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【Cycle*2021 UCI世界選手権大会 男子エリート 個人TT:プレビュー】世界最速を決める戦い。43.3kmの全力疾走の先に、虹色の栄光が待っている。
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかディフェンディングチャンピオンのフィリッポ・ガンナ
世界各国から、最速の者たちが集結する。奪い合うのは世界王者の称号とマイヨ・アルカンシェル。43.3kmの全力疾走の先に、虹色の栄光が待っている。
レインボーウィークは一気に燃え上がる。個人タイムトライアル男子エリートから、2021年UCI世界選手権フランダース大会は幕を開ける。国別、男女別、年代別(男子はジュニア、アンダー23、エリート。女子はジュニアとエリート)で争われる世界大戦で、1994年大会から正式に個人独走種目は採用されたが、男子エリートのTTチャンピオンが真っ先に決するのはなんと史上初めて!
近年はむしろチームタイムトライアルから走り出すことが多かった。2018年までは男女別のUCIチームタイムトライアルで、2019年からは国別男女ミックスリレー(昨季は新型コロナウイルス禍の影響で中止)で。選手たちは一致団結して力を振り絞り、仲間と共に努力を称え合ってから、数日後に個人タイムトライアルを戦ったものだ。
しかし今年は順番が逆転。個人TTの3日後に、ミックスリレーが組み込まれた。おかげで欧州選手権……ミックスリレー優勝の翌日に個人タイトルをわずかな秒差でフィリッポ・ガンナが逃し……しかも個人覇者シュテファン・キュングの母国スイスは団体戦には出場せず……のような悩ましい状況は一切なし。個人の栄光を望むすべての選手が、個人戦に全力を尽くすことができる。
ディフェンディングチャンピオンにして、1年前から個人TT12戦7勝と凄まじい勝率を誇るガンナは、そもそも今大会は男女ミックスリレーには出場しない。1週間後のロードレースさえも不出場を決めた。東京五輪ではトラック団体追抜でイタリアに脅威の金メダルをもたらしたが、その1週間前の個人タイムトライアルは、5位に終わった。だから今世界選手権では、複数の目標を追いかけず、ただ個人タイムトライアルの世界タイトル保守のみに全神経を注ぐ。
五輪TTは0.4秒差の4位に泣いたが、2年連続で欧州チャンピオンの座を射止めたキュングは、3年連続の世界選表彰台を狙う(2019年はロードで3位、2020年はTTで3位)。もちろんブロンズ以外の色が欲しい。
この2人と共に世界最速の称号を奪い合うのは、間違いなく、開催国ベルギーの期待と責任を負うレムコ・エヴェネプールとワウト・ファンアールトだ。それぞれ世界選TTで銀メダルを持ち帰ったことのある2人は、どこの誰よりも全開で、母国の大会準備を終えた。
年齢的に見ればいまだアンダー23カテゴリー3年目のエヴェネプールは、東京から戻って間もなく8月中旬にステージレース総合1勝(+区間2勝)、8月末にワンデー2勝、直前の欧州選手権ではTT3位&ロード2位のダブル表彰台と、疲れ知らずの神童街道まっしぐら。史上最年少個人タイムトライアル世界王者となる可能性は、十分にある。
一方のファンアールトは五輪をロード銀メダル&TT6位で終えた後、約1ヶ月の休息を経て、ツアー・オブ・ブリテンで8区間中4区間勝利+総合優勝と大暴れ。昨秋の世界選TT&ロードレースのダブル2位をさらに上回る、ダブルアルカンシェルなるか。
残念ながら東京五輪個人TTメダリスト3人は不在。金プリモシュ・ログリッチは、ブエルタで2つのタイムトライアルを制しつつ総合優勝を果たしたが、世界選はロードレースだけに集中する。代わりにスロベニアからはツール総合2連覇中タデイ・ポガチャルが、生まれて初めて世界選個人TTに参戦。2020年ツール最終日前夜の個人タイムトライアルでの「逆転劇」はもちろん、今ツール5日目には平地TTで衝撃的な強さを発揮した22歳の、さらなる進化が見られるかもしれない。
長い迷いの時を抜け、東京で復活の銀メダルを手にした元TT世界王者トム・デュムランは、9月上旬のトレーニング中に交通事故。ひどく残念なニュースだが、オランダのベテラン、TTスペシャリストのヨス・ファンエムデンが奮闘してくれるはず。なにより女子五輪TT金ファンフルテン&銅ファンデルブレッヘンと共に、男女ミックスリレー2連覇が期待される。
また銅メダリストにして、世界選個人TT2回制覇のローハン・デニスも、どうやら今大会には乗り込まない。1年後の2022年に、2010年以来史上2度目となる世界選手権を主催するオーストラリアだが、フランドルでの男子エリートチームはロードレースだけに専念するようだ。
史上最多4度の世界選個人TTの栄光を誇る36歳トニー・マルティンは、2年ぶりの世界選手権個人タイムトライアルに乗り込んでくるし、同じく史上最多4回勝利ファビアン・カンチェッラーラの後継者と呼ばれる23歳シュテファン・ビッセッガーは、生まれて初めて「エリート部門」の世界大戦に参加する。
若い!と言えば今年の「U23版ツール」ツール・ド・ラヴニール総合2位の20歳カルロス・ロドリゲスや、ジュニア世界TT優勝1回、U23世界TT表彰台2回の23歳ブランドン・マクナルティ、さらにはアンダー23時代に世界選個人TTを3度制した「ポガチャルのTT指導役」ミッケル・ビョーク22歳などなど、未来のチャンピオンたちの走りにも注目したい。
気になるコースは、北海に面した町クノック・ヘイストから、ユネスコ世界遺産に登録されたブリュージュまでの43.3km。開催委員会によれば時速53km・約49分で駆け抜ける計算で、つまり道はほぼ平坦。直線道路も多く、いわゆるスペシャリストたちの本領発揮が期待される。ただしスタート直後には海岸道路を走るし、北海特有の強風が吹き付けた場合は……出走順によって大きな違いが生まれる危険性もはらむ。
日本の男子エリートからは、個人タイムトライアルへの出走予定はないが、女子エリートでは與那嶺恵理が、8大会連続でストップウォッチとの戦いへと挑む。
文:宮本あさか
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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