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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第21ステージ】王者の走りで最終ステージも制したログリッチがブエルタ総合3連覇!偉業達成に「信じられないね。クレイジーだ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかログリッチの総合優勝を喜ぶユンボ・ヴィスマ
3週間前に、ブルゴス大聖堂の前で今大会1枚目のマイヨ・ロホをまとったプリモシュ・ログリッチが、9月最初の日曜日、サンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂の足元でマイヨ・ロホを祝った。開幕と閉幕の個人タイムトライアルを制し、3年連続でブエルタ・ア・エスパーニャ総合制覇を成し遂げた。
「最高に素敵な1日だったし、素敵な3週間だった。すごく嬉しいし、チームみんなのためにも満足している」(ログリッチ)
3417kmの長く厳しい巡礼の終わり。山も悪天候も乗り越えてきた英雄たちが、今大会最後の33.8kmを、それぞれの思いを胸に孤独に駆け抜けた。
2015年ブエルタ総合覇者のファビオ・アルは、自転車選手として走る最後の時間を噛み締めた。昨夏ポーランドで生死をさまよう大落車を経験したファビオ・ヤコブセンにとっては、グランツールを走りきった事自体が「人生最大の勝利」だった。しかも区間3勝とポイント賞で、世界最速スプリンターとしての実力と名声を完全に取り戻した。
142人が出走した個人タイムトライアルで、ベストタイムはたったの3度しか記録されなかった。つまり第1出走のヨセフ・チェルニーが45分18秒で走り切り、59番出走のマグナス・コルトが44分16秒で更新し、そして最終出走のログリッチが44分02秒の優勝タイムを叩き出した。またコルトの20人後に走ったテイメン・アレンスマンが、44分54秒で区間3位に入っている。
いくつか総合順位の変動はあった。3週目に何度も果敢な攻撃を試み、総合9位まで浮上していたダビ・デラクルスは、区間11位の好走でさらに7位へとジャンプアップ。ただ8位に押しやられたセップ・クスは、ログリッチの総合優勝を支えつつ自身初の総合ひと桁台を成功させたし、落車で満身創痍のギヨーム・マルタンも、ツール総合8位・ブエルタ総合9位と高く安定した実力を再証明した。
若き2人は最後までスピードを緩めなかった。総合6位エガン・ベルナルはたしかに最年少3大グランツール全制覇は達成できず、区間も新人賞ジャージも手に入らなかった。しかし総合トップ10の中では2番目の好タイム(1分49秒差)で走り終え、「苦しく、しかし楽しかった」ブエルタを締めくくった。
総合5位と新人賞ジャージを守るため、なにより開幕前の宣言通り全21ステージ間で自分が倒した選手×1ユーロを環境保全団体に寄付するため、ジーノ・マーダーはこの日も全力疾走。無事に純白のジャージで表彰式に臨んだ24歳は、この日も111人を倒し、21日間の合計金額は3159ユーロに達した。
総合4位アダム・イェーツはちょっとしたサスペンスを演出した。猛烈なスタートダッシュを切ると、コース前半の上りをダンシングスタイルで勢力的に攻めた。総合で1分前差のジャック・ヘイグに対して、一時は30秒近いリードさえつけたほど。
ライバルにプレッシャーをかけ、打ち崩す作戦は、しかし失敗に終わる。第1計測地点で25秒あったリードは、第2地点で14秒に縮んだ。イェーツとは対照的に、常にエアロポジションで一定リズムを刻んだヘイグは、フィニッシュでは逆に26秒突き放していた。2018年ブエルタで、サイモン・イェーツの総合優勝を共に補佐した2人。人生初めてのグランツール表彰台を射止めたのは、ヘイグだった。
「ただただ感嘆している。僕がここにたどり着けるようサポートしてくれたすべての人に、ひたすら感謝したい。これは1年や2年で成し遂げられたものではない。15年近い練習と努力を積み重ねた成果なんだ。この先も同じように努力を続けていくだけさ」(ヘイグ)
今大会区間4勝目をあげたログリッチ
東京五輪個人タイムトライアル金メダリストは、黄金のバイクにまたがり、すべてを凌駕した。途中でうっかりコースを間違えそうになり……すでに1時間45分近くもホットシートを温めていいたコルトをドキドキさせたこともあったが、すぐに軌道を修正。最終的には14秒差でコルトを退けた。しかも最終盤には2分前にスタートした総合2位エンリク・マスをとらえ……文字通り坂道スプリントで、フィニッシュラインへ飛び込んだ!
「この個人タイムトライアルを、ブエルタの総合勝利をかけてプリモシュと争う必要がなくて、本当に助かったよ!今はチームのみんなと共に、素敵な夕食でお祝いしたい。そして明日からは、またシーズン最終盤に向けて練習を積んでいきたい。だって調子はかなりいいから、イタリアのクラシックに参戦したいんだ」(マス)
1日目と21日目、今大会2つの個人タイムトライアルは、こうしていずれもログリッチの手に落ちた。また第11ステージ上りフィニッシュと第17ステージ難関山岳フィニッシュを加えて、昨大会と同じく区間4勝。3度目のブエルタ出場で、早くも9勝を上げたことになる。現役としてはアレハンドロ・バルベルデ13勝(祝・2022年の現役続行発表)、ジョン・デゲンコルプ10勝に次ぐ3番目の記録だ。
つまりログリッチは、全出走選手に新たなタイム差を押し付けた。2位マスとの差は2分38秒から4分42秒に開いた。2019年大会を2分33秒差、2020年大会を24秒差で制したログリッチにとってはもちろん、21世紀のブエルタにおいても最大のタイム差だった。またトニー・ロミンガー(1992〜1994)とロベルト・エラス(2003〜2005)に次ぐ史上3人目のブエルタ3連覇を達成した。総合3勝とリーダージャージ着用36日数は、いずれも史上2位タイの記録で、1位タイまではあと総合1勝+ジャージ着用12日。
総合上位3選手
「信じられないね。クレイジーだ。時に大差で勝ち、時には僅差で勝つ。でも、勝利している限り、最高なのさ。数字や記録にこだわってはいない。常にベストをつくし、常に充実したレースをすることだけを心がけている。それでも、こういう立場に自らが置かれるというのは、名誉なことだ」(ログリッチ)
ちなみに第11ステージでも大逃げの果てに、フィニッシュぎりぎりでログラにとどめを刺され、最終日には区間4勝目のチャンスを阻まれたコルトだが、総合敢闘賞として最終日の表彰台に上がる栄誉を得た。1週目逃げ切り独走山頂勝利、2週目メイン集団スプリント、3週目逃げ切り小集団スプリント。3週間に渡り、3つの異なる勝利で、大会を彩った。
チームDSMも区間3勝を持ち帰った。特にマイケル・ストーラーは計6日間も逃げを打ち、山岳賞に輝いた。アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオは区間1勝に加え、レイン・タラマエ2日間+オドクリスティアン・エイキング7日間=9日間のマイヨ・ロホを満喫したし、新城幸也属するバーレーン・ヴィクトリアスは、総合3位、総合5位、新人賞、区間1勝、チーム総合首位……とたくさんの成果を祝った。
スペインの暑い夏休みが終わった。ジロ、ツール、ブエルタとシーズン3つのグランツールはすべて幕を閉じ、2021年自転車シーズンも残すは1ヶ月あまり。ただし、ここから先は、楽しくも激しいワンデーの激戦がいくつも待っている!
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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