TT欧州チャンピオンとなったキュンクも、33.3km地点の第2中間計測では、逆にエヴェネプールに大きく遅れを取ることに。その後アスグリーンはスピードを盛り返すも、最終的にはウルフパックの仲間に2.3秒及ばなかった。「100%の準備で臨んだ」というキュンクは、むしろその後もずるずるとタイムを失い、最終的に両者から20秒以上も遅れてフィニッシュラインを越えた。

ただ神童エヴェネプールの記録は、異次元のバトルを繰り広げたラスト2人に、最終的に塗り替えられることになる。

最後から2番目に走り出したワウト・ファンアールトは、第1計測を、桁違いのスピードで駆け抜けた。同胞エヴェネプールを28.44秒も、キュンクを17.6秒も上回るタイムだった。最終滑走ガンナさえ、6.78秒も突き放した。

10日前の欧州選手権個人TTを2位で終えた屈辱から、今大会は脇目も降らずストップウォッチとの孤独な戦いのみに焦点を合わせてきたガンナは、ここから段違いにスピードを上げていく。

もちろん東京五輪後は3週間の高地トレーニングで、むしろ自慢の爆発力を磨き上げる方に専念した(その結果がツアー・オブ・ブリテンの区間4勝)というファンアールトだって、同様に勢いを強めた。第1計測までと比べて、走行時速を約2.5km近くも引き上げている。ただしガンナは3km以上も上げた。第1計測から第2計測までの19.5kmを、なんと約54.8km/hでぶっ飛ばした。

第2計測地点も、ファンアールトの首位通過に変わりはなかった。しかし両者のタイム差は、わずか0.84。フィニッシュまで残すは10km。

ベルギーを、世界を熱狂させる、素晴らしいクライマックスだった。世界選手権史上初めて、男子エリートTTが大会初日の日曜日に行われたおかげで、大勢のファンたちが超一流の一騎打ちを余すところなく見届けた。鈴なりの沿道からは地元ファンアールトへ無数の応援が飛び、いわば敵地を突っ切るガンナにも、同じように愛ある歓声が贈られた。

「最後のパートは厳しかった。石畳ゾーン(残り9.4km)の後、全力で行こう、ペースを上げよう努力したけれど、あれ以上速くは走れなかった」(ファンアールト)

ベルギー人の走行時速が54km以下まで落ちた一方で、イタリア人の勢いは最後までほぼ衰えなかった。ファンアールトが47分53秒20の努力を終えた約1分25秒後、ガンナがフィニッシュラインへと飛び込んだ。記録は47分47秒83。5秒37差で、2人の立場は入れ替わった。「トップガンナ」が、2年連続で、アルカンシェルジャージを身にまとった。

「地元で優勝できていたら、2人にとっては、きっと素晴らしいことだったに違いないんだ。でも僕だって本気で勝ちたかった。彼らにはお礼を言いたい。彼らの存在が、僕を限界まで追い詰めた。彼らがいたからこそ、僕はこの結果を手にすることができた」(ガンナ)

2年連続で、ファンアールトは、表彰台の上から2番目の場所に収まった。ついでに言うと昨世界選手権ロードレースも銀、五輪ロードレースも銀。

「これほどの僅差で2位というのは、少し残念だ。しかも、また、銀メダル。また1つ増えた。決して愉快ではないね」(ファンアールト)

しかし持久力も瞬発力も登坂力も兼ね備えるジェネラリストが、世界一のピュアスペシャリスト相手に負けただけ。むしろ3位エヴェネプール(43秒34差)と揃って、ファンアールトは自らの好調さを改めて証明した。次の日曜日……ロードレースでは、間違いなく金メダル大本命だ。

ガンナの世界選手権は早くも終了したが、同僚のメダル獲得を喜ぶ4位アスグリーンや、フラストレーションが隠しきれない5位キュンクもまた、多くの選手たち同様、目標をロードレースへと切り替えた。

6位トニー・マルティンだけは、次の日曜日を、一般人として迎える。2003年ジュニア時代から数えて通算15回目の世界選手権個人タイムトライアルは、人生最後の孤独な戦いでもあった。史上最多タイの優勝4回、表彰台3回と輝かしい一時代を築き上げた36歳は、22日水曜日の男女ミックスリレーを最後に、15年間のプロ人生に幕を降ろす。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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