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【Cycle*2021 エシュボルン=フランクフルト:レビュー】グランツール区間通算3勝のヤスパー・フィリプセンが初出場にして栄冠掴む「チームが一体となり支えてくれた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか大集団スプリントを制したヤスパー・フィリプセン
60年目の記念すべきレースは、いわゆる伝統に則って、大集団スプリントで幕を閉じた。ヤスパー・フィリプセンが初出場初優勝をつかみ、ベテランの常連が表彰台の両脇を飾った。
「どうやって勝てたのか自分でも分からない。レース中盤で体力が空っぽになり、最終周回は脚が痙攣し始めた。でも今日の僕は、意欲を、決して失わなかったんだ」(フィリプセン)
スタートから4kmほどで、5人が逃げ出すと、後方ではスプリンターチームが制御に乗り出した。まずはUAEチームエミレーツが主導権を握った。2014年から2018年まで同大会4連覇(2015年大会は中止)のアレクサンダー・クリストフのために、静かにリズムを刻んだ。
コース上に全部で8つ待ち構える起伏に、スタートから30kmほど先でいよいよ挑み始めると、アルペシン・フェニックスやボーラ・ハンスグローエが前線へ人員配置。最後の勝利が2日前という絶好調フィリプセンと、前回覇者にして地元ドイツの星パスカル・アッカーマンのために勢力的に作業を続けた。最大6分半まで広がったタイム差は、その後しばらくは3分半ほどに保たれた。
ただし、スプリントフィニッシュへ、全会一致で突き進んだわけではない。時には小さな謀反も見られた。上りを利用した飛び出しや、チーム単位でのスピードアップ。なにより、全部で4度通過する急坂マンモルシャインの3度目で……マイケル・マシューズが猛烈なアタックを打った。集団フィニッシュを待ってもいいはずの上れるスプリンターが、残り61km、自ら攻撃に転じたのだ!
本人にとっても、チームバイクエクスチェンジにとっても、決して奇襲ではなかった。そもそも序盤からの逃げを作り上げたのは、ルーク・ダーブリッジだった。上りではチームのクライマーたちが強烈なペースアップを断行した。飛び出したマシューズに、前で待っていたダーブリッジは最後の力を分け与えたし、すぐさまルカス・ハミルトンが追いつきサポートに徹した。
もちろんビッグネームの攻撃に、多くの強豪も飛び乗った。ディラン・トゥーンスにジャンルーカ・ブランビッラは、得意のパンチ力でスピードを上げた。サム・オーメンは、上れる俊足マイク・テウニッセンを連れて追い付いてきた。イスラエルとコフィディスも、大きなグループが遠ざかっていくのを察知すると、それぞれ上りに強いベン・ヘルマンスとサイモン・ゲシュケを送り出した。もちろんアルペシンも、ルイス・フェルファークをきっちり滑り込ませた。
スプリンター本人や、スプリンターのチームメートが揃った小集団は、逃げの残党を回収しつつ、最終的に16人にまで膨れ上がった。後方にすぐさま40秒ほどの差を押し付けた。乗り遅れたUAEが追走の責任を負った。ロット・スーダル、ボーラも、繰り返し前を引いた。
幸か不幸か、エシュボルン=フランクフルトの最後の上りは、残り45kmで終了する。自ずとタイム差は縮まっていった。さらに残り30kmで、道が完全に平坦になると、大部分の選手は吸収された。この夏ツール・ド・ランでプロ初優勝を手に入れ、直前のドイッチュラントツアーでは新人ジャージを持ち帰った絶好調23歳ゲオルク・ツィマーマンと、レース前半山岳ポイント収集に勤しんだガスプロム・ルスヴェロの同僚シモーネ・ヴェラスコに代わって、後半16人のグループ形成に果敢に動いたやはり23歳クリスティアン・スカローニだけが、最終周回コースに入っても抵抗を続けた。
しかし残り9km、すべての逃げは捕獲された。予定通り、6大会連続の集団スプリントフィニッシュへと、一行は突き進んだ。
すでにスタート直後から披露してきた通り、バイクエクスチェンジが攻めの姿勢を示した。7人全員で隊列を走らせた。ひたすら制御に徹してきたUAEチームエミレーツも、やはりトレインで前方へ競り上がった。コフィディスやボーラも激しい場所取りバトルを繰り広げた。
肝心のフィリプセンは、残り約2km、ただアレクサンダー・クリーガーに引かれてするする前へと浮上した。2度の鋭角カーブを巧みにこなし、混雑する最終ストレートでも最前線を突っ走った。地元ドイツの期待を背負うジョン・デゲンコルプが、真っ先にスプリントを仕掛けると、フィリプセンはすかさず後輪へと飛び乗った。あとは残り100mで、勝利へ向けて、最後の加速を切るだけでよかった。
「コース図から予想していたよりも、ハードなレースだった。それでも勝てたのは、チームが一体となり支えてくれたから。上りでもみんなが僕をサポートし、励まし続けてくれた」(フィリプセン)
ブエルタで2つ区間をさらい、同大会2日前にもフランドル選手権を勝ち取ったばかりの23歳は、フィニッシュラインで拳を天に突き上げた。過去7度出場で優勝1回、表彰台3回、トップ10圏内2回の32歳デゲンコルプと、6度の出場で優勝4回、表彰台1回、トップ10圏内1回という34歳クリストフの、いわゆるエシュボルン=フランクフルト専門家たちを下して、初出場初優勝を手に入れた。
またグランツール区間通算3勝のフィリプセンにとって、UCIワールドツアーカテゴリーのワンデーレースでは初勝利。秋のワンデークラシック連戦……特に10月3日パリ〜ルーベと10月10日パリ〜トゥールでは、新たな好成績が狙えそうだ。
一方で、それぞれモニュメント2勝ずつを誇るデゲンコルプとクリストフは、すでに来春のリベンジを誓う。「来年は5月の雨の中で再び参戦したいな……だって雨はいつだっていいものだからね」と、クリストフは5勝目に意欲的だ。
その前に、次の日曜日……雨に恵まれるかどうかはわからないが、2人はいつものチームジャージから国代表ジャージに着替える。また1日中チームメートと共に奮闘し、9位に終えたマシューズはもちろん、皮肉にも勝者フィリプセンと4位アンドレア・パスクアロンを除くトップ10圏内の全員が、世界選手権フランダース大会のスタートラインに並ぶ。
文:宮本あさか
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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